Mark氏へのインタビュー

弊社で実践するご支援では、学者や実務家の方から教わったノウハウやナレッジを活用しながらクライアント様の課題解決策をプランニングしていきますが、その中でも中核的なノウハウを教えてくれている海外のビジネスパートナーがいます。今回は、そのパートナー企業であるACTION MANAGEMENT ASSOCIATES, INC.(アメリカのテキサス州、ダラス)のPresidentであるMark氏にインタビューをさせていただきました。米国での企業課題や人材育成の課題など日本でも参考にできる部分が多く、豊富なインタビューとなりました。是非ご覧ください。

 

竹本:

本日はインタビューのお時間をいただきましてありがとうございます。最初の質問ですが、アメリカ企業のビジネスリーダーたちが現在のビジネス環境で抱えている課題とはどのようなものがあるのでしょうか?

 

マーク氏:

いくつかあるのですが、非常に重要な1つはクリティカルシンキングだと思います。特に現代社会はVUCAと言われていて、複雑性が増して見通しが立たない時代です。その中にあって、正しい道筋で考えていける思考力は大きなテーマだと思います。

クリティカルに、かつクリアに思考することが、アメリカ企業のシニアマネジメント層の課題としてしばしば挙げられます。もちろんクリティカルシンキングはシニアマネジャーだけではなく、企業全体に求められるものでもありますが。

我々はグローバル(アメリカ・ヨーロッパ、アジア圏)でパートナーがたくさんいますが、そのパートナーの実践からもシニアマネジメント層の課題としてフィードバックが来ています。

※シニアマネジメントとはマネジャーをマネジメントするマネジャーのこと。(要は上級管理職)VUCAの影響を直接的に受けるのが、CXOやシニアマネジメントであり、クリティカルシンキングの必要性が非常に高い。

もう一つ大きなテーマとして言われているのは、ここ8年ぐらいよく聞くのですが、イノベーション、もっと言うとクリエイティビティというキーワードです。

多くの組織では、クリエイティビティについて非常に苦しんでいる印象があります。イノベーティブな組織を作るのは一つのチャレンジです。

日本では「ティール組織」が流行っていると伺いましたが、それが本当に実現できるのであれば、クリエイティブな問題解決がもっとできるようになってくるでしょう。

その他によくあがるテーマは従業員のエンゲージメントです。

エンゲージメントの向上においては、ミッションビジョンに共感を呼び起こすということも大切なのですが、全体の組織だけではなく、個々人の職務に対してもロイヤリティを生み出す必要があります。ただそこに引き込むということも苦労している印象があります。

自分の役割はなにで、組織全体としてはどうしようとしているのか?こうしたつながりを理解することが非常に重要になります。ミッション・ビジョンなどのハイレベルの理解だけではなく、自分の役割が重要であると考えられるようにする。それがそもそもエンゲージメントにつながるのではないでしょうか。

多くの組織は、エンゲージメントが高くなると、問題解決力の向上が見込まれます。またそれ以外にも離職率低下にもつながるとも感じます。残念ながらマネージャーのことが嫌いで退職するなどもありますが。

多くの組織は、エンゲージメントを高めると、自分の意見を表現できたり、不満を言えたりします、そのことが組織にとって非常に大切なのです。

 

竹本:

日本でもエンゲージメント低下は課題です。日本ではマネジメントとの関係はもちろん賃金や労働時間など多様な理由がエンゲージメント低下の要因として出てくるのですがアメリカ企業では、エンゲージメントが下がる要因として何か傾向のようなものはあるのでしょうか。

 

マーク氏:

アメリカ企業でも理由は沢山あります。ただ給与というのはあまりエンゲージメントとの関連として認識されていません。

マネジャーの管理の仕方として、マイクロマネジメントだとフラストレーションがたまる傾向があるように思います。社員が自分で意思決定できず、その状態がエンゲージメントをさげているのでしょう。

その他の要因としては、意思決定までのスパンが長すぎることが挙げられます。

簡単に見えるのに、組織になるととても多くの時間をかけて意思決定しています。そうなっては、社員からすると自分の声を取り扱ってもらっている感覚を持ちづらくなります。それは社員の心にhopelessな感情を喚起します。意思決定が一定期間なされないことがフラストレーションにつながっているのです。

また他によく聞くのは、マネジャーが情報を共有しない場合です。

他の人も知っているだろうとして、特定の情報を全体に共有しないのです。

マネジャーとしても重要ではないと判断したり、共有の時間が無かったりと理由は様々ではありますが、部下はマネジャー以外の人間から情報を仕入れて「自分はチームの一員ではないんだ」と感じてしまうのです。

とはいえエンゲージメントにとって最もダメージが大きいのは先に挙げたマイクロマネジメントです。マイクロマネジメントの状態にあると自分なりに提案したたり考えたりする、ということができないからです。これがエンゲージメントにとって非常に大きな影響を与えているでしょう。

アメリカ企業の課題に話を戻しましょうか。他のテーマとしては国の規制が増えていることも挙げられると思います。規制が増えれば、ドキュメンテーション(対応書類)が増えるが、それは利益につながるわけではありません。

会社をよくする、効率よくするわけではなく、ただ単にしなければならないことが増えるだけです。しかし当然ですがそれを実施しなければ、それに対する罰則があります。財務的な影響だけではなく、Public RelationPR)の課題にもなってきます。

ある特定の組織の素行が悪いと、アメリカの行政では、一気に全体に規制を作ってしまいます。そうすると素行が良かった会社も新しい負荷がかかってしまうという構造になっています。

例)消費者視点で考えましょう。家を買う際にお金を借ります。その際に、この家を買うというドキュメント、他のドキュメントを経てお金を借りることができます。自分の頭の中では複数のサインで事足りるはずなのですが、実際はサインの前に膨大な資料があります。非常に細かいことでこれを知らされたか、ローンはどういう仕組みなのか、などの内容ですが、多くは消費者がとてもじゃないが理解できない内容です。あくまで告知されたかどうかという規制だからです。それは消費者の意思決定を手助けしているわけではありません。

 

竹本:

そうなんですね。そうした状況が生まれている背景には何があるのでしょうか?

 

マーク氏:

上記のような状況の背景は沢山の要因があると思います。

クリティカルシンキングに関して言えば教育のシステムもあるでしょう。本当の意味でクリティカルシンキングのスキルを教えるのは難しいです。いくつかの団体は教育しようとしていますが、教育システムには他の多くの学習項目もあります。クリティカルシンキングに割ける時間は非常に少ないのです。

クリティカルシンキングの具体的な思考プロセスやなぜそれが必要なのかという訴求が残念ながらまだ十分にはできていません。 

クリエイティビティに関して言えば、多くの組織では組織を変化させることについてあまり力を割いていないことも挙げられるでしょう。過去の成功を繰りかえすことを望んでしまうのです。組織が過去を切り捨て、新しく組織を構築することや違う道を求めることはとても難しいことです。

うまくやっている例としてはIBMでしょう。ご存じの通り80年代はハードウェアでとても有名になりましたが今は全く違いますね。当時はメインフレームやPCがメインでしたが、今は完全にITコンサルティングファームに移行しました。1990年代〜2000年代のこのトランスフォーメーションは過去でも珍しく、素晴らしい変化でした。それ以前に長い期間成功していのにそれを切り捨てて変われたことはとても特別なことであると思います。

クリエイティビティに関して、もう一つ要因としてあるのは、特に大企業ですが、効率性を重視する考え方がイノベーションと対立構造を起こしてしまうことです。この双方を実現することが非常に難しいのです。大きい組織であれば、新しいことをやるのが難しくなります。

またエンゲージメントについて言えば、悪影響を及ぼしているのがリモートワークです。アメリカでは一時期リモートワークを推進していましたが、リモートでは人との関係性が希薄になり、一緒にいる時間が減ってしまうため、チームへの帰属意識が低くなりやすい傾向はあります。チームワークが機能しづらくなります。(リモートワークから対面ワークへとトレンドは回帰している動きも出てきている)

エンゲージメントとも関連しますが、従業員の退職も背景として挙げられるでしょう。離職は、組織内でのクリティカルシンキングやエンゲージメントへの悪影響があります。組織にとって大事なのは離職率を低くすることでしょう。ここに手を打たなければ、新しく採用、チームビルディングをせざるを得なくなるためコストも高くなります。

 

 

竹本:

アメリカ企業がとっている対策や解決方法としてトレンドはありますか?

 

マーク氏:

上記のような背景にあって、特に大企業ですと、一般的には何らかの問題解決のフレームを導入しています。そしてそれを共通言語とすることがアメリカ企業の一般的解決策だと思います。企業は、現在はより少ない時間で、より実践的で、より効果の高い物を求めているように感じます。今まさに企業の中で起こっていることを解決することが求められている印象です。そしてそれを提供して欲しいという状況が続いています。

 

竹本:

今まさに企業の中で起こっているとはどういう意味合いでしょうか?

 

マーク氏:

Fire Fighting(火消し)という問題です。通常の仕事はみんなうまくいっているのですが、突然みんなが何か一つの問題に対応しなければならなくなります。そしていつも緊急性の高い問題ばかりに対応していて、重要な問題に取り組めていないというスパイラルが起こってしまうのです。Fire Fightingは短期間で問題解決が求められ、その解決策をみんなが求める、そしてそれが繰り返される。特に急成長した企業では、火消が起こりやすいですね。しかしもう少し根っこにある部分に対する課題解決を実行していく必要があります。 

具体的な例としては、従業員が間違った問題(重要ではない問題)に関わりすぎる、などもあります。そこまで大事ではなかったり、そのひと自身には関係なかったりする問題でもそこに目を向けてしまうのです。

他にもミーティングの目的が不明確であったり、準備不足であったりするなどもよくある状況です。もっと効率的にゴールに行けはずだという声は多いです。

意思決定がしっかりと考えられていないケースもあります。何かしら提案されたことも、クリティカルな要点が考えられていなかったりします。こうしたことが今企業の中で起こっていてすぐに解決したいと要求される具体的な事柄です。

話を戻しますと、アメリカ企業がよくやる解決方法は組織図の更新です。

このやり方は従来からのやり方ではあるのですが、協働的チームワークを目指すという文脈で考えた時には、たとえ構造をいじったとしてもいろんな事業部から特定の問題にかかわるという形にしておくのが良いと思います。

マーケティングだけではなく、製造だけではなく、多様なアイデアを出しやすくなるようにしておく必要があります。現在ではそれがやりやすくなってきました。スカイプやメール、電話など。ここ15年で多くの接点が持てるようになってきたからです。

そのほかでUS企業が取る傾向のある解決策は、メンタリングやコーチングです。この実践には外部コンサルタントや内部人的資源を使ってやっています。このやり方は教育的に活用するという意味合いが非常に強いです。ただしコンセプトとしては非常に良いのですが、企業が大きければ大きいほど実際に実行するのは難しい領域ですね。メンタリングやコーチングというやり方自体はとても良いのですが、前提として双方の意識が前向きである必要があるし、メンタリングやコーチングを受ける人の将来について意図的、計画的である必要もあり、構造的に展開するのが難しいと感じています。

 

竹本:

コンサルティング、トレーニングメソッドではどのようなことが課題になりますか?

 

マーク氏:

トレーニングは従来よりももっと時間を短くし、ターゲットを明確にする、ということが要求されています。必要なものを必要な時に提供する、ということがとても大事です。マイクロラーニングが人材育成について大きなトレンドという話はありますが、その方向性に多くのトレーニングが向かうと考えています。

マイクロラーニング自体のチャレンジとしては、サーチャブルかつ特定できること(アイデンティファイアブル)であることでしょう。

全体の流れとしては、まさにジャストインタイムです。そうしたアプローチは組織ではよく聞きますので、組織はその方向性に向かっているということでしょう。そしてこれはおそらく続いていきます。

 

竹本:

最後に、日本企業とアメリカ企業の違いについて感じることがあれば教えてください。

 

マーク氏:

私の印象に基づいているので間違っていれば教えてください。日本の企業がここ数年成功しているのはこれまであったものの再定義と再構築ではないでしょうか。日本企業のそういう能力はとても高いと感じます。

どちらかといえばアメリカは新しく何かをやる、新しいものを何か作る、新しく組織を作るというアプローチを取る価値観が強いです。日本企業はもっと改善について焦点を当てているように感じます。シックスシグマ(改善手法)のような領域ですね。

例えば、アメリカの自動車メーカーであるフォードで言えばマスタング以外のセダンはなくなる潮流にあります。SUVに移っていくのです。日本のセダンに比べると価格・品質で中々勝てなかったからです。結果としてあまり売れてもいません。

また日本企業の方がより長期視点が強いと感じます。アメリカ企業では次の四半期や単年度利益への意識が非常強いです。それと比較をすると日本はもっと長期的な視点で利益を志向していると思います。

そういう意味では長期的な投資は日本の方が成功しやすいように感じますね。逆に日本人から見るとどうなのでしょうか?

 

竹本:

日本人は改善が得意というのはおっしゃる通りかと思います。もっとこうしたらよくなるという領域は得意ですが、ゼロベースで何かを生み出すことは不得意というかあまりやってきていないと思います。現在それで多くの企業はイノベーションを志向し苦労しているところだと思いますが。

また長期的な視点については、もともとはそういう傾向が強いとも感じますが現在では、株主対応が重要になってきているトレンドはあります。したがって短期的な利益を追求する傾向はますます強まっているように感じています。それにより強みであったはずの長期的な視点が薄まってきているように感じます。

 

マーク氏:

日本のマーケットの変化として、長期的な話もそのうちの一つなのでしょうね。

短期志向への変化の影響などはもしかすると色々なところに出てきているのかなと想像します。

日米の違いを見る時に、どのように人をトレーニングするのか、なぜトレーニングするのか、という背景を探ると、いろいろな違いはあるかなと感じます。長期的か短期的か、改善をすることを目指すのか新しいことを目指すのかという視点、さらには人を採用するのが大切か、人材開発するのが大切かという論点もあります。

アメリカ企業での人材開発は、それをやらないとその人が競合他社に行ってしまうからやるという側面は強くあります。アメリカでも日本でも離職はクリティカルな課題だし、再度採用するにはお金がかかります。何のために人材育成をしていくのか、という視点を問い直すことも重要でしょう。

 

竹本:

日本の育成トレンドなども変わってくるかもしれないですね。