行動を具体的に後押しするには? ~ソモサン第201回~

ショートソモサン①徳川秀忠に学ぶ世代交代を乗り越える統治安定の条件

皆さんおはようございます。

二週間程前、国営放送で珍しく徳川の二代将軍である秀忠を特集していました。といってもやはり徳川三代という題名で、秀忠がメインというわけでもありません。それでも今回はきちんとクローズアップされる部分もあって、非常に慧眼させられる内容も盛り込まれていました。

皆さんもご存じかと思いますが、従来の秀忠像は

「親父に比べると、また他の兄弟と比べても無能だった」

という評価が強いように思われます。しかしその実をきちんと追っていってみますと、秀忠は家康のやり残したというよりも、やり切ったが故に新たに起こされた無理難題、特に身内に起きる悲喜こもごもな問題や未来における遺恨を見事に、そして目立たぬように処理していったのです。その功績は千金に値します。時には家康に逆らい、時には家康さえも活用し、あたかも全てが家康の意志のように、家康のような立場になったからこそ手を着け難くなった幕府内外の負の側面やデコボコを全て埋めて整地させていきました。時代としては武勇の方が評価される中、ほかの兄弟のようには武勇に誉も無いので、当然の如く評価が低いのですが、実際は彼がいてこそ徳川政権が約300年の基盤を成り立たせたのは間違いのないところです。

いち早く御三家を平定させて後継問題を封印したり、諸法度の制定や家康時代の家臣団を改易などで交代させるなど、武断政権を文治政権に切り換えた手腕は大変素晴らしいものでした。更に単に新旧を交代するだけでなく、家康のブレーンを死後に合流させるなど抜かりなく将軍親政体制を固めています。同時に諸大名に所領安堵の印状を発して造反も事前に押さえ込んでいます。この動きはどこか生前の安部さんに通じる気もします。

然し彼も人の子です。大阪夏の陣の際に家康の命に逆らってでも出陣して、関ヶ原の合戦の汚名を晴らそうとしたのはある意味苦笑するところです。結局前線の指揮は家康が取ったし、あれだけ関ヶ原の時にも参戦に遅れたことよりも、兵を疲弊させたことを叱責されたにも関わらず、またも兵を疲弊させて叱責されたなどは、やはり下々への関心が届かないお坊ちゃま気質なのかはわかりませんが、余程誹謗中傷が悔しかったのでしょう。

ともあれ作家の海音寺潮五郎は「家康は全て自分で決めた。秀忠はそれには及ばなかったが半分は自分で決めた。家光は全て重臣任せであった。」としています。世は家光を高く評しますが、実際は秀忠も相当に賢策を行った将軍といええると私は思います。しかも目立たぬようにと言うのが凄いところです。

実際二世という立場は辛いものです。必ず創業と比べられます。何をやっても勝てるはずがない。本当はゼロから始める方が自由で、一旦造られた上に積み上げる方は大変です。迂闊に否定も出来ません。二世は創業の実績だけでなく伝説とも戦っていかなければなりません。伝説は時と共に美化されます。最初は何をやっても勝てる道理がないわけです。

しかし二世には重要な役割があります。地ならしです。創業が耕した荒地をならす役割があるのです。そう治世です。これは階段で言う踊り場の設置と同じ役割と言えます。階段も延々と続いてはいません。必ず歩を休め、体勢を立て直す踊り場が必要になります。そうでないと次の階段に進めなくなります。この踊り場が設置されてこそ次へのステップが可能になるわけです。

ダメな親。目先の創業者はその重要性が分かりません。すぐに自分と同じものや資質を後継者に求めます。状況は変わる、それも自分が好き勝手に変える癖に子に同様の資質ややり方を求めます。そしてそれが出来ないと失望します。全く愚かな話です。

そして無能な子供は親へのコンプレックスでやはり親に勝とうと同じような動きをして評を得ようと躍起になります。そして比べられてますます劣等感に苛まされ、自分を見失っていきます。家康の時代であれば武功にはやる子はまさにその典型です。実際それで成功した例はありません。黒田官兵衛の嫡男も最初はそうでした。しかし彼が評価されたのはやはり治世の代になってからの統治の能力でした。

最初から求められている役割が違うわけです。それをきちんと担ってこそ長期政権を作る条件が揃うわけです。踊り場があって次の階段が登れるのです。

秀忠は家光以降のために治世をしっかりと行いました。武功の余韻の時代では評価されづらいわけです。それを敢えて行なった。それが300年の真因だと私は見ています。それを見切って武功はなくても秀忠に家督を譲った家康の先見性や賢明さは目を見張るばかりです。

事実家康自身が、唐の太宗の治世について記した「守成は創業より難し」という一文が存在する貞観政要を読んでおり、そこからの学びを持って次代の将軍は役割が違うといった意識でそういった英才教育を秀忠に施していたとも見受けられます。

そして受けた教育を生かして自分の天分をきちんと弁えた秀忠の優秀さも見事です。

そう見てみますと家光は特に自身が何をしたというわけでもないのに、時代が文治の時代にしっかり移行していたおかげで名君のように称されているわけで、これも秀忠の功績といえるのではないでしょうか。

これは経営者にとって絶対に看過出来ない話だと思う次第です。何故ならば企業も道理は全く同じだからです。その道理が分からないものに組織を託してはいけません。

でも残念ながら巷にはそういった道理を弁えない企業や経営者がたくさんいます。特に同族企業に多く見られます。

子に自分の分身を期待して、「至らぬ!」とばかりにネガティブに終始する経営者。それを倍加させる取り巻き。そして自分の役割を認知出来ない知能レベルで親への反逆や劣等感に苛まれたり、外でクダを巻いたり、金だけ利用して新しいことに手を出して親を見返そうとして結局滑るボンクラ後継者。

そして治世のための積極的行動ではなく、異常なくらいに過去踏襲、現状維持といった保身に邁進する2番手などが企業体力を疲弊させて、死活戦に組織を追い込んでいく姿は、目にする度に寂寥たる気持ちにさせられます。

皆さんの組織では如何でしょうか。しっかりと秀忠も評価して役割に応じた人材の育成と配置、そして活躍の場を用意してあげて欲しいものです。

ショートソモサン②:「ミスするな」はミスを誘発する ~期待する行動に移るときに必要な言葉とは?~

ではペップトーク第三弾、「行動(してほしい変換)」についてお話を進めていきましょう。

行動とは問題解決や懸念解消において「具体的に行なってほしい動き」を明確に伝える場面です。

具体的にとは「頭の中にイメージが湧く」投げかけです。出来れば「イメージを感情的に実現しようとする」投げかけが好ましいといえます。

その一番目のコツとして「ポジ言葉の徹底」があります。ポジ言葉とは「本当に能動的にしてほしいこと」です。その反対がネガ言葉ですが、実際の現場で人は単にネガ言葉を使って人を動かそうとはしません。ネガで人が動かないのは誰もが分かっているからです。問題は「ネガ言葉」×「否定語」の組み合わせです。例えば「ミスするな」といった言葉です。

一見当たり前のようですが、実はこういう投げかけは深層心理に「ミスするぞ」というマイナス効果を生み出すだけであるということが分かっています。何故ならば、「ミスするな」という言葉においてイメージが浮かぶのは「ミス」だけだからです。「するな」は添え言葉としてイメージには浮かばないのです。人の脳は肯定形と否定形を区別できないのです。皆さんもイメージして見て下さい。「ミスするな」。どうですか。しないイメージを思い起こしますか。皆さん「ミス」のイメージが想起されるはずです。そうしてそれに吊られるのです。これはミスする時の常道です。野球などでは敵方のキャッチャーがこれを使った心理戦をバッターボックスでしかけたりもします。

ですから投げかけの言葉は絶対に成功のイメージが想起される必要があるのです。例えば「決めろ」とか「確実に」のように、本当にしてほしい言葉を投げる必要があるのです。

そして2番目のコツです。それは結果ではなく、「今、すべき」行動をイメージさせる投げかけをするということです。人は結果を期待されると萎縮する動機傾向がります。分からないことに不安を抱くのは当たり前のことだからです。例えば「勝ってこい」など、最初は「よし!」と思うかもしれませんが、次第に「大丈夫かな」と不安と入り混じって悲喜交々になってしまうことも多々あります。結果を期待されて動機づけられる確率は半々なのです。何故ならば結果はコントロールできないからです。結果は自分だけの要素だけではなく、相手や周りや環境など解決がグリップできない要素が混ざり込んでいます。それは簡単にコントロールできません。

ですから投げかけの内容はあくまでも自分でコントロールできる必要があります。単にポジティブな言葉だけではなく、具体的で論理的な行動ベースの投げかけをするというのが重要なポイントになるのです。

ショートソモサン③:ネガティブになるのは「自分の影響への不安」から!

望む結果を得るために必要となる行動を相手に合った言葉で、更に可能性を喚起する感覚や感情が湧き出る言葉で伝えるのがこの段階です。

この相手に合ったとか、可能性を喚起するといった面ではパワー理論、パワー・レンダリングの技法が加わると大きな影響を及ぼすことが出来ます。3番目のコツです。

パワーとは影響力のことです。人は集団帰属としての欲求動機として純粋な好き嫌いの感情を持っています。そしてその反応で行動の選択をします。しかしもう一つ、社会的地位を求める影響(人に影響を与えたい)欲求を動機として、優劣の感情から行動の選択をしたり強弱をつけたりもします。

そして不安や懸念が思考や行動を萎縮させる主たる要因はこの影響欲求への反応なのです。「負ける」とか「出来ない」などの、失敗を恐れるといった状況は影響欲求において劣位を想起することから生み出されます。

この影響に対する感情や意識を想起させるのがパワーという存在です。

人は他者や周りに対してパワー優位に感じれば支配感を持ち自由な気持ちになり、劣位に感じれば被支配に感じて不自由なき持ちになります。ですから人は常にパワー優位であろうと動機付けられます。

ペップトークはパワー的に劣位に陥る不安感を払拭して優位を想起させて状況を打開したり乗り越えさせるポジティブ・アプローチです。

ではどうすればパワー優位に感じられるようになるのでしょうか。その一つはパワーの源泉の中でポジティブな形で影響を及ぼすものを効果的に活用することです。

パワーには7つの源泉があることが知られています。

①専門力

②情報力

③人間力

④公権力

⑤報償力

⑥関係力

⑦強制力

この7つは上位ほどポジティブに動機付けられ、下位ほどネガティブに動機付けられていることが知られています。例えば専門力や情報力はより高みを目指す力、人間力は仲間への信頼感といったところです。

この段階では、対象が日常的に不安を感じたりや懸念を抱いているパワーの存在に焦点を当てて、そこに対してポジティブな内容のメッセージを投げかけるというアプローチを取ります。その人が自信のあるパワーを盛り立てたり、不安なパワーを認知転換するメッセージを論理的にかつ端的に投げかけます。例えば「仲間がいるぞ」とか「あれだけ身に付けていれば充分だ」といった具合です。この時「権威」というパワーがある人(例えば経営トップやそれに準ずる人、または誰もがその道のプロと認める人など)が言えばより効果的ですし、むしろそういう人に言ってもらうよう演出をするということも大切です。またこうしたポジティブ化の過程ではボディ・ランゲージも活用します。

パワーの7つのうち上に力であればあるほど論理的でクールな力になります。つまりこの段階では敢えて感情的ではなく(それは次の段階にぶつける)、冷静に投げかけ、相手をクールダウンさせて落ち着かせるのも効果的手段だということです。

このようにパワーを上手くレンダリング(演出)するのも重要なアプローチと言えます。

さあ次回は最後の「感情を昂揚させる一言」という段階をご紹介させて頂きたいと思います。これにはシグナル・マネジメントの一つは発信的なボディ・ランゲージも重要な要素となりますので、合わせてご案内させて頂けますと幸いです。

それでは引き続いて次回をお楽しみに。

 

さて皆さんは「ソモサン」?