• 組織の変革を阻む感情をどうポジティブにさせるのか?~ソモサン第198回~

組織の変革を阻む感情をどうポジティブにさせるのか?~ソモサン第198回~

皆さんおはようございます。

先日来ポジティブマネジャーを養成するためのプログラム展開を進めていますが、本日はポジティブマネジメントの中核の一つである「パワー」についての話です。パワーのマネジメントといったときにどのような世界観を描いているのかについてつづっていきたいと思います。

ショートソモサン①:なぜ組織は動きを変えれないのか?~教育研修の効果から考える~

前回、教育的なアプローチで実践的な改革が起きた試しがない、といった指摘をしました。ただこれは教育が須く意味がないといっているわけではありません。

人の変化へのアプローチは大きく4段階あります。

 

第一段階;知織レベルでの変化。知らない状態を知っている状態へ。

第二段階;技能レベルでの変化。出来ない状態を出来る状態へ

第三段階;心的態度レベルでの変化。気にならない状態を気になる状態へ

第四段階;価値観レベルでの変化。執着している状態を手放す状態へ

 

まず、知識レベルでの変化には教育は、非常に有効な作用を果たします。また技能レベルでも何度か繰り返す必要がありますが、習熟効果によって有効に働きます。

では心的態度レベルではどうでしょう。もしも本人がすでに研修のテーマに対して(例:部下との良好な人間関係について)何かしらの問題意識やうまくいっていない自覚があるようなとき以外は、そもそも関心や問題意識がないので最初から耳に入っていきません。したがって効果は疑問府がつきます。つまり心的態度レベルとは、より意識においてより深いレベル、深刻なレベルということを指しているわけです。

なので、知識が満たされていないからといって、その解決方法として知識のチャージを行っても、その人がそもそもそれを受け入れる準備(心的態度レベルで変化への受容意識)がない限り、無駄になります。逆に、心的態度レベルが前向きな人は、充分に知識が満たされている状態にあっても、さらなる向上心を持って知識を高めようと努力を怠りません。教育効果はこういった意識的な段階に大きく左右されるのです。このことは価値観レベルになると更に壁が高くなります。

では省みて企業変革や組織活性化に向けての教育的アプローチを見てみましょう。組織で人を動かす方法は大きく2種類に分けられます。

(1)上意下達型の動員

一つは現場の意思に関わらず、上意下達的に指示命令で動かす方法です。とにかくやらせるというアプローチです。やってみれば分かるといったところでしょうか。このやり方は確かに、即効性があります。しかし現場が積極的に動いたのでない限り、無理によってムラやムダが生じたり、前回ご紹介した心理的リアクタンスを起こす確率が高くなります。成功率は五分五分以下です。

 

(2)教育型の動員

もう一つが教育的アプローチです。現場に意識と知識を与えることから、自己啓発的に自主性を生み出すことで、ポジティブに人を動かしていこうというアプローチです。多くの企業、特に大手では従業員の成熟性を鑑みて、出来る限りこのアプローチでの機動を狙っています。

 

ところで皆さん電気抵抗の法則と云うのを覚えておいででしょうか。オームの法則です。そう、抵抗は電気の速度(電流)と電気の圧力(電位差)の比によって変化するという法則です。電流が速くなればなるほど、或いは電圧が高ければ高いほど抵抗は大きくなります。。

組織内の変化に対する抵抗もオームの法則と同じです。変化の速度を速めれば速めるほど、また変化の度合いが大きければ大きいほど抵抗は高まるということです。

その抵抗の度合いは、解決に対する見通しによって変わります。言い換えると解決法への理解や腹落ちがあれば抵抗度合いはまだ小さいということです。いくら見た目が困難でも、解決の道筋が理解されたり、取り組み方法が明確になっていれば、実際の変革は進みます。だからこそ教育的アプローチを重視するのでしょう。でもそれは理解や納得にいたるまでの当事者たちの意識や能力に大きく依存しているといってもいいでしょう。問題解決能力が低かったり、啓発されていないとすると、話はかなり変わってきます。「今、この時点」での能力の話ではありません。努力すれば能力が身につくのに、意識が低いことで努力もしない、やる前から諦める、さらに、目先の楽に逃れる、こうした態度が存在するのは組織の現実ですが、悪気はなくとも、その人たちは、目の前の努力や苦労は避けようとするでしょう。

私の経験ではこの現実が起きている組織は決して少数派ではなくむしろ多数派です。、本人は悪気はなくとも、変化に直面して困難から逃避しようと反応する人が圧倒的に多いのが実際なのです。

「努力する」という思考は志(意の領域)の話です。知性ではありません。「楽をしたい」「自分第一」「損得勘定」といった成熟性の低い意はある意味私たちの本能に根差しています。だからこそその成熟度を高めていく必要があるのですが、それがうまくいっている組織は多くはありません。「火中の栗を拾う」どころか「苦労はできる限りしたくない。」といった風潮の中で、変化に向き合おうとする人は数えるほどしかいないのが現実です。また苦労無くしても生きていけるという社会で、努力して能力を伸ばそうとする人も減っていると実感しています。、今や冗談ではなく「一億総白痴化(大宅壮一さんの言葉)」の時代に見えます。頭を使うと損をするかのように、本当に頭を使わない人が蔓延し、正直者が馬鹿を見るのが現場の実態だと思います。。こうした状況の中で、綺麗ごとではなく、変化への取り組みはこの現実を出発点として進めなくては始まらないのです。では冒頭の問いに戻ります。この出発点を想起したときに、教育的アプローチは効果を発揮するでしょうか?私は「しない」と思います。私たちはもっとこの現実を直視して物事に真摯に取り組まなくてはなりません。

ショートソモサン②:変革を遂行するには「パワー」の行使が必要不可欠

そういった現実の中でも変化への対応に成功した企業も存在しています。その代表として私は西のGE、東のJALに着目しています。どちらも会社の本義に目を向けて、事業の在り方や組織の動きを刷新させ、企業回復を成功させた好例です。

この例を参考に多くの企業がモノマネ的に取り組みをしようと試みましたが、今日現在に至るまでこの事例に勝るものは個人的にはないと感じています。最も肝心なポイントを軽視した取り組みになっているケースがほとんどだからです。どちらも形式としては、教育的アプローチを重視した取り組みでした。でも多くの人ははその形にしか目を向けていません。

ではその核となるポイントとは何か。それが組織内のパワーです。そしてそれを背景としたリーダーシップの縦横無尽な展開です。

GEの事例:

ではまずゼネラル・エレクトリック社から始めましょう。皆さんもご存知のようにGEは1980年代に経営危機に陥った時期があります。その時にCEOとなって経営再建に乗り出したのがジャック・ウェルチ氏です。彼が有名なのは、事業的には「選択と集中」で、ポートフォリオ上で世界でトップになり得ない事業以外は全て整理し、同時にM&Aと国際化を推進させることで大胆に企業のリストラを行ったことですが、それ以上に大きく話題となったのは、弱い事業や資本のみならず、成績不振の人材や部門までも無慈悲に削減させるという整理解雇ブームの火付け人であったことです。それ故彼は「ニュートロン(中性子)ジャック」というあだ名がつけられていました。(中性子は「建物は壊さずに人の身を殺す」という中性子爆弾を意味します。)一方その陰に隠れて、あまり知られていないのが、集中投資する領域については、過大な目標を設定し、それを克服することから業績のみならず人材の成長も仕掛けるという「ストレッチ・ゴール」という手法の教育的アプローチを取っていたことです。

この手法は目標設定に対して、単なる数字ではなく、企業理念(パーパス)の理解と腹落ちによって心にしっかりと組織人としての人生目標を構築させていくアプローチです。、そして他責ではなく、自責として自分の目標を意味あるポジティブなものとするように仕掛けるアプローチだったのです。

GEの立て直しに注目した企業の中には、この手法に着目し、導入するところが相次ぎました。日本でも多くの企業がアプローチをしました。しかし殆どの企業では定着しませんでした。何故ならば過大な目標に精神的に参ってしまう社員が続出したからです。

これを持ってこの手法を時代遅れだとか厳しすぎると机上論を言う学者がいます。でも実はまさにここにポイントが潜んでいるのです。

企業が疲弊するのは何よりも社員がぬるま湯になり、更に個人的わがままが優先されるようになって集団としての凝集性や相乗性が出なくなり、競争力が消失するときです。知恵も行動力も無くなって烏合の衆と化すからです。そう言った組織の問題は知識でも能力でもありません。まさに心的態度であり、価値観にあります。それを変えるには相応のネガティブな気持ち、感情的抵抗や価値観的抵抗を打破しなくてはなりません。それは理屈ではありません。ですから話せば分かるものでありません。嫌なものは嫌。不快なものは不快なのです。それは感情の世界なのです。

それを推進するには理屈ではなく、感情に訴える力が必須になってきます。何らかのパワーやそれを梃子としたリーダーシップが必要不可欠になるのです。

ジャック・ウェルチ氏はニューヨーク州クロトンビルに「リーダーシップ開発研究所」を開設し、リーダーシップや組織マネジメントに関する企業内ビジネススクール・プログラムを自ら指揮を取って徹底的に行いました。人任せではなく、自らが講師となってモノの見方や考え方を教え、幹部たちに熱意を降り注いで、意識改革を図ったのです。

私も国内で社内ビジネス・スクールの依頼を多く頂きましたが、企業の大小に関わらず、トップ自らが関わるプログラムでは想像以上の効果があったと言う実感があります。しかしトップは起案だけ実行は人任せのプログラムでうまくいった試しがありません。やはり意識改革とトップのパワーとリーダーシップはセットの関係だと痛感します。

日本航空の事例:

東、つまり日本の最大事例はやはり日本航空再生における稲盛さんでしょう。これも官庁に片足突っ込んだような企業がその官庁への忖度で身を滅ぼしたところからがスタートでした。私は父親が航空業界にいて幼少から航空事業の重要性を教え込まれてきましたが、頓挫した時のJALにおいてはそういった使命感が露のかけらも感じられないあり様になっていたと見ています。同じ企業に労組が3つもあり、それが牽制し合っている状況。「俺たちは潰れない」といった慢心が空気に満ちた状態であったと思います。誰も責任を担おうとしない体質、いわゆる親方日の丸です。「会社がおかしくなったのも上層部の責任だ」といった空気感でした。

でも私は当時日本中を飛び歩いて仕事をしていた関係で、JALにもANAにもかなり乗っていました。お陰様で両社の特待的クラブ会員に今でもさせて頂いている位です。この際実感として両社のサービス対応の違いを体感しながら、「JALはそうとう不味いのではないだろうか」と危惧していたのが本音です。姉がJALのCAだったのでどちらかというと贔屓目もあったのですが、それでもこれは不味いぞと思っていたのが実際のところなのです。

JALの再生は意識改革に本質があると考えていた私は、稲盛さんが乗り込んでどうするか、とても強い関心を持っていました。結果は周知の通りで見事な再生を遂げました。

その後の話をかがいますと、稲盛さんもやはり理念教育を自らが奮戦して、トップ・リーダーシップの下に幹部人を筆頭に繰り返し行い、考え方の転換を断行したと言います。まさにウェルチ氏と同じアプローチです。詳しくお知りになりたい方は「JAL再生」と言う書籍を一読為さるのをお薦めいたします。

 

企業が求める改革とは知識や能力の向上といったレベルの話ではないことは確かです。心的態度や価値観といった意識レベルでの転換に対しては必ず感情的抵抗が伴います。人の気持ちは「分かってはいるけれども…」といったように、理屈ではわかっても、割り切れない領域の話です。これを切り抜けるには感情的な後押しが欠かせません。それもポジティブな感情の後押しです。

難関を越える為のポジティブ感情を生み出すのが、勇気と覚悟という意識です。それを盛り立てるのが、意味づけであり共感であり連帯です。そして何よりもエン「パワー」(パワーを与えていくこと)なのです。そうした起爆エネルギーを最も力強く持ち得ているのが公権力として最高位にあるトップです。権威は責任に伴い、等価の関係です。二番手がいくらやろうと思ってもできないのです。トップと二番手は大きく立ち位置が違います。

心的態度や価値観レベルにアプローチするには、感情、特に好き嫌いではなく、愉しい苦しいに関わる感情を刺激し、ポジティブにことを進めていくこと最重要です。そしてそれを生み出す源泉こそがパワー、影響力なのです。

影響力の存在を抜いた教育的アプローチなど気の抜けたビールのようなモノです。アルコールがないお酒といった方が良いでしょう。単なる気休めにしかなりません。これが改革の真実です。

ショートソモサン③:エンパワーの技術:ペップトーク

ではそうしたパワーはどのように発揮していけばいいのか?どうすればポジティブなエンパワーができるのか?次回は、そのようにパワーを発揮する上で重要な言葉の繰り出し方、ペップトークの実践的使い方をご紹介したいと思います。

ペップトークとは、人の気持ちをポジティブ化させ、高揚させ、時には奮起させる言葉の技です。先にご紹介させて頂いた事例でも、その著述を見ると折につれ、ひっきりなしにペップトークを展開しています。ペップトークをうまく展開できるのがマジック・リーダーと言われるトップであり、ポジティブ・マネジャーです。ペップトークはポジティブ・マネジャーの必須要件なのです。

ポジティブ・マネジャーとはメンバーを動機付けて奮起させ、前向きに行動させることが出来るマネジャーを言います。ある種カリスマ性ともリンクするダイナミックなマネジャーです。組織におけるチェンジ・エージェントとして改革を成功させるマネジャーとも言えます。ポジティブ・マネジャーの要件は4つあります。

<ポジティブマネジャーの4要件>

①寄り添う

②気づかせる

③未来へ導く

④勇気づける

この4つの資質をもとに、言葉を駆使してメンバーにアプローチするのがポジティブ・マネジャーです。

人の心は3体がセットになって作動しているといわれます。3体とは「コトバ」「カラダ」「キモチ」です。コトバは文字通り発言です。それには口調、言い回しや言い方なども含まれます。カラダは表情や姿勢、動作、身体感覚です。そしてキモチは感情のあり様です。軸は「キモチ」です。キモチを制御するコトバとカラダ、そしてキモチを表現するコトバとカラダ。これが自他におけるポジティブ・マネジメントにとっても、対人関係の良好化においても鍵です。

ペップトークは「コトバ」に力点を置いたポジティブ・アプローチの必殺技です。その極意を次回はお話しさせて頂きます。

それでは引き続き次回をお楽しみに。