• ボンズ・アプローチをを実践する。!~まずは形から入るペップ・トークの世界~LIFTプログラム⑧-ソモサン第189回-

ボンズ・アプローチをを実践する。!~まずは形から入るペップ・トークの世界~LIFTプログラム⑧-ソモサン第189回-

ショートソモサン①:知性と人間性の主従関係は?

皆さんおはようございます。

 

「真理と知識を探究することは人間性の中で最も価値あるものの一つです。しかし私たちは知性を神格化しないように充分に注意をしなければなりません。知性はもちろん強大な力を持っていますが、人格を持っているわけではありません。知性は人間を導くことは出来ず、あくまで人間に仕えるものなのです。人間が存在するために最も重要なことは破滅的な本能を遠ざけるよう弛まぬ努力を続けることです」。これはアルバート・アインシュタインがラッセル・アインシュタイン宣言の際にコメントした言葉です。ラッセル・アインシュタイン宣言とは、アインシュタインによる相対性理論に基づいて展開された研究開発によってもたらされた原子爆弾で日本の広島や長崎が想像以上の悲惨な状況になったことを嘆いた科学者が一堂に介して発した核の平和利用に対する宣言のことです。日本からも湯川秀樹教授などが参画していますが、湯川博士によると、アインシュタインは自分にも直接謝罪をしたそうで、湯川博士的には自分の中間子理論も開発の一助になっているため、非常に複雑な気持ちだったと述懐しています。

しかし残念ながら世の中はなかなか失敗から学びません。未だ人間性を重視するのではなく、資本の論理に押されて、一段と知性を重視した社会状況になっており、その度合いはどんどんと進むばかりです。そして原爆を投下された当事国である日本がその尖兵のような状態になっているのはまことに残念なことです。

人間性も知性もその根っこは教育への姿勢です。その知性偏重の教育がどういった人材を輩出するのか、ちょっとした好例があるのでご紹介しましょう。

ショートソモサン②:人間の感情に関心がない人間の振る舞いとは?

ある名声優によるコラムでの話です。この方は1980年代から様々な人気作品の主役声優として活躍している方です。この方のETCカードの音声の仕事についての話が実に凄まじいのです。

ETCはあの「ETCカードが挿入されました」という車載器の音声ガイドのことです。コラムでは「ある日突然、そういうお仕事が舞い込んできて。私の初めての機械音声です。アニメでもないです。いきなりでビックリしました」という緩やかな調子で話は始まりますが、「まず感情は一切いらないと最初に(機械音声制作会社の方に)言われてしまって。同じテンポで同じ(声の)高さで、同じようにずっと言い続けなければいけないと注意事項を色々伺った」とし、ついで「あなたの声は波形で判断しますのでと最初に言われた」「言われていることが全部ビックリな感じで。ニュアンスとか雰囲気とか、声優として培ったスキルが全部NGという感じ。真逆だった。棒読みと無機質は違うみたいで、難しかった。苦労しました」という内容で、本人的には勉強になったといった感想でコラムを終えていますが、雑誌社の取材によると実際の情景はもっとえげつなかった様です。

本人も正直に「今となってはETC音声に起用していただいてありがとうございます、という気持ちだけれど、その収録は、実は地獄の苦しみだった」と述懐しています。

初めにETC音声収録の当日、機械音声の制作を専門にしている会社の社長さんが誰にも聞こえないように小さな声で「収録の前に一つだけ約束してほしいことがあるんだけど」と切り出したということから話は始まります。「今まで何人もの声優さんとお仕事をさせていただいているんだけど、みんな怒って途中で帰っちゃうんだよね。だからこれだけは約束して、絶対に帰らないって」。今まで一度も仕事場でそういうことがなかったので、「はい、わかりました」と答えたら、「絶対だよ、約束だよ」と社長は念を押すように真剣に私の目を見つめてそう言ったというのです。少し不安が胸をよぎったけれど、「わかりました、約束します。絶対にそんなことはしません」と答えると、社長さんは安堵したようにうんうんとうなずきました。ところがスタジオに入って数分後、「私はこの約束の重さを知ることとなる。」さあ一体どういう重さなのでしょうか。

ディレクションをされるのは、機械音声の制作担当者の方だった様です。その人が開口一番、「機械の音声には適した声というのがあるんだよね、あなたの声がそうかどうかはわからないけれど、メーカーさんがあなたが良いって言うから」。なるほど、このキャスティングに疑問をおもちなわけか……。ここで皆さんはこのディレクターの感受性のなさ、ネガティブさ。いわゆる人間性の低劣さをお感じのことと思います。

ディレクター曰く、「よくトラックがバックするときに『バックします』という音声が流れるでしょう? あの『ク』の音を出すのが難しくて今まではどうしても『バッします』となっていたのを『バックします』と初めてはっきり音が出るように作れたのがうちの会社なんです」「だからあなたの声が向いているかどうかはともかく、そういうふうに録りたいので、とりあえずやってみましょう」。

大きくため息をつきながらふと目をやると、「怒らないでね」と約束を迫った社長さんが、眉をハの字にして“ごめんね”と言うようにうなずいていた。

(カンカン)「ETCカードが挿入されました」。収録が始まると、何度も何度も同じ言葉を繰り返して、「もっと高音で」とか「もっとリズムを大切にして」とかダメ出しを頂いて、やっと一つのサンプルを作ることができた。

次には、(カンカン)(ETCカードが挿入されました)「このカードは有効期限が切れています」

「感情は込める必要ないです」

(カンカン)(ETCカードが挿入されました)「このカードは有効期限が切れています」

「普通にサンプルと同じ雰囲気でお願いします」

(カンカン)(ETCカードが挿入されました)「このカードは有効期限が切れています」

「だから申し訳ないとか思わなくていいんですって!」

その後も、「あなたの声は波形で見ていますから、波形とずれたらダメなんです」とか「一文をそのまま使うことはありません。全部、料金/は/ゴヒャク/ジュウ/円/ です/のように切って、別のテイクとバラバラに組み合わせて使うので感情を入れても無駄なんです」とか「ジュウエン(10円)のウを聞こえるように」とか15、16と後に数字が続くようなイントネーションで「ジュウ」を録ったりとか、今まで経験したことのない、気の遠くなるような収録が続いて、やっとETCガイドは完成を迎えたのだそうです。

本人は「こうして私は苦労の甲斐あって、『機械音声』というスキルを身につけた」と皮肉めいた物言いでコラムを締めていますが、声優の方の方においてはかなり良い人感が漂う内容でした。

ショートソモサン③:鈍感人材が周りに生み出す感情「恐怖」は企業の生産性にどう影響するか?

この時の声優さんの感情は最後の「恐怖」があったかもしれません。恐怖とは不安や不確実、警告といった否定的な反応です。「恐怖」は身体や心理的に安全な状態が損なわれたとき、あるいは損なわれようと感じた時に表れる感情です。そのため、震えがもたらすおでこのこわばりである「カギ型眉」や「下瞼の緊張」が表れます。「両眉が上がる」「両眉が中央に引き寄せられる」「額の中央に波状のシワができる」「目が見開かれる」「下瞼に力が入る」「口角が横に引かれる」といった表情筋が緊張した状態が浮き彫りになります。「恐怖」は「自分には攻撃心がない。だから自分を傷つけないで欲しい」ということを表すサインとして発せられます。他人に対して攻撃する意志にない人を識別するサインでもあります。この声優さんもさぞや怖かったのでは、と推察をする次第です。

でもこの話、このまま放置していても良い内容でしょうか。途中のやり取りはニュアンスも物言いも言及できないので、まあプロの仕事での応酬として看過するしかない内容です。問題は出だしのやりとりです。思わず「この人間音痴の人非人が」とどやしつけてやりたくなるようなやり取りです。

でも私が実際に企業などの組織現場に赴くと、こういう鈍感人材はゴロゴロいます。現場では対人が苦手だから技術者になったといった人も多数いますが、それにしてもこのコラムに出てくる人の態度。これは企業にとって洒落では済まされない話のはずです。こういった人材を野放しにすることから企業がどれくらいの利益逸失を被っているか、ということはもっと真剣に見ていく必要があると思います。企業の人事担当者はこういった面での組織行動や対人行動での非生産性により強く問題意識を持ち、様々な顧客関係や集団関係での生産性にマイナスを持ち込む人材を放置しない様にしなくてなりません。アインシュタインがいうところの人間性はもっと高尚な話ですが、川の決壊もほんの一握りの亀裂から始まります。最近人間性教育の軽視によって感情の制御ができなかったり、鈍感人材、一見すると発達障害と見間違うような偏った人材が増えていますが、これは企業としてもっと真摯に取り組まなければならない組織的な課題なのではないでしょうか。

ショートソモサン④:「意識から変える」ことは可能なのか?

シグナル・マネジメントは最初に7つの感情を表情から読み取り、ネガティブな感情をポジティブな感情に転換すべく誘因するアプローチをしますが、感情は表情や会話だけでなくその人の態度や仕草にも表れます。相手の感情をより精度良く掴むには仕草からのサインも読み取り、表情と複合的に捉えることが望ましいと言えます。もしもこのディレクターが少しでも人に関心があれば、対人への技能があれば、こういう事態はもう少し和らいだものになったのかもしれません。

実はこの原文には実際の企業名が出ています。最近不振気味ですが、こう言ったことも亀裂の一つなのかもしれません。やらかしたのは受託企業ですが、管理不足は否めません。そしてチリも積もれば山となる、です。

でもどうしてこうもこのような対人欠陥人間が排出されてくるのでしょうか。私はその原因としてやはり幼児教育段階からの知性やスキル偏重のアプローチの風潮に根本があると見ています。弊社でも様々な人材が在籍していましたが、他人を思いやれる人はいても積極的に他人を肯定的に持ち上げようというレベルまで努力する人材は見出し切れませんでした。自分中心に展開した主観の世界に埋もれるネガティブ人材の圧力は大きく、なかなか自身がポジティブに凝集できずに離合集散を繰り返すばかりで、客観力や肯定力を持った活力人材や組織の開発を標榜する会社であるはずにもかかわらず、「医者の不養生」といった按配で、この世界観へのアプローチがいかに難しいかをに関しては、まずは身を持って体験学習してきたというのが本音といったところです。

そういった試行錯誤の中、実践を通して浮き彫りにして整理していった結果として見出したのが、元々は僧侶や神父さんといったグローバルレベルでも共通して人間性が高度に修練された方々に共通するメンタルやその人たちが駆使するボンズ・アプローチという技能でした。

ボンズ・アプローチで特徴的なのは「理屈ではなく体感から入る」「自己修養ではなく行動的なフィードバックから開発される」という研鑽的なアプローチです。その修養法はグローバルで大凡共通していますが、特に顕著なのが曹洞宗の禅の修行法でしょう。この修行法は口頭や文章による思考を使った理入は殆どありません。あくまでも体感と体験による行入が軸になっています。頭でフィルタリングするのではなく、純粋経験によって身体で感じ体得することが最も深く気持ちや意識にまで刻み込まれるといったアプローチです。大阪の商人的に言えば「やってみなはれ」、浜松の職人さん的には「やらまいか」の精神です。まさに行動科学的な体験学習の真理です。

では具体的に切り込んでいきましょう。まずはスタートラインです。くどいですが、ボンズ・アプローチは自分の意識を変えて相手への動きを変えるのではなく、まずは純然と動きの方を変えて、変化していく周りという環境が自分の意識を変えていくアプローチです。動きは行動のことですが、ボンズでは言動の方がメインになります。

ではまず第一歩を始めましょう。前回よりペップ・トークという技法をご紹介しています。ペップとは活性化させるという意味です。このペップ・トーク、その反対で相手をモラルダウンさせる言葉、物言いとしてプッペ・トークというのがあります。要はネガティブな言い方です。スタートラインは自分のプッペ・トークをかえることです。

行動の第一歩はまず意図的に言語を変える。言葉遣いを変えることです。繰り返しですが、この段階でまず意識を変えるといった指導法を展開する人がいますがそのアプローチは絵空です。気づいてもいないものを変えることできません。自分が人にプッぺ・トークしているということに気がついていない人は大勢います。むしろ気がついていない人の方が多いのではないでしょうか。気づいていることは修正できますが気づいていないことは修正できません。

朧げに自分がプッぺ・トークを喋りがちであるといったレベルであればそれに気がついている人もままいます。それでも瞬間に自分が喋っているトークをいちいち点検できる人など稀です。総じて皆後で気づいて後悔。相手の反応で気づくといったことが普通です。だからこそ初めに意識転換などできるはずもないわけです。

確かに思考習慣が言語習慣を作り、それが行動(言動)習慣を作り出すわけですが、もっとも深層にある思考習慣をいきなり変えるなど無理難題で、最初から気が削がれてしまうわけです。だからこそ行動科学的にまずは行動(言動)習慣を変え、言語習慣を変え、その流れで思考習慣を変えるというアプローチを梃子に、自分の内面のスイッチを変えていくわけです。

行動科学的に自分の行動、この場合言動習慣を変えるアプローチにはちょうどレールのように2つの流れがあります。一つは人に向けての言動です。そしてもう一つは自分へ向けての言動です。

またこのアプローチには2つのステップもあります。一つは形から入るレベルです。もう一つはダイアローグと言われる対話レベルです。

 

<他者に対して>

それではまず人に対しての第一ステップから話を進めて行きましょう。

  1. 第一に相手目線の言葉を使いましょう。「自分は」ではなく「相手の心境は」「相手の立ち位置は」です。ここで重要なのは「人は前提はポジティブである」ということです。行動や人格はネガティブでも、それは後天的なものです。人間という存在の本質はポジティブが前提であるという大原則は知っておきましょう。「全ての行動には肯定的な意図がある。人は生来はポジティブな存在である」。NLPという学問はその前提から組み立てられています。
  2. 主語を相手にしましょう。具体的行動(言動)として、例えば人はどうしても自分が大好きですから、話の中心を「自分」にしたがります。それを、意識的に「あなた」や「周りの人」に置き換えて話してみます。自分が言いたいことでなく、相手目線で話すということです。この典型がよく、「聞き上手」です。聞き上手になるコツは主語を「あなた」に変えることだけです。例とえば、お腹が空いた時、「ああ、お腹空いた」ではなく「お腹空いてない?」と物言うわけです。
  3. 分かり易い言葉をつかいましょう。相手がわかる言葉を使います。不安は不満を生み出し、ネガティブ意識を誘発します。
  4. ポジティブ用語を使っていきましょう。そしてまずはポジティブ言動を前面にして、その後必要に応じてネガティブではなく提案要望(リクエスト)を出します。例えば「計画性のない」と感じる人には、「あなたは行動力があるし、土壇場に強い。自分はそうでもないので出来れば今回は事前に考えを教えて貰えると助かる」といったようにアプローチします。ネガティブな単語や会話はネガティブな結果を導き、ポジティブな単語や会話はポジティブな結果を導きます。※世の中にはネガポ辞典なる参考書があるそうです。一読してみるのも良いでしょう。
  5. 「私」が「どう感じているか」を伝えましょう。相手に対する評論的な物言いや「あなたは」ではなく、「『私』はそんなふうに思われて悲しい」というように、あくまで『私』を主語にする言い方で気持ちを素直に話すニュートラル・アプローチもあります。
  6. 「すみません」ではなく「ありがとう」と伝えましょう。返事は必ずポジティブ用語で行います。また横柄な物言いや紋切り的な口の利き方は絶対避けましょう。
  7. とにかく笑顔で通しましょう。逆微表情に気を使いましょう。時にはエネルギッシュに相手に接近するような気の張り方も大切です。ペップ・トークは自己改革というよりも自己演出の技法です。また自分の行動や言動を相手の気持ちや行動に合わせるというのも一手です。話すスピードや呼吸を合わせる、声の大きさを合わせるというのも効果が大きいです。これはページングという技法です。

ショートソモサン⑤:自分へのアプローチはどうすべき?

<自分に対して>

さてもう一つは自分との対話です。

  1. 自分をポジティブに演出しましょう。自分に対してパワハラするのは辞めましょう。自分に厳しすぎない様にします。特に自身の能力は高いにも関わらず、自分に価値を感じないという人が日本人、特に最近の若年層に蔓延し始めています。これはあまり褒められていないからです。ストレス社会の典型です。ここから脱却するのも実は言葉の扱いが重要になります。言葉が自己概念を作ります。マラソンのメダリストの方が「自分を褒めてあげたい」といったのはインパクトのある出来事でした。嘘でも自分にポジティブ言葉を投げかけましょう。
  2. 人と対話しましょう。人は内観するとネガティブになりがちであるといったことが実験によって確かめられています。安定した自尊心は、自分だけで高められるものではなく、人からの補給が必要であるということです。だからこそ人との対話を欠かしてはなりません。だからと言っていきなりネガティブなアプローチをされれば逆効果です。やはりポジティブにさせてくれる人が必要です。それにはまずは自らが相手にポジティブ・アプローチ、ペップ・トークをしていくのが肝要です。(大切なことなので何度も言いますが、内観などの深いレベルの話は第二ステップの仕事です。まずは形から入るのです。)
  3. 集中時間を持つ習慣を持ちましょう。大脳生理学において、自己認識力は、集中力と同じ部位にあり、集中力を高めることで、認識力、感情の抑制力が高まることが認められています。1日一回は集中する時間や場所を持ちましょう。集中とは真剣とは別です。明るく集中する。例えばリラックスも集中の一つです。瞑想もそうですが運動やお風呂、音楽なども効果はあります。とにかく雑念を払って気を楽にするとポジティブがムクムクと浮かんできます。

 

今回はボンズ・アプローチにおけるペップ・トークについて、その導入的なスタートラインの技法をご紹介させて頂きました。ペップ・トークがシグナル・マネジメントと表裏一体な存在であるのは既にご紹介させて頂きました。ボンズ・アプローチは一般で紹介されるペップ・トークや微表情といった技法をより深め、NLP(神経言語プログラム)のような技術も取り入れて、単に顔色を伺うとか元気づけをするといったレベルではなく、日常の対話における対人関係の活性化を促進したりチームづくりやマネジメントを有力にするアプローチ技法です。

次回は、より高度となる第2ステップの流れを追いながら、より具体的な開発法やプログラム展開の世界に踏み込んでいきます。

でも皆さんこのアプローチは体感技法です。今週から手短な第1ステップから実践してみて頂くことを推奨させて頂きます。

では次回も、引き続きお付き合い下さい。よろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?