• ミドルマネジャーの重要性~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊹~

ミドルマネジャーの重要性~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊹~

~職場開発という組織開発の実践方法

日本でも役員組織の改革が進み、執行役員の意識も高まってきていますが、いかんせん現場にはちょっと遠い。現場に最も近く、かつ「一緒に何かやる」というマネジメント・ポジションにいるのが課長です。だいぶ前に「戦略ミドル」という言葉がはやった時があります。神戸大学の金井さんは「変革型ミドル」と呼んでいました。30代から40代に掛かるこのミドル層こそ、革新を支援したり促進したりする重要な担い手です。

 

この年代の人たちは、以前の環境でのキャリアでは「仕事はほとんど諳んじているベテラン」でしたが、今は異なります。新しい技術がどんどん生まれ、自動車業界などは100年に一度の変革期と言われるような変革を迫られ、要するに「経験したことがない環境」にいるわけです。

となると、金井さんが「変革型ミドル」の中で言っていた言葉を使うと「裏のマネジメント」、つまり「経験したことがない課題や問題」に対して「みんなで一緒になって考えて実行する」というやり方を選択せざるを得ないわけです。これって、最高の変革型ミドル育成の場です。それは取りも直さず、次期リーダー層育成の場でもあるのです。

課長がリーダーシップをとって実践する組織開発(OD)は、職場開発またはチーム開発です。つまり、組織開発(OD)のミニ版です。課題は、自分のチームを最高のチームにすることと、他部門との協働関係を築くことです。そしてこの能力開発は、戦略の効果的な実践にも欠かせないものです。

戦略は、通常トップマネジメントやそこと直結する部門あるいは事業部門のトップなどから計画された戦略として、公式のマネジメントルートを通して現場に下りてきます。そして、その戦略が一定の成果を出すと、以降は現場でのさまざまな工夫があっても、構造化された思考と方法を踏襲して実践されます。ところが一方で、マーケットはそれとは関係なく刻一刻と変化していきます。

従って、その変化の兆候をつかみ取り、いろいろなアイデアをボトムアップし、それを課長クラスが取捨選択してトップマネジメントに具申し、新しい戦略の検討に入るというプロセスもあります。このボトムアッププロセスは創発戦略ともいわれます。つまり、ミドルは「既存戦略の実行管理」と「現場アイデアの吸い上げとトップへのフィードバック」を担うわけです。

戦略実行においてはどちらのプロセスも大切で、ここが機能しないと組織が機能不全に陥ります。ですから、ミドルど真ん中である課長クラスが変革型ミドルとして活性化しているかどうかはとても重要なのです。

~実践としてのアクション・ラーニング

変革型ミドル育成の中心的方法は、アクション・ラーニングです。チームで、具体的な課題に対しての問題解決を通して、自チームの自律的な問題解決能力の開発と、変革型ミドルとしての課長のリーダーシップ開発を実施していきます。これが好循環していくと、素晴らしい組織やチームをつくっていくというマネジメントが定着していきます。これは、とても現実的な組織開発の実践になります。

一橋大学で「組織の重さ研究」というプロジェクトがありました。このプロジェクトのきっかけは、日本企業がかつて得意としていた「創発戦略」がうまくいかなくなっているのではないかという疑念だったそうです。

組織の重さとは、「ミドル層を中心とする組織内部での調整過程の難しさのこと」を意味します。具体的には、「メンバー間の意見の違いを調整し、メンバーの努力を一定方向に引き出し、有効な組織活動として展開する難しさ」です。そしてこの組織の重さは、気を付けないと創発的戦略行動を阻害するというものです。先の図でいえば「現場アイデアの吸い上げとトップへのフィードバック」がうまく機能しなくなるという事です。

なんでこうなるのというと、

①事業戦略について十分な説明がない(事業部門長とその他のメンバーのコミュニケーションの距離が離れている)。

②非公式に情報を取らなくてはならない努力(公式ルートが確立できていない)。

③事前の戦略計画がない(行動の標準化が進んでいない)。

(ア)標準化が進んでいれば素早い行動ができる(組織は軽くなる)。

(イ)計画に縛られず個々人が自由に振る舞う組織は、少なくとも事業を担当する組織としては「弛んだ状況」を示唆している。

④ミドルクラスの戦略リテラシーの不足。方針を示し、後は「良きに計らえ」ではダメ。戦略リテラシーがなければ組織が右往左往する。

⑤メンバーが問題を直視せず、従来の思考と方法を踏襲する。

があるという事です。

 

組織開発(OD)は何も困った時に実施する「組織変革:Organizational Change」ではなく、素晴らしい組織を創っていこうとする持続的な取り組みなのです。最近は課長研修で「チームの効果的マネジメント」を学ぶ場が少なくなってきていると感じます。

どうしても効率的に仕事をこなしていくというパターンを学んでしまい、ものごとを探求するというゆとりがないのかもしれません。このような時にアクション・ラーニング方式のマネジメント開発は有効な手段となります。

 

  • この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。