• 組織には「対応力」が大切 ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?㉓~

組織には「対応力」が大切 ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?㉓~

~レジリエンスという力~

最近レジリエンスという概念が人事担当者の中で知られるようになりました。ラインマネジャーや経営トップにまで知られているかというと「まだまだ」という感じですが、この概念は、人や組織において重要な概念です。

レジリエンスは、元々は物理学の用語です。「外力による歪み=ストレス」という力に対して「外力による歪みを跳ね返す力=レジリエンス」として使われます。

そのレジリエンスが、最近では精神医学や心理学の世界でも用いられるようになりました。

それは、逆境経験をした子供達の生涯研究がきっかけです。過酷な境遇の中で育った人たちの中にも、健全に人生を送っている人もいるのです。そのような人が持っている力がレジリエンスです。

2013年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、個人に留まらず組織や社会といった範囲でも使われ出されました。現在では、私たちに本来的に備わる力として認識されています。東日本大震災の際に「災害に対して粛々と対処する人たち。略奪もない」というような行動から、諸外国から日本は本当にレジリエントな国だと賞賛されたこともあります。レジリエンスは、かように私たちにとって望ましい力なのです。

ところが日本では「メンタル不調」の問題もあり、それに負けない心をつくろうという事で、福利厚生的な側面から理解が進んだこともあり、組織における大切な能力(capability)としては認識されていない節があります。そして、その開発にほとんど投資しない。

社員のレジリエンスを高める暇があるなら、もともとレジリエンスが高いタフな社員を雇え、というような見方もありますからね。そんな組織を幾つか知っています。そうすると採用時に「レジリエンスチェック」みたいな診断をやって、それを採用基準にするとか。

タフネスな連中をそろえれば、チームや組織もタフネスになる。という文脈ですね。(これちょっと違うんですけどね)

~当たり前のことをもっとポジティブに活用する~

「依存」という言葉があります。依存は自我心理学(フロイト)的な立場からはむしろネガティブですが、自己心理学(コフート)的な立場からはむしろあたり前と考えます。つまり我々は常に誰かに依存して生きている存在であるという捉え方です。組織論の世界でも最近「依存」という概念を持ち込んできています。エコシステム(生態系:ecosystem)はそのもっともたる概念です。

また組織開発(OD)の中でクリス・ウォーリーが主張する「機敏な組織:agile organization」も様々なところへの依存・ネットワークを重視しています。依存することにより、自分だけではもたらされない情報や知識を得ることもできるし、刺激を受けることもできる。また時に助けてもらう事もある。そのような体験が継続的に行われることで、自分の思考と行動の幅が広がりそれが機敏な行動を促進する力の一つとなる、ということです。

レジリエンスも依存も生態系や人間社会の中では「あたり前」の特性なのです。逆に言えば、これがあるから生きていける。ところが、従来の組織はこれとは逆のことをやっていました。それは、私たちの思考が「効率」「自律」「競争」「独占」というようなワード/観念に支配されていたからなのかもしれません。

ビジネスの世界では、特に男性からは、逆境に対する抵抗力はメンタルタフネスという言葉で理解されているのが現状です。ただ、メンタルタフネスは「心がtough(かたい)+ ness(性質)」であり、チームや組織としてはあまり歓迎できる性質でありません。固いという事は丈夫かもしれませんが、変形しにくいという意味でどちらかというと組織論的には弱みになります。

これに対して適応力「adaptability」はadapt(適合させる)+ ability(能力)であり、こちらの方がよりポジティブです。集団ではabilityはcompetencyとした方が良いかもしれません。

私たちは「効率一辺倒、タフネス重視、一所懸命頑張る、気合いだ~~~」など、全面否定はしませんがそれに偏重しすぎていることからの脱皮が必要かもしれません。従来通りだと変化が起こらないのは目に見えていますから。

必要なのは、「ちょっと立ち止まるマネジメント」「自分を深く内省するマネジメント」「関係性を改善させるマネジメント」です。従来は全く評価の対象になっていない行動を重視するマネジメントです。

私たちが普段あたり前にやっていることを、組織やチームのマネジメントに取り入れてみることが必要ですね。

U理論のオットー・シャーマーも言っています。ジャンプするにはUの谷に下りて内省しろと。