詐欺師に騙されるのは知が足りないからか意が足りないからか

恩田 勲のソモサン第二十回目

皆さんは結婚詐欺師の手口を知っているでしょうか。因みに今年の上半期にテレビドラマで「コンフィデンスマン」という番組が放映されていました。詐欺師とは人を騙すことを生業にしている輩のことですが、中でもコンフィデンスマンと称される存在は相手が最後まで騙されたと気付かないままにことを成し遂げる存在だと云うことです。
さてその詐欺師の中でも最も見苦しい詐欺を働くのが結婚詐欺師と私は認知しています。人の善意や寛容さに付け込み、人を利用して金銭や快楽的生活を享受するとなれば人の生き様として下劣の極みと云えましょう。ヒモよりも始末が悪い存在と云えます。そういった存在の結婚詐欺師ですが、その手口は人の心理において最も特性的な部分を実に巧妙に突いたアプローチをしてきます。その能力をもっと人に役立つことに使えば自分も他人も相当に報われるのになあ、と思う次第です。

さあではその巧妙なアプローチについて触れていきましょう。
人には第一印象という先入観に関わる心理があります。人は相手の人となりの70%を第一印象で決めてしまうと云われています。その典型が一目惚れです。そして人にはもう一つ、最初に懐いた印象を基点に物事を捉えるという特性があります。例えば第一印象で対象を「ポジティブなイメージ」として受け入れた場合、それ以後の見方はポジティブを基点とした見方になるということです。人は自分は正しいと自己肯定化する防衛機制がありますから、一端基点の概念を持ったら、容易にそれを転換させようとしません。むしろネガティブな事象を始めとしてあらゆる自己概念を基点概念を正当化するように意識付けしようと反応します。
例えば相手が自分が思わない行為をしても、また他者が否定的な見方を示しても、「それは相手が○○という意図で善意でやったことである」とか、抗弁の余地がないことでも「きっと○○といった事情があって仕方なくそうしたんだ」といったように相手を庇うような、その実は自分の見方を追認肯定するように自分で自分に全てを言い聞かせてしまうのです。この人の習性は自尊感情が低い人ほど強くなります。間違いを受け入れられない、過剰なくらいに自分の考えに固執する(実は歪んだ自己愛)。プライドが高いという人は本当は自尊感情が低いことからくる自己保身の過剰表出に他なりません。こういった心理的反応こそが詐欺師が付け入る機会です。そして自己保身が強い人ほど容易に入り込めることになります。

薄々お察しの方も出てきていらっしゃると思います。詐欺師の手口はこうです。詐欺師はまず出会いにおいてポジティブなイメージが植え付けられるように巧妙に接近します。まずは第一印象です。ともかく善意に振る舞います。特に相手が好むような立ち居振る舞いを洞察して、善人イメージを擦り込みます。しかし入り込めたからといってすぐに馬脚を現すような下手は打ちません。じっくりと第一印象で培った善意のイメージを相手が本物であると自己規定するまでは辛抱強く演技を続けます。最低でも三ヶ月、場合によっては1年以上掛けても相手の深層心理に基点概念が出来上がるまで、善人を演じます。

そうして基点概念が出来たかどうかを徐々に試します。ちょっとした悪をまるで過失のように、或いは弱者の振る舞いのように同情を煽るアプローチによって試します。
そしてこれは大丈夫となった段階から実像を顕しだしてくるのです。
そうなると騙された方は、騙されたという事実よりも自分が信じたという意思に拘り、自己正当化に走り出します。どんなに詐欺師が悪行をし始めても、「あの人に限って」とその行為をともかく善意に解釈しようとし始めるわけです。自尊観が低い人であれば尚更です。自分は正しいという自己保身の観念に取り込まれ、理非分別が効かなくなっていきます。そうなると最早誰が助言しても耳を貸そうとはしません。
そして様々な悲劇が待っていることになります。

皆さんどうでしょう。詐欺師の手口の真相は、詐欺師側にばかり問題があるのではありません。騙される側にも何かしらの隙や抜けがあるわけです。その最も核となるのは「自己正当化」という防衛機制の発動であり、その原因は自己への拘り、特に自尊感情への埋没にあります。人は誰しも基点はポジティブでありたいと期する存在です。それは生存や進化という生物的に自然な行いから導かれる本能の表れだからです。「おぎゃあ!」と生まれたときに鼻でせせら笑うように「おぎゃ」と生まれる赤子は絶対にいません。人は生来はポジティブな存在です。これは性善説とは異なります。性善説とは人は生来善であるという概念ですが、善という概念は意思が明確に備わった段階から思考的に営まれる想念だからです。赤子に意思や思考は未だありません。
生きるという行為は時系列的に前向きな行為です。人がネガティブになるのは、生まれてから意識が芽生え、それが意思となり思考が働き始める過程において、或いは以後の過程においてその想念に何らかの瑕疵が生じたからに他なりません。つまり人は生来はポジティブでエネルギッシュな存在と云えるのです。こういった前向きでエネルギッシュな力をモメンタムと称します。モメンタムは人生の道程の中で意思の方向がネガティブに歪められた場合、或いはエネルギーが空吹き状態になって燃料が低下した場合、そしてその燃料に補充が得られない場合にパワーダウンの状態に陥ります。

またエネルギーに関しては人によって生来ではポテンシャルが少ない(燃料タンクが小さい)人もいます。こういった人はちょっとしたことでガス欠になったりネガティブになったり、引いてはウツに陥ったりします。変にプライドが高かったり、自己に固執して人の話を受け入れないといったいわゆる頑固な人もこの部類に入ります。そのため創造性は働かないし、学習が出来ないし、ということで成長が出来ず、人からどんどんと置いて行かれることになります。もちろんモテないというのもここが要因となっての問題と云えるでしょう。当然自尊感情は上がりませんし、人と差が付きますから人が気になり、ますます自尊感情は螺旋状に低下していきます。
そう、こういった人が結婚詐欺師を始めとする詐欺師に嵌められてしまうわけです。
また自尊感情が低い人ほど(慢心している場合もありますが、いずれ心に隙が生じている人ほど)、自分を信じたいと固執し、自己正当化を図りますからコンフィデンスマンにやられてしまう結果となるわけです。
モメンタムの向上は人が生きる上でのあらゆる活動の基点に影響します。モメンタムが低い人は何をやっても上手くいきませんし、また上手くいくはずがないのです。スキルの前にスキルを前向きに受け入れて物事を上手く処理していく心構えの修正こそが大切です。

因みに純朴で騙される人もいますので、やはり意思に加えて知性も必要であることは云うまでもありません。しかし世の中、無知よりも自尊感情によって失敗する人がなんと多いことか。

さて、皆さんは「ソモサン」?