• 変化するという事について~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉞~

変化するという事について~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉞~

~戦略行動の変更はmindの変化から

サティア・ナデラCEOになってからマイクロソフトの快進撃が止まりませんね。20196月期の株価は140ドルを超え、時価総額は1兆ドルを超えましたね。GAFAを抜いて世界1に返り咲きました。業績だけでなく「社会性」も身につけたと言われ、マイクロソフトを「悪の帝国」という人はいなくなったとの評判です。なぜ? という事ですが。

この立役者が2014年にCEOに就任したサティア・ナデラです。彼は、P.ドラッカーの「文化は戦略に勝る」という言葉を信奉しているようです。P.ドラッカーは、「もう古い」という人もいるようですがやっぱり名言を残しているのですね。で、その「文化は戦略に勝る」を実践する裏付けとしてナデラCEOが使っている概念が「Fixed Mind」から「Growth Mind」への転換という概念です。

Fixed Mind」と「Growth Mind」という言葉は近年、組織開発の文脈の中でも使われる言葉です。端的に言うと「Fixed Mind」は、従来の考え方に縛られた行動のことです。「Growth Mind」は逆に従来の考え方に縛られない行動であり、ナデラCEOの言葉をそのまま引用すると「社員一人ひとりが難題に立ち向かい、乗り越えようとすることで、個々人が伸び、その結果、会社も伸びる」というMindであり行動です。

ナデラCEOの事例でいうと、Growth Mindの実践は例えば次のような行動です。

          ウインドウズ10の公開時、ナデラCEOはケニアの小さな村でセレモニーに臨んだ。これまでは重要商品の発表はすべて米国でやってきた。

          マイクロソフトのトップは、これまで日英独など主要市場には毎年1回訪問するという決め事(プロトコル)があったが、それをしなくなった。「必要な時に必要なところに行く」という行動に変えた。

          ナデラCEOは「フレネミー(friendenemyを合わせた造語) 」という言葉が好きで、過去の競争相手とも手を組む。例えば、データベースでのオラクルとの相互接続。

(日本経済新聞201985日 核心 より引用)

Fixed Mind」と「Growth Mind」に似た概念は、昔からいろいろな人が言っていることではあります。例えば、「戦略を変えようとするなら、その根底にあるパラダイムを変えること」とか、「Uの谷を降りる(U理論)」とか、成果は「能力×意欲×考え方」で決まる、など。最近では、「アンコンシャス・バイアス(無意識のバイアス)」という言葉も出てきています。

因みに、U理論のオットー・シャーマーがなぜ評価されているかというと、それは実践をしているからです。彼は研究者というより「アクティビスト」なんですね。

~成功体験を捨てるとは、自分を変えること

ず~~~と以前、日本でも「企業寿命30年説」という仮説が喧伝されました。これは日経ビジネスに掲載された記事で有名になりました。昨今も、SDGsやダイバーシティなどでも唱えられるように「変わらなくては」と言っている人や組織は沢山あります。言っていない人や組織の方が少ないくらいですね。

京都では、老舗(200300年続いているというのはざら。中村楼など室町時代の創業)の跡継ぎが定期的に集まり変化について議論しているとか。

では、分かっているのになぜ変わらないのでしょうか。それは一つには「アンコンシャス・バイアス」が言うように、バイアスそのものが無意識だからです。深いところにあるその人の考え方(信念、スキーマなどいろいろな表現がなされます)に気づかないから、「そだね~~」と言いながらも、結局行動は従来と同じ行動になってしまう。

もう一つは「変わることが怖い、不安」という心理です。変わるという事は、捨てるという事です。転職や起業でもそうですが、それは従来慣れ親しんだ世界や慣習とは別の世界に行くことですね。ま、そんなことは誰でも分かっているのですが、新しい世界に移っても前の世界の考え方と行動をそのまま持ち込んでいる人が沢山います。これは、もう目も当てられないちぐはぐな情景です。

組織開発や組織変革もそうです。変わるという事は捨てるという事とほぼ同じことです。ナデラCEOが就任時に社員に宛てた1千語の手紙に中には「Windows」という単語はなかったそうです。これができるかどうかで次のステージへ移れるかどうかが決定します。「Fixed Mind」から「Growth Mind」に移るという事は、「Fixed Mind」の呪縛を断ち切り、個の持つ可能性を改めて解き放つことができるかにかかっているのです。

Fixed Mindやアンコンシャス・バイアスをそのままにした状態でいくら技術的なインプットをしても変化は起きないのです。それよりも大事なことは、新しい技術的なインプットが欠かせないという「学習し続ける風土」を当たり前にする取り組みです。組織開発の実践の目的は、「学習し続ける風土」を当たり前にすることでもあるのです。

 

      この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。