• 感情が組織を活性化させる。ボンズアプローチが感情にアプローチする。LIFTプログラム③ ~ソモサン第184回~

感情が組織を活性化させる。ボンズアプローチが感情にアプローチする。LIFTプログラム③ ~ソモサン第184回~

ショートソモサン①:感情を職場にもちこむ「べき」ではない?

皆さんおはようございます。

LIFTをご紹介し始めてもう7年位になりますが、感情調整(Intentional Feeling Treatment)の重要性とそのマネジメントの技術に関してはどうやら大手の企業もかなり意識を持ち始めた様です。

先週長らくお付き合い頂いているお客さんよりありがたい情報を頂きました。それは社会人における教育業界のトップに座するR社の会報誌なのですが、今回の表題は、ズバリ「仕事と感情」についてでした。

流石に大手で潤沢な資金を持つ会社です。様々な学者さんや調査データを駆使して「感情が与える生産性への影響」について論じています。凡その内容は我々の見解と同様なのですが、そこは大手、エビデンス(証拠)ベースでの展開は、我々のような経験論の意見よりも説得力があります。だからどうするは記述されていませんでしたが、我々としてもLIFTの実証性を主張するには有難い後ろ盾になります。ということで少々その中の調査データを引用させて頂こうと思う次第です。

サンプリングは昨年12月に300人以上の企業を対象にして、20才から49才までの826人に対してアンケートを実施しています。そこで特筆すべきは、  「職場で感情を伝えて良かったか」という問いに対して、ポジティブな感情においては 77.1 %の人が「良かったと思う」と回答したのですが、ネガティブ感情の方でも42.2 %は「そう思う」と回答し、更に「ややそう思う」という人が41.3%いて、合わせると83.5%の人が「良かった」という反応を示したというところです。

ところが一方で、「仕事に感情を持ち込むべきか」という問いに対しては、68.4%の人が「自分としてはそう思わない」し、周りも58.9 %の人が「そう思わないと思っている」と回答しているのです。

皆さんはこの結果をどのように見ますか。確かに対人関係における感情的側面は、

「成果を妨げるのではないか」

「判断がぶれるのではないか」

「組織が纏まらなくなるのではないか」

といった印象があります。しかし実際の体験では「良かった」という人が80%に近いという現実があります。そして

「周りが動いてくれた」とか

「楽になった」

「仕事がうまく進むようになった」、また

「自分の考えが変わった」というような生産性が高まる意見も頻出しているのが現実です。この矛盾を皆さんはどの様に解釈しますか。

私はここに大きく一つの大きなバイアスを見出しています。バイアスとは「思い込み」「決めつけ」の温床ですが、これが大きな足枷になる場合が多々あります。

皆さんの中には「理性は感情を抑え込める」と認識している人もいらっしゃると思います。ことに知性偏重の学校教育に浸ってきた人は、現在の日本の学校教育の起点である西洋の哲学思想に毒されている人も多いことでしょう。西洋の哲学観は、古来プラトンの時代から「高位な理性が感情を御する」といった前提があり、精神医学でもフロイトが「本能的な欲求(イド)が自我(エゴ)によって抑制される」という概念を打ち立てました。

一つの論理として、「合理的な前頭葉が、生物進化の早い段階に出現した、感情をつかさどる脳の部位(脳の奥深くにある大脳辺縁系など)から生じる「動物的本能」をコントロールする」ことのように思うかもしれません。

しかし現実は異なります。人は感情的な情報インプットが生み出す「動機づけ」や「目的」がなければ、効果的な意思決定は不可能ですし、前回も書きましたが、脳科学で意思は論理の組み立てではなく、無意識の働きから生み出されるということが分かってきています。つまり基本的に理性で感情は抑え込めません。人間何万年も心理の構造は変わっていませんが、ここ数十年で人間観は大きく変わってきました。

ただ理性で感情は抑え込めませんが、同じ意識に属する、より原体験に近い部分から生じる「自動思考」を変えることから感情の表出のあり方を変えることは可能です。これには日常からの訓練が必須で、速習できるものではありません。

何れにしても「仕事に感情を持ち込むものではない」という問い自体にバイアスがあるわけですが、「感情は悪いもので、しかも感情を出す人は発達レベルが低い」などといった間違えた考えを多くの人が思い込みとして持っているのが、職場で感情問題をマネジメントできない一因になっています。この際、基本概念を変える必要がある人が多くいらっしゃいます。

重要なのは、「仕事に感情を持ち込むべきでない」云々よりも、「感情は出るのが必然」として、「感情が発露したとき、それにどう上手く対処するか」と「そもそも感情問題が発露しないような手をどう準備しておくか」です。

それがアンケートでの「感情を伝えて良かった」というデータに表れていると言えます。組織における感情問題をオープンにして前向きに処置していくのか、そのものをネガティブ要素として隠蔽したり、排除しようとするのか。「心理的安全性」という職場での重要問題の成否は、組織や役職者のバイアスによる面が多大と言えます。

ショートソモサン②:他者の感情をつかむポイントは?

ということで、「あるものはある」それが感情です。その感情を職場で効果的にマネジメントしていくのがLIFTというプログラムであり、具体的な技術としてボンズ・アプローチです。

では今回はその中の一つであるシグナル・マネジメントについてご紹介していきましょう。

シグナルとは「微表情」や「微態度」を言います。様々な研究により表情には1万種以上もの特徴があるということが分かっています。その中で微表情とは「抑制された感情が瞬発的かつ部分的に表れては消える微細な動き」です。その間約0.2秒です。そしてその中でも「嫌悪」「怒り」「悲しみ」「恐怖」「驚き」「軽蔑」「幸福感」といった7つの感情は文化や民族、性別、年齢、時代を超えて万国共通に表れることが知られています。これは遺伝子に組み込まれているメカニズムです。

微表情や微態度は「感情が揺れた瞬間」「心に動揺が走った瞬間」に表れる身的表現です。対人関係において人の隠れた感情や本音が見通せるのは大変役立ちます。危険信号を察したり、一歩を踏み込む状況を掴めるのはありがたいことです。

ところでこの微表情ですが、日本人は少しややこしいところがあります。人の感情に対する表情は万国共通ですが、日本人の場合その場に他者がいると表情が変わるといった実験結果があります。例えば嫌悪感を感じる状況で、そこに誰もいない時には日本人は他国の人同様に嫌悪表情を示すのですが、そこに人がいると日本人だけは嫌悪ではなく笑顔になるといったことが見られるのです。これは日本人が集団社会の中で調和を保とうとするあまり、自分が感じている否定的な感情を顔に出すまいとする傾向があるということと関係しています。いわゆる「取り繕う」といった表現です。それでも微表情だけは隠せません。微表情は自分では制御できない表情筋が働くからです。

何れにしても微表情を読み取り、意図された感情(本音)をサポートし、状況をより生産的な状態に誘因していくシグナル・マネジメントは対人間の問題解決を促進するのみならず、チーム状況の活性も促していきます。

例えばチーム内のたった一人の機嫌が悪くなるだけでチーム全体の空気が悪くなります。メンバーの感情や関係性が悪くなりそうなサインに気付けば修復も軽い段階で出来ることになります。

またリーダーシップを発揮すべき場面ににおいてもシグナル・マネジメントは機動力を発揮します。例えば人が重大な失敗した時、その人に対してどのようにアプローチをするかを判断することは極めて大切な場面です。そう言った時にその人が発しているシグナル、微表情を読み取れるか否かが成否を決します。もしも失敗した人が自分に向けて「後悔」「羞恥」「恥」「罪悪感」と言った表情を出していれば、その人は失敗を受容していますが、表情に「軽蔑」「嫌悪」「怒り」「恐怖」と言った表情が浮かんでいたら、その人は失敗を受容はしていないということが識別出来ます。これはその後のやり取りに大きく影響を及ぼします。

さて微表情は厳密には「微表情」「微態度」「声の微音調」そして「微口調」の4つがあります。シグナル・マネジメントとはその4つを複合させ、更に相手の人間性への知識や背景や状況などを加味して総合的に判断をしていくプロセスです。ごく一部の感情の動きを見て決めつけたり、思い込むような判断をするのは危険です。事前の心構えが寛容です。また微表情には「無意識に出てしまう表情」と「意識的に抑え込もうとした中で漏れ出る表情」の2つがあります。この違いを読み取ることも重要です。その動きが悪意なのか虚意なのかの差異は大きな違いです。

これからのリーダーシップは「合理的なものの見方ができると同時に人の気持ちが分かる」力が求められます。昨今前者を高めるためのアプローチや教育は華々しかったのですが、その分後者との間にかなり大きなギャップが起き、理は立っていても無神経で冷淡な対応が、返って問題を複雑化させてしまっている場面を至る所で目にします。特に企業の若者対応において顕著になっています。

人の気持ちが分かる力。その土台たる感情を読み取る力はこれまでは多くの場合、個性による経験値が頼りでした。しかしそれではいつまで立っても理と情のバランスは普及的に開発されません。普及には「経験値という暗黙知をスキル化する」ことが求められます。そのアプローチの一つがシグナル・マネジメントです。

シグナル・マネジメント、微表情を読み取る力をつけるには3つのステップが求められます。

 

①表情筋の動きと感情との関係やその機能を知る。

②微表情を正確に読み取る。

③感情を生産的な状態に誘因するような対話を仕掛ける(ペップトーク)。

ショートソモサン③:一緒に働いている人の表情のクセ、どれくらいつかんでいますか?

では今回はまず①の表情筋の動きと感情との関係からお話をしていきましょう。

先に人の感情を知るときには、微表情のみならずその人への知識をある程度抑えておく方が良いと言いましたが、その理由として微症状におけるニュートラルというポイントがあります。ニュートラルとは無表情と言うか、何も考えていない状況、感情に起伏が起きていない状況です。

人はどうしても自分を相手に投影する癖があります。そうすると自分にとってニュートラルでない顔つきをしている人を見ると、その人に何らかの感情や意図があるのではないかと邪推し始めてしまう時があります。

例えばハの字をした眉です。この形の眉は微表情では「悲しみ」を抱いた時の表情として受け止めることが出来ます。しかしこの眉が元々の人にとっては無用な勘ぐりに繋がってしまいかねません。これは「怒り」を抱いているとされる薄い唇などでも見られる反応です。これを見切るには一瞬だけの表情を見るのでは判断ができません。経過的に表情を見ていなければなりませんし、出来れば日常でのその人の表情の特徴を押さえておく方が誤りを起こしにくくなるわけです。以前「上に立てば立つほど人への関心の度合いが高くなければならない」と言いましたが、まさにその本質を示すところです。私が学歴的に論理的思考力や論理的問題解決によって一定の地位までのし上がったにも関わらず、上に行けば行くほどそれ故に無能になっていく人が多いと言うことがあるのは、まさにこのポイントが抜け落ちているからだと見ています。私は論理的処理力を「才」と表現しています。同時に対人をして人を動かしめる人を「徳」のある人と評しています。部長くらいまでは才でのしあがれるかも知れません。しかし役員以上は「徳」がものを言います。アメリカの鉄鋼王と称されるA・カーネギー氏は、その墓碑銘に「自分は多才ではなかったが、一つだけ抜きん出ていた才があった。それは自分以上に才ある人を自分の周りに集める才であった」と記していますが、まさにカーネギーの言う才とは徳を意味しているのでしょう。

何れにしても人が元々持っている顔の特徴をしていれば、その人が今ニュートラルなのか、悲しんでいるのか、はたまた怒っているのかを読み間違えることはそうそうなくなることは間違いのないところです。

因みに微表情において「怒り」は眉間のシワにも表れます。このことは日常眉間にシワを寄せがちな人は、相手から常に怒っているように映り、近寄り難い印象を与えますので気をつけましょう。このように微表情の知識は自己マネジメントとしても使うことができます。

また微表情なのか、その人の癖なのかが分からない時もあります。笑うときに「嫌悪」を表す「鼻の周りのシワ」を作りながら笑う人や最近テレビのCMで見た(栄養ドリンクのコマーシャルで外国の方が「デリシャス」と言いながらそれを飲むのですが、言葉と表情の差に違和感を感じる私です)のですが、「軽蔑」や「睥睨」を表した「左右非対称の口角の引き上げ(片方だけが上がる)」をする人がいます。こう言った人は個人的な癖をニュートラルの表情からよく観察して、表情のスタンダードを設定しておくことが理想です。ニュートラルな表情は、悪いわけではないですが、シグナル・マネジオメントにとってはノイズとも呼べる動きになります。微表情を見極めるには、ノイズ除去の能力も大切になります。

最近は美容整形などによってボトックスなどが行われることがあるので、これまで以上に微表情を読み取る時には注意が必要です。人は大人になるに従って自分の意図を相手に見られないように表情をコントロールする術を身につけ始めます。それによって自分の感情を隠そうとし始めます。この時に随所の表れる微妙なシワの変化が微表情を見分けるのにとって重要な指標になる時があります。それをボトックスが隠してしまうのです。

皆さんもある人が整形か否かを見るときに、無意識にこの微表情における識別を経験学習的に使って判断している時があると思います。そして感情に対して協調しない無表情さやニュートラルでも出るような微表情の逸失的顔つきを見て判断している時があるのではないでしょうか。何らかの異様さを感じる瞬間です。

こういったニュートラルにおいてはシグナル・マネジメントでは微表情だけでなく、口調や態度なども自分なりのスタンダードを設定しておくことが肝要です。例えばため息などがそうです。ため息は「落胆」などネガティブ感情を意図した態度ですが、ため息をつくのが癖な人もいるからです。何れ日常の観察を怠ってはシグナル・マネジメントは出来ません。

だいぶ紙面を使いました。今回はこれ位にして、次回からは7つの感情が生み出す表情についてご紹介していくことにしましょう。

次回も楽しみにしてていただけますと幸いです。

 

さて皆さんは「ソモサン」?