「心理的抵抗の本質を理解し、適切な手を打つことの大切さ」

皆さん、こんにちは。

30年以上のコンサルタント稼業を経た結果として、多くの変革活動の失敗は、計画よりも実践面での抵抗であるということを実感するわけですが、農協の様にそれを何度も繰り返しながらも未だに計画の作り直しに没頭する体を見ていますと全く持って不可思議にしか思えません。

しかしこういった状況は農協に関わらず、大手企業の経営企画にも同様の兆候が見られるのですから呆然とするばかりです。

 

~計画したものが実践されない:行動不全の原因~

さて実践面、つまり行動不全には一体どのような理由があるのでしょうか。

最も単純なのは「どうして良いのかが分からない」といった状況です。これはスローガン的な掛け声をするだけで、後は現場任せにしている組織に顕著です。何かをやらなければならないことは分かっているが、何処から手を付ければいいのか、またどのように進めて良いのかが分からず現場が混乱状態に陥ってしまっているわけです。

 

次に来るのが、「分かっていても出来ない」という状況です。これは分からないとそう大差のない状態と云えます。心理的に悪意や後ろ向きでの抵抗は無いわけですから、分からないのを分からせてあげる様に、出来るようになるまで支援すれば多少時間は掛かるかも知れませんが動きは起き始めます。

 

問題は「分かろうとしない」、或いは「やろうとしない」という状況です。これは知力や能力の問題ではなく、意識の問題です。気持ちの問題と云っても良いと思います。

ところが面白いことにそういった次元が異なる問題であるにも関わらず、「それは思考力や理解力が足りないからだ」とばかりに知力向上の為の教育や能力研鑽の為の研修に邁進する組織が結構多く存在しています。そういった場合は当該担当者の方の意識を疑いたくなる所です。

 

繰り返しになりますが、意識レベルでの問題は論理力とか読解力といった能力レベルの問題ではありません。「馬を水飲み場に連れて行くことは出来るが水を飲ませることは出来ない」という諺がありますが、水を飲むか否かは自発性の問題です。同様に能力を向上させようと意識するか否かも自発性の問題です。やる気のない者に働きかけても「蛙の面になんとやら」となるばかりです。やる気へのアプローチは動機付けになります。

 

~実践に必要な動機について考える~

では動機とは一体どういった存在なのでしょうか。

動機とは「行動へ繋がる意思を支配する欲求」ですが、欲求には成功願望と失敗恐怖の二つの世界があり、動機もこの二つの欲求の影響を受けているということが分かっています。人はこの二つの世界がもたらす欲求反応に従って意識的無意識的に関わらず行動を起こすのです。

その一つに「正常性バイアス」という心理作用があります。これは常に「自分は正しいと思いたい」と思考する心理作用です。人はその生命維持の歴史において「自分が正しいと思わないと生きていけない」と思う局面に何度も立ち会っています。

例えば不条理の場面です。周りが次々に死に直面する場面においても、「自分だけは助かる」といった思考をします。これが判断を遅らせる要因にもなりますが、これがなければ心が萎えてしまったり折れてしまったりして、自らを座して死を待つ状態に導きかねません。狩猟の時など、仲間が殺されても諦めずに狩りを成功させなければ自分が生き残れないからです。こういった歴史から育まれた正常性バイアスという心理は二律背反の側面を持っています。そして自分の経験や概念の枠組みに囚われた中での自己正当化が抵抗となって表れてくるのです。

また人には「マウンティング欲求」という心理作用もあります。マウンティングはマズローが唱えた基本欲求の一つである「自我地位」欲求の現れです。動物が自己の優位性を示すために、相手に馬乗りになる行為から象徴されるように、人間が集団における自分の地位の安定を諮って相手に格付けを示そうとする行動です。見栄の張り合いなどはその典型的な行為と云えます。この行為もその根には、自由とは支配されないことであり、それには人より上位でなければならない。そして支配されない為には支配されないための何かを持っていることが重要で、それを示す必要があるという心理から発せられています。

日本では肩書きが大きな領域を支配しています。従って自分の地位が揺らぐことや、まして地位が下と見なしている所からのアプローチには反射的に行動を起こすのです。「言っていることは分かるが、お前に言われたくない」といった心理は、社会的地位としての学歴や年齢、職位など様々な格付けから想起されます。

ともあれ、こういった正常性バイアスやマウンティングと云った動機による意識が知性や能力を凌駕して条件反射的に感情的発露を起こすのです。

 

マイナス的な動機を反転させるにはプラス的な動機をもたらすしかありません。確かにものごとを論理的に理解する知性も必要ではありますが、マイナス的な動機という感情的な意識は幾ら論理思考を訓練しても行動に結びつくものではありません。

実はこれも「パワー」がもたらすリーダーシップの根幹をなす重要ポイントの一つなのです。パワーの本質は「行動に直結する感情に動機をもたらす存在」だからです。

 

さて皆さんは「ソモサン?」。