• 権力が持つ動機づけの力を知って、モメンタムが発動し易い状態を考える ~ソモサン第226回~

権力が持つ動機づけの力を知って、モメンタムが発動し易い状態を考える ~ソモサン第226回~

ショートソモサン①:人間の5つの価値観と権力への志向性

皆さんおはようございます。

権力を「特別な権利(命令や決定など)によって他者に影響する勢力」と評する人がいますが、これは曲解です。権力に特別な権利は必要ありません。「他者に影響する勢力」全般を言います。重用なのは人が何に影響されるかです。一般に人は合理といった納得性や共感といった感受性によって影響されると捉えられていますが、実際はもっと本能的で欲求的な生理的な価値反応に影響されます。人が持つ価値観には「好き嫌い」「善悪」「真偽」といった弁別がありますが、最も原始的な領域は「強弱」と「得損」になります。原始的とは動物本能的ということです。

このことは、人にとっては好き嫌いとか善悪といった想念は強弱や得損といった想念に一蹴されるということを意味しています。そしてこの強弱と得損といった想念を支配する意識概念が「権力」です。つまり人はその場がいかに合理であっても、心情的に同調できても、自分の判断や行動選択は最終的に「権力」軸で行うということが真理だということに他なりません。

この現実は人の動機づけにも大きく影響します。やる気やその気の元は「楽しい」や「気持ちが良い」といった感情が重用な要素となります。その気持ちはまず純然とそういった気持ちになる切っ掛け事象が生み出します。またその感情に繋がる思いとしての理屈がそれを後押しします。時に思いと気持ちが対立することもありますが、どちらを選択するかは事象の状態をどう受け止めるかです。

ではその「どう受け止めるか」はどういう想念から浮き上がってくるでしょうか。「好き嫌い」でしょうか。或いは「善悪」でしょうか。ここが重用な視点です。実際のところこういった状況では複数の価値概念が拮抗するのが通常です。でも最終的に人はそれが「得なのか損なのか」で判断するのが圧倒的というのが現実です。何故ならばその判断基準が人にとって最も原始的な本能反応に即しているからです。

人は迷った時には最終的に「得損」で判断する。それが真理です。ところで「強弱」はどういう影響を及ぼすでしょうか。「強弱」はより人にとって急迫不正の侵害の場合に思考が働く前に反応出現する価値概念です。ですから人にとって「強弱」という状況となった場合、それは最早条件反射的に為される選択となります。そこでは「得損」も出番はありません。

「得損」と「権力」は一対です。つまり人は究極は「権力」認識を軸足に物事を選択判断する。動機もそこに起点がある。「権力概念」を忌み嫌って動機づけもマネジメントもあり得ません。しかしそのことは一方で人は本質的に「権力軸」に傾倒する習性があるということも物語っています。権力の根っこが得損であるということは、非常に利害状態に影響されるということであり、それは秩序や永続性において非合理な場面を生み出しやすい諸刃の剣であるということです。また権力が持つ魔力に陥って理非分別がおざなりになる危険性が高いということです。

人は自分が自由であるために支配から逃れようと、また自我地位の確立によって人よりも有力でありたいと、そして影響を使って自分が描く世界を得るために権力を活用したいと、時には身の安全の確保のためにより強い権力に依存しようと権力に傾倒します。そして時に歪んだ権力集中が生まれ、そこから制御できないネガティブな権力発揮が社会秩序を狂わせたり、永続の頓挫を生み出します。利己的な人が権力を持ったら最悪になります。

「権力」という社会的な基準的な要素を軽視してはなりません。人の動機づけやマネジメントに大きな影響を及ぼす権力。それを有効に扱っていくのもマネジメントの要の一つです。権力が偏ったり暴走したりしないように権力をうまく操作する「パワー・レンダリング」が組織や人のポジティブ化には外せないアプローチになります。

ショートソモサン②:モメンタムを生み出す「推進力」と「制動力」

これまで数回に渡ってご紹介してきた「権力」とマネジメント、動機づけの関係。ここらで一区切りつけて置きたいと思います。また登場はすると思います。

ということで、今回は権力とは異なりモメンタムの角度から「力」の概念に対して話を進めさせて頂きます。

前回少し「モメンタムが発動し易い状態」について触れていく、と触れました。この「発動しやすい状態」という言い回し。一体どういうことを言っているのでしょうか。

物事はそれを一定方向に推し進める動きがあります。そういったエネルギーを「推進力」と称します。しかし世の中簡単ではありません。推し進めるには、それを留めようとする反対の作用、動きがあります。「制動する」働きです。両者は一対の関係です。一対ですから推進しようとすれば応じて制動が働きます。別に無理に推進しようとしてもいないのに積極的に制動しようとする抑止は厄介ですが、多くは単純に蓋の如く推進しようとした際に反作用的な働きとなってしまう抑制の働きになります。これは非常に消極的存在ですが、それでもやはり難儀な存在といえます。とにかくこの制動力がある限りには、幾ら推進力を高めようとしても思うようには推進は果たし得ません。推進を高めるには出来ればその前に、せめて同時に制動力を弱めるなり外すなりしておかなければ効果は激減してしまいます。

さてこの制動力ですが、これにはある程度制御でき、変化させられる抑制力とせいぜい弱めれるレベルの規制力とがあります。例えば内面にあって認知や気持ちの有り様を変化させることによって弱めたり無くせるのが抑制力、環境的に自分の努力では如何ともし難いのが規制力です。

鳥が飛ぶ話で考えてみましょう。鳥の重さや羽の形状などが抑制力です。自重や形状は自力で変えていく事が可能です。しかし重力が風向き(風力)といった外圧は自力ではなかなか贖えません。しかし風向きを利用して揚力を高めることは出来ますし、高度を高めて重力を心持ち軽減させるということは可能になります。このように制動力を弱めることによって推進力の効力を高めるのが「発動し易く」という意味になります。

因みに推進力の中にも、特に瞬間的に推進度合いを激動させる「起爆力」がありますが、「モメンタム」は両者を含んだ概念といっていいでしょう。

何れにせよ、制動力が働く中で単に推進力を高める手立てを行えば、制動力の圧力が高まっていく一方という状態になり、返って疲弊しかねません。皆さんもお気づきでしょうが、世に出ている「モメンタム」絡みの指南書の最大の欠点はこの制動力に触れずに、単に推進力を高める手立てだけを謳っていることです。なぜここに触れないのかはわかりませんが、これでは現実的には「片手落ち」です。そもそもモメンタムが重視されるのは、幾らマインドフルネスなどで心の制動力を弱めても、推進力がなければ動きは活発化されないということですが、実は制動力を弱めない中での推進力の発揮も返ってマイナス要因となるという反面があるのです。

そして先にも触れましたが、この心の制動力こそがネガティブ心理や自己否定感の存在であり、それを弱めたり外す働きをするのがマインドフルネスなのです。もはや自明の理です。マインドフルネスとモメンタムとは一蓮托生、セットでこそ意味をなすというわけです。

ショートソモサン③:抑制力を無効化するための「認知行動修正法」

ではマインドフルネス以外の制動力を弱めるアプローチにはどのようなものがあるのでしょうか。制動力には抑制力と規制力があるとご紹介しました。今回は前者について触れてみましょう。マインドフルネスも抑制力軽減アプローチの一つです。その中でも抑制力自体を無力化するのが「認知行動修正法」と称するアプローチです。「認知行動修正法」は「自己肯定感向上法」とも言い換えられます。その論理背景に関しては脳科学やポジティブ心理学など幾つかの裏付けがあって少し長くなりますので、次回に回そうと思います。今回はまずは手法から入ろうと思います。

さて「認知行動修正法」の中にも様々な手法があります。今回はその中でもかなり簡便でありながら効果が大きい導入的役割を担う手法を2つご紹介しておきましょう。

最初は「弁別質問法」という進め方によって自分の思い込みや決めつけを形式知化するアプローチ法です。形式知とは無意識になる想念を書き出すことで意識化し、それによって思い込みに気づいていくアプローチです。これは日を跨って実施します。

①まず自分において顕著なネガティブ心情を取り上げます。(例:人の目が気になる。人は自分を嫌っている。)

②第一の質問です。「それは24時間四六時中終始常にそうですか」「それは事実ベースですか。それ以外は本当に全くないですか」ハイかイイエでお答え下さい。

③第二の質問です。「そう考える時、思いや気持ち、動き、反応はどのようになりますか」「それだけですか。他にはありませんか」

④第三の質問です。「その考えがなければ、どのような思いや気持ち、動き、反応になりますか」「どうしたいですか」

以上を紙に記述します。

質問を通して自問し、内観して例外を探し例外に気づいていきます。思い込みとは「偏見や凝り固まった考え方」です。そうしてまずは心の在り方をニュートラルにしていきます。

対話法でやればすぐに効果は出て来始めるのですが、自己対話の場合は何日か繰り返しながら書いたものを見返して、それを材料に内観して行きます。

話によれば、人は1日に6万回ネガティブな自動思考を行うのだそうです。更にマスコミは日々9割の割合でネガティブ情報を報道するそうです。ですから人はどうしてもマイナス思考に引っ張られて思考する中で思い込みを形成します。制動的に人の日々の状態は無意識的にネガティブに引き付けられやすい状態にセッティングされているのです。ですから自分の認知の有り様を一旦ニュートラルにするために「自分の状態に気づく」ことが大切になります。その上で自己イメージをプラス思考にポジティブ変容するアプローチをすることが望ましいわけです。

そして「弁別質問法」を踏まえて実施すると効果的なのが、マイナス認知をプラス認知に変える「イメージ・シフト法」です。

これは、自分の頭の中でドラマをイメージし、そのストーリーを書き換えるワークです。

①頭の中にネガティブな相手や場面、状況を思い浮かべます。

②その流れを一度は5分ほど進めてみます。

③今度はその流れを1分ほどで静止させてモノクロ反転させます。音や声も停めます。

④そのままサブ画面をイメージしてそこに「こうしたら良い、こうなったら良い」というポジティブな状況を流れを想起させ、「良し」という掛け声と共に画面を転換させて流れを変えてみます。

⑤そうして新しい流れをイメージしながら、五感の感覚をポジティブ的に気分良くリアルに感じてみます。

⑥最後にどう動けばその状態が実現するかを内観してみます。そして出来そうなことを思い浮かべてみます。

※この時口に出したり、書面に書いたりするとより効果的です。またペットやフィギュアのようなマスコットと擬似対話しながら進めるのも効果的です(これをアファーメーションと言います)。

まずは皆さん実践してみて下さい。そして感覚を味わってみて下さい。やる前から決めつける。これをネガティブ・ファンタジーと称します。ネガティブ・ファンタジーこそ最もマイナスな思考です。まずはそこに気が付き是正することから一歩は始まります。

次回は「笑う」や「擬似対話する」「真理受容する」といった他のアプローチ手法に言及を進めていきたいと思っています。

それでは皆さん、次回も何卒よろしくお願い申しあげます。

さて皆さんは「ソモサン」?