• プロセス中心の討議グループ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊵~

プロセス中心の討議グループ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊵~

~問題解決における当事者としての私

組織や社会の中で起こる多くの問題は「人と人との関係」の中で起こっています。技術的な問題であっても、背景には人と人との関係がとても強く関係しています。

例えば、1986年に起こったNASAのチャレンジャー号爆発事故は、技術的な事故原因は右側固体燃料補助ロケット接合部を密閉するOリングの不具合ですが、最も突出した原因は、NASAとOリング製造元のサイオコール社が共に、接合部の設計不良が及ぼす危険に対して適切に対処しなかったことでした。

彼らは接続部の設計を見直すどころか、その程度の危険は許容範囲内であると考えたのです。端的に言うならば、意思疎通の失敗、従来のやり方に対する過信、まずい情報の隠ぺい、技術者に対する経営側の圧力などが重なり、打ち上げを決行するという判断に繋がったのです。事故に関する関係者の思考様式とプロセスは、アービン・ジャニス教授によって「グループ・シンク:集団愚考」としてまとめられています。

  • 「グループ・シンク:集団愚考」についてはODメディア⑭を参照してください。

問題解決で陥りやすい罠は、私と問題の関係に十分思いが至らないことです。むしろ、私たちは「自分以外の他のせい」にしがちです。それでは、真の問題解決に至らず結局は弥縫策に終始してしまいます。問題解決には、自分自身がその当事者であるということを肝に銘じ、自分自身が何等かの変容をしていかないと問題は解決しないということを学んでいく必要があります。

~プロセスを見る眼を養う

以前にもODメディアに書いていますが、組織や集団の問題には必ず人が関わっています。ましてや自部門や自職場の問題には、自分自身が「当事者」として関わっているのです。

Tグループをベースとする「プロセス中心の討議グループ」は、討議集団とその参加メンバーそのものを研修素材とし、グループの中に起こる問題(プロセス)を、当事者として如何に解決していくのかという視点で研修に臨みます。それは、グループのメンバーが学習者であると同時に、学習のリソース(素材)となるユニークな学習方式です。参加者は、相互の生きた関係ややりとりの中で自分自身のありようを深く見つめ、効果的な対人関係やリーダーシップを学習します。

残念ながら通常の問題解決トレーニングの多くは「その問題の原因は何か」という視点から、自分を脇において客観的な観察者の視点から問題を解決しようとします。それでは効果的な問題解決にはつながりません。自分自身が問題の発生に関わっているという視点を如何に持つかが問題解決にはとても重要になります。そして、問題に関わる人たちの行動が変われば、問題は解決されるというより「解消」します。

 

さて、ここまで来て「そりゃそうだ。でも、Tグループに全員参加するのはハードルが高い」と感じるみなさん、プロセスを見る眼を養うトレーニングとしてTグループよりは、圧倒的に手軽にできるトレーニング手法をご紹介します。それは、「POPOPO」という実習です。

「POPOPO」は、「ぽぽぽ」と呼びます。Pは、Participant(参加者)、Oは、Observer(観察者)です。つまり、討議の参画とその観察者の役を担う事でプロセスの中で起こっていることについて観察する目を養おうとする実習です。具体的には、以下のスキルを向上させることを目的にしています。

  • グループのプロセスを観察するスキルを養う
  • 討議への参画についての適切なフィードバックを与えるスキルを養う
  • 討議過程における「内容:コンテント」と「過程:プロセス」の問題に気づく

 

実施には、6名前後のグループが2組以上必要になります。基本は、グループ数が偶数になるようにし、2組のグループが相互に役割を交替しながら集団のプロセスを観察し、介入するという実習です。一般的には何らかのテーマについて討議する「討議グループに起こっているプロセス」が題材になります。

私たちは、どうしてもコンテント(討議内容)の方に目が向きますが、プロセス(グループで起こっていること)に関心を向け、更に自分自身の振舞いを観察できる眼(メタ認知力)を養うと、プロセスの問題解決という意味がよく分かるようになります。

プロセスに働きかける際の大事な点を「ORJIモデル」としてE.シャインがまとめていますが、この意味と「なるほどスキル」を体感する上でもPOPOPO実習はお勧めです。

 

[注]ORJIモデルとは

ORJIは、以下の4つのコトバの頭文字をとったもの。

Observation(観察):支援者自身がチームで何が起こっているのかを読み取る

Reaction(情緒的反応):支援者自身の反応「大変だ、やばい、嬉しい、びっくり」など

Judgement(判断):支援者自身の意味付け「これはこういうことだな」

Intervention(介入):支援者の介入行動の選択「よし、こうしよう」

ORJIは、問題解決支援者が集団の問題解決において自分自身の内面のプロセスを自己理解するうえで大切です。

 

  • この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。