「心の力」の歴史①

レジリエンスというキーワードに代表されるように、「人の心」や「心が持つ力」が現在の経営のトレンドと言えます。しかし色々な考え方や専門用語が並び、「結局何が自社に必要なのかわからない」というお悩みもよく伺います。

今回は、「心の力」を開発するアプローチの歴史を現在キーワードとなっているレジリエンスを軸に紐解いていきます。

この歴史を理解しておくことが、「心の力」を開発する有効な方法を理解することに繋がりますので、戦略人事・幹部人材の育成に携わる経営者・人事・組織部門の方々は是非ご覧ください。

人の心を見る視点 ~知・情・意~

まず現在理解・普及が進みつつあるレジリエンスを考えてみましょう。レジリエンスは「回復力」という意味ですが、もっと直接的に言いますと「感情のコントロール」「感情のマネジメント」ということになります。それではこの「感情のマネジメント」を成立させる要因は何でしょうか?

古くは哲学者のプラトン、近代に入ってはエマニュエル・カントが人間の心の基本的要素として「知」「情」「意」という3つをあげています。

<人の心を形成する「知・情・意」モデル>

上手のように「感情」は「情動」としての「情」と、「意思」としての「意」の間に存在する世界と言われています。つまり「知能」としての「知」によってコントロールすることは出来ません。ちなみに「知能」と「意思」の間に存在するのが「論理」ですが、いくら論理によって感情の動きを理解できても直接感情をコントロールすることはできないのです。感情をコントロールするには、「情動」と「意思」の2つをコントロールすることが必要になります。

感情が生まれるメカニズム

情動とは条件反射や身体的行動という生理的で無意識的な反応です。そしてこれらの反応は脳内にある意欲や快情動を司る「ドーパミン」と注意、集中、不安、緊張を司る「ノルアドレナリン」の2つのホルモン、そして2つののホルモンを調節して、平常心を作り出す「セロトニン」の作用であることが脳科学の進歩で分かってきています。

つまり「感情のマネジメント」とは、まずは、セロトニン分泌のコントロールによって、ストレスが原因で分泌されるノルアドレナリンを調節することということができます。

次に情動から感情を発生させる「観念から生まれる認知」が存在します。つまりある観念(信念とも言えます)によって無意識的な認知が前提として存在し、その認知を通して情動を処理をすると感情となるのです。そしてそのを生み出すものが意思というわけです。感情は情動に意思が加わって「恐れ」「怒り」「悲しみ」「喜び」などの形で外に出てきます。

情動コントロールの技法 瞑想法

ちなみに情動を形成する2つのホルモン分泌は生理的・先天的に強い人と弱い人が存在しますが、後天的な訓練によって調節力の開発ができることも脳科学の実験で検証されてきました。その一つが禅の中にある「瞑想法」です。坐禅による呼吸法を行うと、脳波に特別なα波が現れて、大脳皮質の活動が鎮静し、心理的に緊張、不安、抑うつ、敵意といったネガティブな気分が改善され、元気な心の状態が現れたり、前頭前野が活発に活動し、意欲、集中力、直感力が上昇したりすることが分かっています。そしてこれはセロトニンの活性化によるものであるというエビデンスも得られています。このことは音楽や芸術鑑賞、或いはスポーツやフラダンス、ヨガなども同様な効果が出るといわれています。

「瞑想法」は今日「マインドフルネス」と呼ばれて西洋を中心にメンタルヘルスへの対策として普及し、最近では日本でも流行しつつあります。しかし元々この技法では情動や感情を導く認知のあり方が変わるわけではありません。結果として「情動のマネジメント」には役に経ちますが、「感情のマネジメント」には有効ではないと言えます。そのように考えると例えば「折れない心」や「自分を奮い立たせる」といった感情のセルフマネジメントに対しても効果を発揮しづらいということがわかってきました。※ちなみに元々そうした「折れない心」を持ち、さらに「自分を奮い立たせる」ことがある程度できる人に対しては絶大な効果を発揮します。

感情マネジメントの技法 認知行動療法

こういった問題を解決するために登場するのが、「認知行動療法アプローチ」です。

このアプローチの特徴は、「逆境やストレスに対する自分の考え方(観念)を変える」ということです。そしてその感情マネジメントが目指す「レジリエンス」について、心理学者達は40年以上に渡って、思考プロセスが「レジリエンス」に及ぼす影響やその役割について調査をしてきました。

その中で、ある事実に直面します。それは、

  • 人は人生経験を通して特有の思考スタイルを持つ
  • それによって自分が置かれた状況に対して不正確な(論理的でない)思い込みを生み出す
  • それにしがみついて無駄な感情エネルギーを費やしている

という事実です。

例えば、一度上司に怒られた人が「どうせあの上司は自分のことが嫌いなのだ、何をやっても認められるわけがない」などと極端なネガティブファンタジーに囚われるのがその例です。

そこから彼らは「レジリエンス」を持続的かつ根本的に構築するには、自分の「レジリエンス」に繋がらないネガティブな思考の癖(観念)を知り、それをポジティブに修正することから日常の認知のあり方を変えるのが、自分の感情のコントロールに最も効果的であるという結論に至りました。これは認知に対してアプローチしていくという意味で「意思のコントロール」と言ってよいでしょう。

※この記事は、2部構成です。「心の力」の歴史②はこちら