• アクションラーニングの実際~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊺~

アクションラーニングの実際~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊺~

~アクションラーニングのポイントは振り返り

企業研修の中に取り入れだされている研修スタイルとして「アクションラーニング」があります。アクションラーニングは、組織開発(OD)を実施する際の実践的な方法としてご存知の方々も多いかと思いますが、アクションラーニングの基本について少々概観します。アクションラーニングのベースは「経験学習」であり、経験学習は以下のような意味がある学習とされています。

  • 当事者の生活/職場経験を重視し、かつ当事者が学習の主体性を持ちうる形で学習機会をつくりだすこと。ポイントは、当事者自らが、経験を創り出すように発達・自己成長させていくこと。

 

この具体的なプロセスの説明として最も使われるのがコルブの経験学習プロセスです。コルブの経験学習プロセスは「具体的経験(concreate experience)⇒内省的な振り返り(reflective observation)⇒一般化・概念化(abstract conceptualization)→新しい挑戦(active experimentation)」のサイクルによって説明されます。

日本ではかつて柳原光先生(立教大学キリスト教教育研究所所長:故人)が体験学習を説明する際に、EIAGプロセス「経験する(experience)⇒確認する(identify)⇒分析する(analyze)⇒一般化する(generalize)」を提唱しました。1970年代のことです。

最近は、このEIAGで説明される方にはあまりお会いしませんが、私にはなじみが深いモデルです。研究者はコルブのモデルとEIAGモデルは違うという説明をされるかもしれませんが、実務的にはそれほど差はないと思っています。

経験学習の定義でも分かるように、経験学習は「職場を単に仕事をする人たちの集まり」と捉えるだけでなく「学習機会を生み出す場」として捉えています。それをチームとしてやれるようになることが大切なことです。

そこで、どちらのモデルであっても最も大切で、かつ難しいのが「内省的な振り返り:省察」、「確認する」という局面です。この局面を分解すると以下のようになります。

  • 確認/描写する
    • やったことを事実ベースで追跡する。具体的に書き出す。
  • 比較/分析する
    • やったことの意味付けをする。なぜそのような振舞い/行動を選択したのか。
    • さらに、別の振舞い/行動を選択することはできなかったのか、それはなぜか。
    • 別の振舞い/行動を選択するとすれば、それはどういうものか。
  • 批判/新しい機会を探す
    • 現にやったことと、そうではない行動を比較することで、新しい視点を見出す。これが一般化/概念化につながる⇒「次はこうしよう」

~振り返りに対する第三者の介入

この中で最初の描写がなかなかに難しい。経験学習は個人の学習を念頭において語られていますが、個人で自分のやった事(行い)を、時間を遡って事実ベースで描写するというのはとても難しいものです。時間がたつと自分の行動はいろいろな色が付き、自分にとって都合がいいように解釈されてしまう事もあります。また、比較も個人で何の訓練もなしにやってみるのはなかなか難しい。

先日、あるお客様のところで振り返りプロセスを実施した時のことです。状況を確認し、自分の行動と、その行動を選択した基盤となる自分自身の思い込み(認識パターン)を探ろうとするセッションで、何人かはどうしても自分以外の「他者、仕組み、環境」に対する分析しか出てこないのです。

それは自分が現状をどう見ているかということであり、問題解決ではもちろんそこから始まるのですが、問題を解決していくプロセスで「私は~~のように行動した」「それは、私が~~を~~とみていたから」「それは、私に~~という固定観念があるからだ」とは、そうは簡単に進んでいきません。

ある方の発表で、「私はどうしても自分が先頭に立って問題解決をしてしまう。それでは、いつまでたっても人が育たないことは分かっているけど」、と発表していました。よくよく聞いてみると、以前プロジェクト・マネジメントを部下に任せて手痛い失敗をし、上司にこっぴどく叱責をされた経験があるのです。それがトラウマみたいになり、ちょっと我慢すればと「頭では分かっているけど、つい口を出してしまう」と振り返っていました。

このような発表を聴いても、やっぱり自分の問題として捉えることができず「他者、仕組み、環境」がこうだから、~~をしっかりやることが大事だと思う。というような振り返りになるのです。

従って研修では、講師側がいろいろ質問するという場面が多くなるのです。本当はメンバー同士で質問していくというのが望ましいのですが、質問が途中であらぬ方向に言ったり、質問者が自分の体験を「私もそうなんですよ」と話しだしたりして、当事者の省察になかなかつながらないのです。だから「質問だけをする会議」みたいな会議モデルが話題になるのでしょうね。

要するに、振り返りのプロセスは「氷山モデル」を深く潜ることが大切なんですね。ダブルループ・ラーニングです。このプロセスに熟達することそのものが学習ですね。

これが個人やチームでできるようになると学習品質が飛躍的に高まります。でも、一人でこれをやるのは難儀です。ですから第三者の支援(介入)が必要になってくるのです。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。