• インスタントかガッチリか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊷~

インスタントかガッチリか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊷~

今回のお題である「インスタントかガッチリか」というのは、私たちのような仕事をやっているといつもぶち当たるお題です。…今週は中見出しなしです。

例えば、ここ4~5年の人材開発の世界ではレジリエンスというテーマがありました。今年の注目はアンコンシャス・バイアス(無意識のバイアス)のようです。大手企業の人材開発部門や、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)や多様性を扱う部署の関心ごとになっています。わが社も何とかしなくてはという使命感のもとに、多くの人に分かってもらいたいということで、まずは研修という方法を選択することが多いのではないでしょうか。

そしてだれでも参加しやすいように、半日程度の研修を実施しようと企画されるわけです。

レジリエンスを開発するプログラムとして科学的に検証されているプログラムに、「ペン・レジリエンシー・プログラム:PRP」というものがあります。このプログラム、もっとも有名なのは米軍における2週間のガッチリ系プログラムです。従軍帰還兵の社会復帰などがその目的ですので、2週間という時間をかけるのでしょうね。そして、1グループ5~6人に対してファシリテーター1名がガッチリ付きます。

もちろん超忙しく、効率化された企業で2週間もの時間をとって研修を実施することは、ありません。まあ、個別の外部研修派遣ではMBA取得のように海外の学校へ1~2年派遣するという例もありますが、一度に大量に2週間もというのは「なし」ですね。

※PRPは、最近では学校や企業などで短い時間で実施するプログラムも開発されている。

 

昔はあったんですよ「課長クラス3泊4日企業内研修」程度の長さは。今はまずないですね。そこで、ちょっと考えたいのですが、研修を効率的にやることは良いことです。これからマイクロラーニング(SNSを活用し小分けで学習するスタイル)はもっと普及するでしょう。でも、これだけでいいのかなとも思うのです。

例えば、アンコンシャス・バイアスですが、「アンコンシャス・バイアスとは何か」という知識教育であればマイクロラーニングで十分でしょう。しかし、「私の」「私たちの」「わが社の」アンコンシャス・バイアスを抉り出し(文字通り“抉り出し”)、従来の行動を変革しなくては生きていけないといったような場合、マイクロラーニングで役に立つのでしょうか。

アンコンシャス・バイアスは、無意識だからバイアスになるのです。そして、その無意識は私個人の問題というより、その人が置かれている環境や社会からも影響を受けるのです。

思想教育とは恐ろしいもので、あれは「洗脳」ですよね。思想教育は短期間に行われるものもありますが、その社会で長い時間をかけて歴史的に生成してきたものもあります。で、一旦洗脳されるとそれが幾何級数的に波及し、いつの間にか「意識されない当たり前」、つまりアンコンシャス・バイアスになってしまうのです。

例えば、家族観や人間観などは歴史的に宗教などの影響を受けながらその社会の根底に脈々と受け継がれてきているものですから、それに気づき意識化し修正するのはなかなかに難しいものがあります。そしてこのようなアンコンシャス・バイアスはいったん意識化されると、従来のバイアスに従う人たちと、新しいバイアスで行動しようとする人たちの「対立」を招きます。夫婦別称などもその例ではないでしょうか。

個別組織の場合もそうです。個別組織の場合は「組織文化」や「組織のパラダイム」という言葉を使って、その組織特有の慣習や仕事の仕方を説明しています。多くの場合、このパラダイムは、創業者や中興の祖の言動、組織の成功や失敗の歴史などから形成されています。

このような場面に立ち会ったりした人は、なぜそのような「考え方」が生まれたかという経緯を理解しているので、そう行動しなければならない意味を説明できるのですが、そのような場面に立ち会う事もなく、後々に組織に参加した人はなんとなく疑問に感じながらもそれに馴染んでいき、いつの間にかそのように考え行動することが「習い性」になってしまうのです。

これを、インスタントに変えられるの? というのが研修を主催する側にも当然あると思うのですが、とにもかくにも研修をやるという事で担当部署は「やっています」という実績をつくることはできます。でもそれでは変わらないわけですよ。そんなことは百も承知の筈なのにです。

効率的に物事を進めるというのは、一方でどうしても「インスタントな対応」を招きがちですね。人材開発や組織開発はインスタントな対策ではあまりうまくいかないですけどね。

 

あ、そうそう。私、ある施設で3畳ほどの土地を借りて畑をやっているんです。昨年の話ですが、春先に急激に気温が上がってしまったもので収穫量がガクンと落ちました。ゆっくり育たないと豊かに実らないそうです。いやー、勉強になりました。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。