レジリエンスとは何か? その基本的な考え方を理解しよう

最近では、レジリエンスという考えにビジネス社会を始めとして様々な業界から強い関心が寄せられるようになっています。すでに取り組みを進めている企業様も多いかもしれません。IoT、人工知能などを始めとする技術革新やビジネスのグローバル化によって、ビジネスを推進する上で、たくさんのこれまでとは異質な取り組みが要求されるプレッシャーが凄まじくなっていることが最も大きな要因といえます。結果としてうつ病や心の病からくる不祥事、最悪の場合は自殺などがどんどん広がり、企業のみならずどこの組織においても活力がなくなりつつある、という懸念がますます大きくなっています。

参考:厚生労働省統計 精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、平成11年は204万人、平成23年は320万人。近年大幅に増加傾向にある。

一方で、その中で「人の力」をリバイバルさせ、パフォーマンスに活かしていこう、という考え方に改めて目を向けて進んでいこうとしている人や企業も多いのは確かです。

今回はそうした組織を目指している経営者や人事・組織部門の方々に、人のマインドとして力として注目を浴びているレジリエンスについて、その意味と考え方を解説をいたしました。

レジリエンスの歴史

レジリエンスとは、逆境によって心が折れてしまった時の「回復力」を言います。

レジリエンスが強い人は、強いプレッシャーにさらされても一時的に凹んでしまっても、すぐに立ち直りますが、弱い人はプレッシャーに負けて精神的に沈み込んでしまいます。さらにもう一つレジリエンスの特徴をあげるとプレッシャーに対して、踏ん張ってなかなか沈み込まない、という「胆力」もレジリエンスの一つとして捉えるようになっています。更には個人ばかりでなく、集団や組織単位にもレジリエンスの範囲を広げて捉えるようにもなっています。

心理学におけるレジリエンス研究は、もともとは第二次世界大戦時のホロコースト(ドイツ軍によるユダヤ人の大量虐殺を指す)において生き残った子供たちを対象にした研究が出発点です。自分の生命が常に危機にさらされている、という異常なストレスを経験したことによって、その後の人生で不信感、ネガティブな感情に満ちた人生を送ってしまう人も多かった一方で、何人かの子供たちはトラウマや不安を乗り越えて前向きに生活をしていました。同じ経験をしながらもその後の人生が大きく違うのは何故なのか。こうした問いが出発点にあったと言います。そしてその研究の結果で得られたのは、逆境に対する耐性の有無がその後の人生に影響を与えていた、ということです。つまりこの「逆境に対する耐性」がレジリエンスの原型といえます。また一方で「そうした耐性は全員が持っている」ということも発見されました。ただ耐性の程度については人によって個人差がある、というのが当時の研究結果です。

レジリエンスの構成要素

現在では、レジリエンスは生まれつきの要因であるホルモンの分泌率といったことに影響を受けることがわかってきたのと同時に、後天的な訓練によっても開発や強化が可能であるということが分かってきました。

そういった経緯を受けて冒頭に説明したようなストレス社会の現代において、必須の基礎力として大きく注目され始めたのです。企業がうつ病によって失う損失は莫大なものになります。(参考値として、従業員1名がうつ病になった時のコスト試算として1人あたり約1000万円というデータもあります。)こうしたことからも予防的にもレジリエンスを高めておく必要性が高まってきています。

では、具体的にレジリエンスの構成要素を見ていきましょう。

以下の3つの力と6つ要素で構成されていると言われています。

<レジリエンスの構成要素>

従って、レジリエンスの開発とは、3つの力を高める6つの要素を開発・強化していく、というのが基本的なアプローチとなります。

マインドフルネスとの関係

以前は、ストレスに対しては「ストレス・コーピング」という概念によって対応するというのが主流でその主軸は「ヒーリング(癒し)」にありました。しかしNHKクローズアップ現代やプレジデントなどメディアプロモーションの後押しもあり近年ではレジリエンスに脚光が当たるようになってきました。

またもう一つ関連した流れとして、Googleが導入したことで広く普及した「マインドフルネス」手法を取り入れているということも、「心」に関するアプローチが大切であるということに関心を向けさせているようです。

すでにご存知の方も多いかとは思いますが、「マインドフルネス」は、瞑想(ヴィパッサナー瞑想)によって自分を客観視できる能力を身に付け、それによって感情を制御しようとするアプローチです。MIT(マサチューセッツ工科大学)のジョン・カバットジン博士が開発した手法で、「瞑想」の宗教的な要素を排除し、心に影響を与える部分を体系化したプログラムともいえます。

一方でこの手法は、強いストレス状態を呼吸や瞑想といった状態におくことで、客観視するという効果を生み出すもので、元々エネルギーが高い人や強い意思を持った人たちが、何らかのストレスに陥りエネルギーがガス欠状態になった時にエネルギーを補充するイメージの手法です。

では、もともと意思が弱かったり、自信があまりない人の「そもそものエネルギー強化」はどのようにすれば良いのでしょうか。そのような中で最近紹介されたのが、認知行動療法の手法を用いたレジリエンスの強化なのです。そうした意味では、レジリエンスとは「上に上がっていく力」や「その力自体を強化」していく方法論を指し、マインドフルネスはそれを実践する過程での有効な手法論という位置付けだということができるでしょう。優劣をつけることに意味はありませんが、こうした関連性を理解しておくことは非常に重要でしょう。元々の心のエネルギーの絶対値を高めたいのに、流行している手法としてマインドフルネスを活用するのは、使用法が間違っている、と言えるからです。今自社が抱えている人の心の課題を正確に掴み適切な手法を考えてみると無駄な投資はせずに済む、というわけです。

レジリエンスの先にあるもの ~モメンタム~

以上見てきたようなレジリエンス力は現代のビジネス環境のもとでサバイバルしていく、という意味で必須のスキルといえます。ただしあくまで「サバイバルに必須」という能力です。レジリエンスは上述のように「回復力」というのがその本来的な意味合いなので、「回復した先」の能力開発やパフォーマンスの発揮については、レジリエンスの範囲として視野には含めているものの実効性のあるものはまだ開発されていない、という現状があります。

「回復」に至るまでは、ある意味自分が置かれた環境を論理的に客観的にとらえるようなアプローチが有効になります。そしてそれがレジリエンス力を高めるための技法です。一方ですでに回復している、または回復した、という方々が、より前向きにクリエイティブに未来を創造していくという心的能力はレジリエンスの開発技法だけではカバーできない領域として残っています。

そうした「回復した先」に発揮していく能力のことをモメンタムと言います。それは「活力」という意味で、「覇気」や「バイタリティ」を生み出す要件です。こうした要件がなければ、現在求められている「イノベーションを起こす」ことにつながらないことも分かっているため、「モメンタム」も視野に入れて自社に必要な事柄を整理していく必要があるでしょう。

社員の皆様のマインド強化をご検討の方は、巷の「レジリエンス研修」や「マインドフルネス研修」を検索し発注する前に、一度立ち止まって、自社の社員に今足りないものは何か?今後求めていきたいものは何か?という観点で計画立案をされてみることをお勧めいたします。その際は自社の5年先のビジネス環境や経営戦略から考えてみることがポイントです。もし計画立案で筆が止まるようであれば是非お気軽にご相談ください。