• ストレスは無くせば良いってもんじゃない~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉜~

ストレスは無くせば良いってもんじゃない~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㉜~

~ストレスがもたらす力

以前のODメディアで、レジリエンスという概念に触れましたが個人やチームが成長していく過程で、いったい何が大切なのか。今回は、これまでの「自分事で仕事をする人」の延長の中で触れてみたいと思います。

シカゴ大学ペギー・メイソン教授らのラットをつかった研究の話を覚えていらっしゃいますか。ちょっとだけ思い出していただくと、「自分が苦しみを感じないときは仲間を助け出そうとしない」という話です。仲間の苦しみを見るのは、自分自身にストレスが掛かるので、そのストレスを解消するために仲間を助けるという話です。

レジリエンス研究で取り上げられるものとして、外傷後成長(post traumatic growthPTG)というものがあります。1996年、アメリカの臨床心理学者、リチャード・テデスキローレンス・カルフーンによって発表された比較的新しい概念です。研究によれば、強いストレスを経験したのち、そこから立ち直り以下のような変化がある人も存在します。

      他者との関係がポジティブなものへ変化する。

      心のあり様が変わる。存在や霊性(自分を超えた世界)への意識が高まる。

      人生に対しての感謝の念が増える(生きてるだけで丸儲け)。

      新たな可能性に挑戦しようとする(人生や仕事への優先順位が変わる)。

      人間としての強さ、自己の強さの認識が増す。

心理学的にはPTGは次のように定義されます。「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生ずる、ポジティブな心理的変容の体験」。すべての人がポジティブに変化していくとは限りませんが、研究成果は「そうですね」と理解できます。

古い話ですが、戦争体験者の心理と行動変化はPTGだったのでしょうね。ワコール創業者の塚本幸一さん(故人)などもそうだったのではないでしょうか。塚本さんは、「私の思考の根幹は“生かされている”ということにあります」と仰っています。このような考えに至ったのは、インパール作戦という悲惨な戦闘に従軍し、塚本さんの戦友55名のうち、たった3名しか生きて帰れなかった苛烈な戦争体験によるものだそうです。

で、なんでこんなことを書いているかというとスポーツでもビジネス社会でもそうですが「反吐を吐くような辛い練習・修業期間」があるからこそ成長し、使命や意義を感じる人生が送れるのではないかという認識があります。禅のお坊さんの修行中はそりゃ厳しいきつい世界だそうです。要は、ストレスを経験する期間をどのように持つかは、人の成長に欠かせないという事です。石の上にも三年という諺もあります。

~ストレスを成長の力に変える

では、外傷後成長(post traumatic growth:PTG)を人為的につくれるのか、といえばそれはつくれません。外傷後成長(post traumatic growth:PTG)のきっかけは、PTSDと同じだからです。研究対象となるような経験(戦争、大震災、虐待、抑留生活、愛する人の死など)は、人為的につくってはいけないようなものです。

PTGとは、「新しい自分に生まれ変わるような変化」です。それはもはや修復さえもかなわず、新しく作りなおす以外に方法がなかった、ということを意味しています。ですから、従来持っていた中核的な価値観や信念を粉々に砕き、ちょっとやそっとでは立ち直れない状況の中でどうやってこれからを生きるかを試行錯誤した結果として獲得するようなものです。

では、ただでさえストレスが多い今日的な職場で、ストレス耐性が強いチームをつくっていくにはどうするか。それは、ストレスの素になる要因を無くすこと(過重労働などブラックなストレス要因は無くさないといけませんが、ストレス要因をすべて無くすのはそもそも無理)ではなく、英語のCで始まる4つの要素を職場で実現できるかです。

 

挑戦:Challenge

職場生活の中でいろいろな学習機会があること。また、いろいろ新しいことに挑戦できる面白さや、機会を与えていること。仕事のやり方に工夫を加え、今より良くしていこうとすることができていること。

自己統制:Control

個々人に対して十分な方向性を与えていること。また、何を達成すれば良いかを個々人が分かっていること。あたかも自分の船の船長であるかのごとく、自分たちの仕事を自分たちで統制できること。

自己熱中:Commitment

自分の仕事が、お客さまへのサービスや組織全体のどのような事柄につながっているのか理解できていること。また、人々の成長に関心があり、潜在能力の開発を奨励していること。

明確性:Clarity

仕事の意義や目的を常に共有している。メンバー同士で何ができるかを理解し、一人ひとりが自分の強みを発揮できている。また、業績の評価基準がはっきりしており、個々人の役割や責任も明確になっていること。

 

4つのCは、みなさんの職場でどの程度実現できているでしょうか。マネジメントが自己改革しなければならない領域は、まだまだたくさんあるのではないでしょうか。という事は、逆に言えば「伸びしろ」はたくさんあるという事です。

※      この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。