• 相手の感情に気づき、働きかけるための「洞察力」と「肯定力」LIFTプログラム⑦ -ソモサン第188回-

相手の感情に気づき、働きかけるための「洞察力」と「肯定力」LIFTプログラム⑦ -ソモサン第188回-

ショートソモサン①:「自分の芯」と「思考」と「感情」の関係は?~自分の芯がないと不安になる~

皆さんおはようございます。

私は萩の友人が多いこともあってか吉田松陰のファンです。結構エキセントリックかつアグレッシブな方ですが、彼が言った「実践が伴わない学問は学問とは言わない。学者になるな」という言葉や「学問とは利己のためにあるのではなく、世のため人のため公の役に立つためにある」という言葉は私の座右の銘にも値する金言と捉えています。

昨今の文科省による教育の姿勢はこれに逆行するものであり、日本の国力の低下はこういった教育に対する哲学観のなさに起因するのではないかと考える次第です。

そのことと連動するのかも知れませんが、最近陰謀論に傾倒するというかそれを盲信する人が増えてきているそうです。元々陰謀論は人間の不安に付け込んだ歪んだ論理の展開なのですが(例えばアメリカの9.11テロはアメリカ国家の自作自演とか、児童売買を民主党がやっているのをトランプが阻止しようとしているといった荒唐無稽なものもあります)、存外それを間に受ける人がアメリカなどでは70%にも及ぶのだそうです。以前嘘をテーマにしたときも同様のデータが出ていましたが、少し論理的に考えれば「おかしい」と分かるはずなのに、トランプが退陣する時の国会襲撃などを目の当たりにすると現実の不可思議さに嘆息することは始終あります。最近ではロシア人が政府のデマゴーグを間に受けて、侵略戦争を戦略的軍事行動だと信じ込み、ネオナチ化するウクライナを解放すると言い切る人々の映像を見ると驚愕する限りです。現代はそれがSNSなどのネットで一瞬にかつ一挙に世界中に伝播するのですから全くもって恐ろしい話です。

どうしてそうなるのか。確かに論理の展開能力の欠如に起因することもあるでしょう。事実ベースや科学的に考えれば論理の矛盾や誤謬はすぐに気づけるはずです。しかし自分に合った価値観によって自分の気持ちを納得させ安心を得たいという気持ちが働くと、そもそもの入口段階で確証バイアス(自分にとって都合の良い情報を集めたがるという心理作用)を排除するといった基底的、科学的な反応に対する理解が意識から抜け落ちてしまいます。私的には陰謀論に付け込まれる人は論理の展開力以上に論理に移行する前での意識やそれに依拠する洞察力、客観力の欠如、脆弱さの方が大きく影響していると見ています。戦後の日本教育では芯となる意志的な意識の教育がされていません。そうした教育を受けた人たちが陰謀論に翻弄されるのも、噂を信じ込んで歪んだ正義感を振りかざすのもムベなるかなといったところです。

ショートソモサン②:職場メンバーは今「悲しみ」を抱えているか?~感情に気づく洞察力と表現姿勢~

対人関係を良好にして協働的な生産性を高めるアプローチにおいても、この不安に駆られないための意識やそれに依拠した洞察力や客観力の有無は大きなポイントになります。

前回からペップ・トークについて話を進めていますが、その核となる相手が望む(欲求にあった)言葉を使うとか、相手の感情を打つボディ・メッセージを出すといった要素には、その前提で「人を見て法を説く」を可能とする観察力や洞察力、そして客観力が欠かせません。

それでは今回は5つ目の感情である「悲しみ」を通して前回ご紹介させて頂いた客観力に加え観察力や洞察力を見ていくことに致しましょう。

「悲しみ」は失望、喪失、敗北、期待外れ、幻滅といった否定的な感情です。「悲しみ」は人や大事と思っている価値を喪失したとか共感として人の「悲しみ」を感じた時に表れます。「悲しみ」は慰めようとしたり、逆に慰められたりとか人に同情心を引き起こします。

人が「悲しみ」を感じたときに顕著に出るのが涙です。泣くというのは涙腺が緩む行為です。ですから泣くまではいかずとも表情としては「八の字の眉」と「顎のシワ」に気持ちが表れます。「眉の内側が上がったり」「両眉を中央に引き寄せたり」「口角を下げたり」「下唇を上げたり」と涙腺が緩む表情や反対にそれを堪えたりするような表情となります。目にはやや瞳孔が開き時にはウルウルした涙の前触れのような表情になります。それを誤魔化そうと目を見開く人もいます。逆に一瞬目を瞑る人もいます。「悲しみ」は何か嫌なことが起きた時に他者との接触を避けようとするサインが表れます。顔を背ける態度をとる人もいます。

悲しみは軽蔑や怒りなどと違ってどちらかというと受け身な感情です。だから自身も弱気と自認して出来る限りその姿を見せまいとする傾向が強く表れます。しかし一瞬の微表情までは隠せるものではありません。こういう時こそシグナル・マネジメントの出番です。

こういった一瞬を見逃さないためには、

出来る限り、

 ①しっかり目を見る。目を離さない(凝視ではありません)。

 ②自分の目つきに気をつける。

 ③目つきや表情だけではなく、動作や仕草も見る。

 ④真正面ではなく90度くらいの位置で見る。

 ⑤自分も見られるようにオープンに構え、安心を作る。

といった観察の態度で非言語をしっかりと見ることが大切です。同時に、

 ①出来る限り相手の言葉で話す。お互いが理解可能な言葉を使う。

 ②マナーをきちんとして、礼儀正しくコミュニケーションにおいての対等関係を作る。

 ③相手が今何を考え、何を言いたいかを推察する(気にするのであって決めつけない)。

 ④相手を見て、今そこにいて何かを感じている自分とどう関係しているかを考える。自分だったらどうか、と我の問題として捉える。相手の問題を自分の問題に引きつける。

 ⑤何故そういう感情が起きるかを考える。

 ⑥自分と同じ面を探そうとしたり、無理やり合わせようとしない。自分を投射しない。

 ⑦自分のバイアスをチェックして、相手を主語にして相手の論理で相手のバイアスや相手の思考展開を追ってみる。

 ⑧変に察せず、ポジティブな用語を使いながら、時を置かずにそもそもの理由や気持ちを聞いて確認する。

 

といった洞察の態度を持って、効果的なカウンターとしての表現に繋いでいくことが求められます。

更にペップ・トークを効果的にするには、ペップの肝であるポジティブ力を適切にかつ情的に伝える上で表現の姿勢や自身の肯定感を演出していかなければなりません。

表現の姿勢とは、

 ①気持ちを自らオープンに示す。ポジティブ言語を使う(当たり前?)。ということで、何より言葉を伝えるということが第一義になります。

 ②まずは自分の気持ちを表す必要があります。手の内を晒さないで求めるのは邪道です。相手にだけ心を開いてくれというのは虫が良過ぎます。

 ③相手の名前を呼びかける。名前は「あなたを認めています」「あなたに関心があります」というメッセージです。

 ④付き合いが長ければ、相手の大切なことやイベント、そして相手が言ったことは覚えておく。

 ⑤とにかく、躊躇わず褒める。持ち上げることです。外見でも態度でも良いと思ったら褒めることです。ただし嘘はいけません。マイナスに対してのやり取りでも「褒め7ケナ3」の比率でフィードバックします。

 ⑥相手の人格は否定しない。存在は全てプラス、ポジティブに接する。

 ⑦ちょっとしたことでも「ありがとう」という。ありがとうは感謝であり、好意の表現で、あなたを攻撃する気持ちはありませんという意思表明ですが、日常からのイメージや信頼がものを言います。

 ⑧今ここでの話に集中して、知識や論理ではなく気持ちの交換をする。だから中身に関しては結論から先に言う。今の心境に目を向けて本当に思っていること、何を考えているかをポジティブに語りかける。

といったことで、これがペップ・トークの前提の一つとして重要なポイントになります。

 

ショートソモサン③:相手を肯定するときどうしてる?~対人関係の肝「肯定力」~

最後にペップ・トークの前提のもう一つである肯定力です。肯定力のポイントは、

①まず肯定的な気持ちに肯定は宿る。

 ②型から入るというのも手である

ということです。例えば相手の失敗や相手のミスに対して、「あなたほどの人が」「あなたのことだからもうお気づきとは思いますが」と言った具合に、相手のプライドは絶対に傷つけないというように、一定の褒め言葉を身につけるのです。

さらにそれだけでは化けの皮が剥がれますので、

 ③ネガティブな口癖をなくす。例えば、でも、だって、どうせといった言い草を辞める。また皮肉や歪んだツッコミも辞める。

 ④失敗の教訓化をしない。(人は成功体験は蓄積されにくく、失敗は自覚しやすいという性質があります。何故ならば、上手くいくとは自然に動いた状態であり、意識しにくい一方で、上手く行かなかった場合には違和感が残り、記憶に残りやすいからです。自尊感の低い人はそれが悪循環になります。ですからむしろ記憶に残りにくい体験こそ覚えておきやすくすることが重要です。)

 ⑤(成功体験は自覚しにくいからこそ)周りが褒めることが重要。意識させる。(幼少期に親や周りからいっぱい褒められた子供が自尊感が高く、ポジティブに育つ理由がここにあります。レジリエンスは褒めることから、認めることから育まれるのです。)

 ⑥反省するよりもまずは自分を褒める。刻み込まれた成功体験が自信を作り出します。

 ⑦そして組織や職場といった小集団的には褒める文化を作るようにマネジメントしていく。

 ⑧頭の中で分かったような、先が見えてしまったようにならないこと。(人の記憶が偏りがちであるという事実がある以上、どうせ失敗記憶にへばり付いたネガティブな観念が引っ張る後ろ向きな想念しか浮かんでこないのが関の山ですから。)

 ⑨最後に感情をマネジメントするには、特に人の感情に対して平静になるには、何よりも自分自身の感情に対して正直でいること。それは統制したり、制御したりということではありません。それは素直になるということです。怒る時には真剣に。笑う時には腹の底から。なく時にはなりふり構わず、です。とにかく感情を押し殺さないことです。自分に嘘をついてはいけません。古来偉大な功績を残した人たちは、総じて感情的であったということは皆さんも知るところです。瞬間湯沸かし器と称させれる人が多々います。そして皆さん感情的ではあっても根っこがポジティブで前向きであったのが特徴です。くよくよしない。感情のない人に他人の感情など吐かれるはずもありませんし、元より気づけるはずもありません。

 

更に社会ルールに厳しいということも肯定力には大切です。それは後ろめたさを持たないためです。私の恩師的な経営者は、絶対に脱税はしない。企業の使命は健全に税金を納め続けることだと言い続けていましたが、これも根っこは同じです。人は周囲に隠し事があるだけで不安定になります。失敗を隠したり、嘘をついて人を欺いても、人はそれによって返ってプライドが維持できなくなります。そうするとネガティブの悪魔に魅入られることになります。

失敗したらすぐにそれを認めてそのフォローを考えることです。

それから人を避けようとすると人は表情が乏しくなります。すると相手から反応も返ってこなくなります。そうするとまずますこちらも接しにくくなります。そして接したくなっていきます。悪循環への突入です。

ちょっと無理してでも、良い表情、良い笑顔を作ることで事態は解消します。最近は能面顔をする人が増えています。能面顔は「何を考えているのか分からない顔」です。この顔は相手を不安にし、警戒心を起こさせます。いきなりネガティブ世界を生み出します。嫌悪感のきっかけが実は能面顔にあったということは良くある話です。

能面顔のみならず、もっとまずい局面の時があります。「手を上げるから怒りが込み上げる」といった局面です。先にも話題にしましたが、感情はこのように型に想起され面が大きいと言えます。ですから笑顔にするだけで気持ちも柔らかくなり、心も軽くなります。型を作り、身につけることで自分の気持ちも明るくなり、相手も楽しくし、安心にさせられるわけです。ペップ・トークはそういう技法です。

人にはそれぞれスタイルがあります。自分の個性に合わせたコミュニケーション・スタイルを持っていれば鬼に金棒です。シグナル・マネジメントやペップ・トークによってボンズ・アプローチとしての自分の型を作り、それがスタイルになっていけば対人関係は感動的に変わっていきます。

感動によって感動する心を養い、それが感受性を高めていく。そして感受性が自信を育み、自信が対人関係をよりポジティブな世界に高めていく。好循環の始まりです。その原動力になるのがボンズ・アプローチなのです。

次回はボンズ・アプローチにおけるシグナル・マネジメントやペップ・トークについて、より具体的な開発法やプログラムの世界に踏み込んでいきます。

前回難しい云々というお言葉をお話しさせて頂きましたが、概して総論は理論が先行して難しいもの、と自分に言い訳しながら講を進めています。今回までが総論です。次回の各論からはより事例的に具体的になるので、読みやすくなるのでは、と執筆者自身が期待する今日この頃です(笑)。

では次回も、引き続きお付き合い頂けますと幸いに存じます。

さて皆さんは「ソモサン」?