実存の危機を演出するマイクロ・バースト技法

JoyBizでは来年に向かっての新たなる事業活動をすべくその準備を始めています。

それを念頭に今回は前回ご紹介した意に影響するリーダーシップに必要なアイデンティティをしっかりとさせるにはどうすれば良いだろうか、ということについて話を深めていきたいと思います。

 アイデンティティの形成と実存の危機

アイデンティティを形成するのはしっかりとした意のある心の容器の保持とそこに常に満たされているエネルギーの状態と言えます。つまりしっかりさせるとは、エネルギーの熱量を増やすという取り組みと容器を強くすると云う取り組みの2つを行うと云うことです。

両者は常に一体の関係にあります。熱量を増やすということはまずその為の心の容器を大きく逞しく作り替えなければならないということですし、当然その容器にポジティブなエネルギーを蓄える術も知らなければなりません。こういったエネルギーのことをマインド・ヴァイタル(精神的な熱量)と称することや、それによって産み出されるフォース(精神的な力)をレジリエンスとかモメンタムと称すると云うことは以前にも触れさせて頂きました。

さてマインド・ヴァイタルを蓄える心の容器は鉄のような剛性に長けたモノではありません。寧ろゴムのように柔軟でしなやかなモノでないと直ぐに壊れてしまいます。丁度風船のようなモノを想像して頂けると良いかと思います。

元々人は誰しもこの風船のような容器を持っています。ただ人によってこれを大きく膨らますことができたり、その繰り返しによって容量自体も大きくできている人と、膨らました経験がなくて容器が堅くて小さい人の違いがあるわけです。

容器を大きくするには、容器を膨らます経験が必須です。これは結構苦しい体験です。しかし、人によってこの経験を苦しいと捉えるか、それとも成長の機会捉えられるかは千差万別です。

これは丁度風船を膨らませるときに、息を吹き込む作業が最初は簡単でも次第に苦しくなるとか、最初に風船を膨らませるときにはかなりの吹き込む力が必要なのと似ています。

従って、最初の苦しさを嫌がったりそれで直ぐに諦めたりするような人は容器を柔らかくすることもましてや大きくすることは叶いません。また最初に膨らませるくらいの力では容器はそうそう大きく逞しい状態になるわけもありません。継続した努力が必要です。

 

人の持つこういった意や情に関わる領域は、頭の中だけで空想する知の力では全く分からない世界です。例えば、手を火に翳さない限り火の熱さは絶対に分からないのと同じです。知的エリートと呼ばれる人はこの経験による知識や意識が致命的に欠落しています。そして人によってはそれを隠そうとして自己防衛的な反応をするので始末に負えなくなっていきます。そういう人のリーダーシップは傍迷惑な存在です。しかし、現代の若者は意外なくらいにそういった意味での頭の悪い人が増加しているのには閉口させられます。

では、何故そういった状態になってしまったのでしょうか。それは前回紹介した「実存の危機」の経験が少なくなってしまったからに他なりません。一言で言うと「平和ぼけ」という奴です。
戦前までの日本は身の回りに常に死という世界がありました。武士の時代は帯刀していましたし、飢饉などによる餓死が現実的でした。明治以降は徴兵制や戦争によって常に死が隣り合わせでした。昭和までの人は常に死生観を持って生きていたわけです。その為に「自分の身は自分で守る」ということから自己責任意識がしっかりしていました。
現代はそれが失われてしまったのです。まして昨今の風潮は「実存の危機」を環境的にも排除しようとする風潮です。丁度食べ物を無菌化するに連れて菌への抵抗力を人がどんどん失っているのと近似した状態です。

死を考えずに漫然と生きていける社会が、その見返りとして、人からアイデンティティや心の抵抗力を奪い取っているわけです。そして判断力すら持たない意のひ弱な人材が大量生産される世の中になってきているわけです。その典型が今のネットの中に現れています。

そういった中で人としてアイデンティティをしっかりとさせるには、意のリーダーシップが発揮できるようになって貰うしかありません。それには「実存の危機」の体験が外せないのです。

 マイクロバースト法で実存の危機を乗り越える「小さな成功体験」を!

私は懇意にして頂いている禅の和尚でもある精神科医の川野氏から、「PTSD」について教授を頂いています。PTSD(外傷後ストレス障害)とは、肉体的精神的に死に値するような体験によって様々な心の障害が発症することですが、最近そういった経験者の中から「PTG(外傷後成長)」という現象が起きてくることが分かってきているそうです。これは危機的な出来事や困難な経験による精神的なもがきの結果、強いポジティブな心理変容が起きるという現象です。東日本震災でも多くの症例が抽出されています。

まさに「実存の危機」からの成長体験です。しかし、これだけのデータでは多少乱暴な見方になります。そうならなかった人もいるからです。いきなりの大きな体験はリスクも大きいわけです。昭和40年代に企業教育の中で、こういったことに近い取り組みで大きな失態をしてしまった所が続出したのも事実です。さあ困りました。

 

そこに川野氏はもう一つの理論を教授下さいました。それは「複雑性PTSD」という考えです。大きく単回ではなく、長期で反復的に続く外傷によっても同様の症状が起きると云うことです。幼少期のネグレクトがその代表です。実は現代の若者の心の闇やウツ、ネガティブさはこれに起因している方が多いと云うことなのです。

重要なのは、複雑性PTSDは小さな危機の繰り返しなので、その克服は通常のPTSDより容易であると云うことです。これは牛若丸が鞍馬の修行で竹を少しずつ飛び越えることから跳躍力を磨いたことと似ています。小さな危機とそこからの小さなPTGを得るという繰り返しによって心を鍛える、容器を膨らましていくというアプローチです。

このアプローチは、竜巻の時に起きる「マイクロ・バースト」と云われる小さな下降流(それでも飛行機を墜落させる原因になっている)から名を取って「マイクロ・バースト療法」と呼ばれています。

マイクロ・バースト療法は、精神病療法として一般的な「認知行動療法」を活用しながらも、これを「小さなストレス体験」と組み合わせて療養や癒やしではなく、より心の強化に向けて予防策として行うアプローチです。

例えば、ストレス体験を成長に切り替えられた(真の意味でのレジリエンス力を身に付けた)人は、苦しみを楽しみに変える力や苦しみを昇華する能力をもっていることがレジリエンスの研究で分かっていますが、これは事前の目的意識やアイデンティティの保有やポジティブ価値観の保有、何らかの成功体験の保有が鍵になっています。

この様な理知的な理入と体験的な行入を織り交ぜた心の道場での修行が有効なわけです。

川野氏は、これはまさに禅の修行そのもので、禅は一般に坐禅ばかりが取り上げられるが、実は禅は公案や作務など含むより総合的なアプローチでマイクロ・バーストを経験する世界であると話されています。

弊社の公開講座であるELD(エクゼクティブ・リーダシップ・デベロップメント)は、まさにマイクロ・バーストを体験する場です。来年はこういったプログラムのバリエーションを増やしていく所存です。

 

さて、皆さんは「ソモサン」?