どうしたらイノベーションを起こせるのか? デザイン・ドリブン・イノベーションの考え方

現在の経営活動には以前よりもますます戦略論が求められているように思います。

デジタル・ディスラプションという言葉で表現されるように業界構造が一夜のうちに一変することが現実としてあり得るからです。その中で受け身の姿勢は経営の「突然死」につながる可能性がますます高くなってきています。

ドラッカーは企業活動の目的を「顧客の創造」と定義し、そのための重要な戦略的アプローチを「マーケティング」と「イノベーション」の2つに整理しました。そして今の経営環境では「イノベーション」を起こす方法論がかなり重要視されてきています。

そこで今回は、「イノベーション」につながる注目の考え方である「デザイン・ドリブン・イノベーション」について考え方やポイントを解説してまいります。

デザイン・ドリブン・イノベーションとは

皆さんは「デザイン・ドリブン・イノベーション」という言葉を聞いたことはありますか。これは今EUを中心に展開され始めているヨーロッパ全体の行政をあげてのビジネス戦略の概念です。そしてその効果性から全世界で注目を集めている戦略のテクノロジーなのです。もともとはイタリアミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が提唱しました。

10年くらい前から欧州で注目され始め、特にこの2年程は欧州では国を挙げての推進・展開となってきていますが、残念ながら日本ではまだまだ本当に一部の企業や大学が研究に取り組みを始めたテーマというのが実情です。ただし恐らくは今後2~3年の内に日本でもその本質的な意味から「デザイン・ドリブン・イノベーション」戦略を推進していくことになると思います。

最近日本では「デザイン思考」という考え方が普及し、流行しているので、経営に対してデザインの考え方を取り入れると言った考え方自体には馴染みのある方も多いと思います。しかし「デザイン・ドリブン・イノベーション」と「デザイン思考」は本質的に異なる(というよりも活躍の場面が異なる)ものなので、ここではわかりやすくその対比で考えてみましょう。

デザイン思考とはもともとアメリカから紹介された問題解決のテクノロジーと言えます。現在では東京大学・慶応大学などでも研究が盛んにはじまり、ビジネスの現場では一流企業中心に国内に置いてもどんどん導入されつつあります。

デザイン思考とデザイン・ドリブン・イノベーションでは、まずデザインについての考え方が異なっている部分があります。アメリカにおいては、どのようなデザインをすれば「よりよく売れるのか」という視点が根底にありますが、欧州におけるデザインの源流は、日常に美をもたらすために、美術・工業・手工芸をどのように組み合わせるか、という視点が根底にあります。ビジネスの文脈にかかわらず、人を幸せに居心地良くするという無意識的な思想が流れています。そこでは販売はある意味結果という捉え方になります。

そうした考え方の違いから、アメリカでは「何故」といった思想や概念よりも「どうやって」といった手法論がより深く発達してきた歴史があるとも言えます。デザイン思考はこの流れからくる手法であり、どのように変えれば、よりよくビジネスが成長するか、という戦略策定のプロセスにデザインの組み立て方を導入した技術として発展したと言えます。

一方で欧州発の「デザイン・ドリブン・イノベーション」はある意味「デザイン思考」の源流に焦点を当てて、その土台の方を深堀した戦略の考え方ということができます。つまり「何故」を問うアプローチです。ここで云うデザインは色や形のことだけではありません。地域作りなどあらゆるものがそのカテゴリーに入ってきます。デザインの本来の意味はラテン語の「企画する、意図する」という意味ですが。様々な要素を「一体的な世界観として有機的に組み合わせた」世界作りといえるからです。例えば、これまで北欧は自然との調和、イタリアは人・モノ・スペースのお互いの関係、といったように個別なものではなく一体的な世界を中心に有機的な体系を組み立ててきています。

現在企業が生み出している価値の中で、「製造品質の安定」などはもはや当たり前であるという認識になっています。単純なモノやその機能、一定程度の品質では差別化には限界があるのです。その中で、どの企業も何か新しい技術を、といって技術や製品を磨くことに注力していきますが、残念ながらそうした技術開発だけに依存していては時間や資金が続かない状態に陥ってきています。また仮に何かの開発に成功してもイノベーションはコモディティ化する傾向にあるため、表面的な改良に終わると、すぐに真似されてしまいます。

にもかかわらず、まだ多くの企業は、技術革新に焦点を置いた製品開発やビジネスモデルの開発へのイノベーションへの努力で止まっているような印象があります。もともと革新的な製品・サービス・製造技術の開発、ビジネスモデル研究開発は大手企業において取り組まれ、大手の企業のリソースがあるからこそ(失敗もありますが)成功まで導くことができる、という性質を持ちます。ITにおけるハイテク革命は確かに大手以外のプレイヤーもその競争に参入できる余地を生み出しましたが、本当に革新的な技術開発となると膨大な蓄積を必要とします。これまでの蓄積がないプレイヤーがIT技術を駆使してビジネスモデルを変えるだけでは、とてもその蓄積に追いつくのは不可能です。したがって一朝一夕ではその構造は基本的には変わらないでしょう。もちろん日本の経済を支える多くの資金がない中小の組織には、そう簡単にハイテクなイノベーションは実施できない現状にあります。

「意味」のイノベーション

ここで注目したいのが、企業の優位性は、技術力だけではない、という事実です。企業にとっての競争優位は、一般的な意味においては、顧客の「問題解決」や「生産性の向上」をもたらせることです。一方でそれに加えて、市場に新しい「意味」をもたらす、ということも企業の優位性となる重要な要素になります。

現在はビッグデータの普及により、ハードではなくソフトウェアがモノやサービスの価値を大きく決めるようになってきています。そしてユーザーは「モノの消費」から「コトの消費」へと明確にスタンスを変えています。つまり「何ができるか?」ではなく「最終的に問題解決されるか?」が重視されるようになってきています。

今やモノの価値は基礎としての機能と品質だけではなく、「何故」ユーザーはそれを欲しがるのか?という意味を作り出し、その文脈に共感を作りながら消費者やユーザー

の問題を解決すること、になってきたわけです。つまり市場の求める意味に応えることが重要な戦略になってきている、ということです。

「デザイン・ドリブン・イノベーション」はデザインが主導するイノベーションです。これは市場に新しい意味を生み出す革新活動であり、企業が出来る範囲のちょっと先をやりながら大きな転換を図る取り組みといえます。そこで最近この「デザイン・ドリブン・イノベーション」を「意味のイノベーション」と呼ぶようになってきています。意味のイノベーションはまさに今後の戦略に求められる「創造的問題解決」の概念です。

意味のイノベーションとは、「①使い方②シンボル③ユーザーの感情」の3つに「何故」という変化を起こしていく戦略的取り組みといえます。

人はモノそのものよりも、モノとそれが関わるサービスの意味を買います。一方で意味は同じモノやコトでも人の生活様式や文脈によって変わってきてしまいます。しかし逆に、意味に内在するメタファー(表面的には隠されているがその意味の中に意図されたこと)を起点に意味を操作して、上手く人に伝達し遡及できれば人の中に新しい意味を創出できるということでもあります。

そしてこのことは意図的に市場に新しい意味をもたらせるということを意味しています。ユーザーにとってモノ、サービス、プロモーションが意味のある一つのパッケージとして認識され、そして単独の製品よりも製品を取り囲むシステムに関心を持ち、顧客やユーザーが商品とどう出会い、どのような使用経験を積んでいくかを如何に設計していくか、これを考え抜くことが非常に重要になります。そしてその為にデザインが役割を果たすのです。それを起点にクリエイティブに市場に意味を作り出していくのです。

アメリカの「デザイン思考」は製品・サービス・プロセスに対してデザイナー的なアプローチで「どうやって」という変化を与える技法です。そしてそれはどちらかという既に今あるものを起点に考える取り組みです。一方で「デザイン・ドリブン・イノベーション」は、「何故」を起点として積極的にユーザーを創造する「意味のイノベーション」なのです。

意味のイノベーションを起こすには

さて「意味のイノベーション」においては、デザインの考え方をマネジメントとクリエイティブの間のコミュニケーションだけでなく、マネジメントと技術者との間のコミュニケーションに落とし込むことが必須となります。

デザイン・ドリブン・イノベーション、つまり「意味のイノベーション」において鍵となるのは、「デザイン・ディスコース」だからです。

※デザイン・ディスコースとは「あるデザインが、社会的な文脈の中で何を意味し、また、なぜそれが必要なのかを、様々なステークホルダーとの対話を通して分析する概念」と言われています。同じロジックで語りあえる人同士の議論では、イノベーションへの視野が狭くなる傾向が示唆されているため、重要視されている概念。

つまり「意味のイノベーション」がよりよく起こるようにするのは、人的ネットワークでの対話を通じてコンセプトを作っていくプロセスにある、ということです。

ちなみに組織開発でも同じことがいえます。そこでは、イノベーションにはコラボレーションが必須である、ということが以前から言われています。そのように考えると「意味」のイノベーションもそうしたことができる組織作りとは切っても切れない関係にあるということができるのでしょう。

さて、貴社の戦略をイノベーションに向けて立て直そうとお考えであれば、まずは問題意識を共有するところから始められると良いかと思います。それは「自社はどの方向性のイノベーションを起こそうとしているのか」という問題意識の共有です。お近くの戦略策定に関連する方々と議論することから始められるとアイディアが生まれてくることも多いでしょう。もし何から進めるべきかお悩みでしたら、是非お気軽にお問い合わせください。作戦立案のパートナーとして情報をお持ちします!