• モメンタムをマネジメントする。モメンタムとモチベーションの違いを知る ~ソモサン第312回~

モメンタムをマネジメントする。モメンタムとモチベーションの違いを知る ~ソモサン第312回~

 先だってアメリカの大リーグで面白い出来事がありました。昨年阪神に在籍していたカブスの投手であるブルワー氏が怒りの壁パンチで左手を骨折し、負傷者リスト入りをしたというのです。理由は投球ミスによって2/3回で降板になったということ。本人的にはフラストレーションが溜まってしまった。骨折するつもりはなかったとのこと。まあそれは当たり前でしょうと云ったところですが、大事なのは「怒りのままに骨折するほどの暴挙に出るということ」です。どうやら大リーグでは過去にも何人かそういった人がいるそうです。欧米は狩猟民族的な色彩が強く、感情的に熱くなる人が多い風潮がありますが、そういった世界で社会秩序を維持していくには、「人は感情を理性で抑え込まなければならない」といった考えが重視されるのは合点の行くところです。

 翻って日本はどうでしょうか。日本は農耕民族として集団活動を基本とし、常にいざこざが起きないように感情を抑制するのが基本になっています。そのために海外から見ると日本人は表情がないとか、何を考えているのか分からないとか、常に抑揚のない笑顔で得体が知れないと評されています。

 確かに先のブルワー氏は身体が資本なのだから、やや軽率のそしりを逃れませんが、一方でこういった感情あふれるタイプの人は良く出れば、メンタル的に熱くてパワフルだと云えます。全てにおいて沈着冷静が良いわけでもないようです。日本では本来感情はうまく寄り添い手懐けるものでした。時には出すことも大事だったからです。戦後日本はあまりに西洋盲信になってしまったのではないかと危惧するところです。

 さて、モメンタムとは「心のエネルギーの在り方」を意味する言葉です。端的に云えば「勢い」です。物理学用語では「ポテンシャル」といったり「ボルテージ」と云ったりしますが、最近の若い人は時折「テンション」という言葉を使っている場合もあります。「今日はテンション高めー」といった具合です。

 最近ではテレビでも「勢い」がないとか「勢い」を上げろといった言葉が口にされますが、残念ながら未だに「モメンタム」という言葉の浸透は薄いようです。

 でもこのモメンタム、アメリカでは当たり前のように使われていて、IBMなどではもう30年以上も前から職場で「もっとモメンタムを持ってやれ」といったような檄が飛んでいたそうです。

 そういったモメンタムですが、どうも日本ではモチベーションと混同される場合が多いようです。確かに日本では何かと「モチベーションが上がらない」とか「モチベーションが湧かない」といった言葉は頻繁に口に上ります。でも意外と皆さんが気付いていないのは、モチベーションが上がっても動かない場合が多いということです。その理由は簡単です。モチベーションとは本来動くきっかけ、動機のことです。「動く」という行為そのものは機械を駆動させる燃料の如く何らかのエネルギーが働かなければなりません。そのエネルギーが低位であったり枯渇している状態では動きは起きないのが道理と云うわけです。

 良く「おいしそう」という気持ち(食べたい気分)はあるけれども、、食欲が湧かずに食べられなかったといった現象があります。いわゆる「喉を通らない」といった話です。そうきっかけとしての気持ちはあっても、身体が動かず欲が生まれないわけです。これが燃料不足、エネルギー不足の状態です。この状態に陥るとその内モチベーションの方も落ちていきます。モチベーションとモメンタムとがデス・スパイラル(悪循環)の状態に陥ってしまうわけです。モチベーションはあくまでも関心であって、原動力ではありません。

 ではモメンタムを上げるにはどうすれば良いでしょうか。その中にモチベーションが含まれていることは間違いありません。でも何らかのきっかけによってワクワクドキドキとかオッといった動機が生まれたからと云って、それが即動きに繋がるわけではない、ということは先に述べたとおりです。動きを起こすのは「情熱」のような感情的なうねりです。皆さんも青春(最近ではアオハルと云うそうですが)という年代層に内在する熱情的なエネルギーのことはご存じだと思いますが、この熱く滾る(たぎる)ような感情のうねりがもたらすエネルギーの動きがモメンタムです。そしてこの感情の動きが肉体的動きや思考的(脳内の)動きを誘引させ、パフォーマンスを生み出すことになります。

 ところでこのエネルギーですが、これが必要な時に発露しない場合、二つの要因が考えられます。一つはエネルギーが凍結状態にある場合です。エネルギー自体のポテンシャルはあるのですが、何らかの理由で固まってしまい火が付かない状態になっていることがあります。まさに「心凍らせて」の状態です。もう一つがエネルギーを使い切ってしまい枯渇してしまっている状態です。いわゆるガス欠ですね。モメンタムが発動しない場合、その要因がどちらにあるかを見極めることは重要です。この時、一見すると枯渇状態の方がやばいように感じるのですが、この場合は充填機などのインフラが健全なのでそう問題はありません。こういった状態にある場合は、マインドフルネスによる静養と充足によってエネルギーは比較的容易に回復します。これはエネルギーの枯渇もありますが、原動機が活動疲労になっている場合も同様のアプローチを少し多めにすれば回復してきます。

 厄介なのは、心が凍り付いている場合です。程度の差はありますが、これは心に障害が生じているということになりますので、それなりの修復や補助的な駆動が必要になってきます。心が凍り付くという状態は、エネルギーが凍り付いている場合と原動機自体が凍り付いている場合がありますが、後者の方がことは面倒になります。この状態を解氷するには、丁寧な療法的なアプローチが必要になってきます。また凍り付いているというよりも原動機自体が旧式になっていて、新しいエネルギーでは火が付かないといった場合もあります。例えばアンコンシャスバイアスと称される歪んだ認知や思い込みなどが人生の原体験によって構築されている場合、原動機自体の改修や場合によっては交換も必要になってきますので、さすがに自助努力では限界があります。こういった場合にはマネジメントやカウンセリング、コーチングと云った外的なメンテナンスが必要になってきます。

 はてさて、皆さんが面しているモメンタムが上手く発動できない要因はどのようなものでしょうか。まずは自己点検が必要になります。その場合、他者からのフィードバックが最も効果的と思います。是非取り組んでみて下さい。

 では次回も何卒よろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?