• 感情へ効果的にアプローチするセンスと技能~LIFTプログラム紹介①~ ソモサン第182回

感情へ効果的にアプローチするセンスと技能~LIFTプログラム紹介①~ ソモサン第182回

ショートソモサン①:人間は考えて「動く」のか? 

皆さんおはようございます。

半年前でしょうかNHKの科学番組で最新の脳科学を取り上げる番組を放映していました。冒頭そこで非常に特筆すべきことが語られていました。それは「実験によって、人の意思は意識による論理の組み立てではなく、無意識の働きから生み出されるということが分かってきた」というものでした。人間の行動的な反応を電極などを使って実験していると、「こうしよう」とする意図よりもほんの0コンマ数秒早く人の行動は発動されるということがわかってきたということなのです。いわゆる自動思考です。このことによって、人の行動は知性的な意思以外の無意識的な力によっても作られる。しかもその90%は自動化された無意識によって為されるということが浮き彫りになってきたのです。

一方認知心理学においても、人の思考には速い思考(システム1)と遅い思考(システム2)がある。速い思考とは、一般に直感思考といい、頭に思い浮かぶ状態をいう。これは自分の意志が働かない無意識的な思考の領域で、認知反応における自動思考はこの思考の領域に属し、熟考、努力、秩序といった働きを要する知的作業を伴う思考は遅い思考に属する思考である、ということが語られてきました。

そして人は自分自身について考えるときは遅い思考を使い、自分の考えを持って自ら選択し、何を考え、どう行動するかを自分で決める。そうして意識的で論理的な自分を認識するが、多くの場合は感情や直感による無意識的な思考によって行動を選択していると説かれてきたのですが、今回の大脳生理学的なアプローチはまさに認知心理学の説を実証する内容だったと言えます。

この内容は弊社が主張する人材の行動開発や組織の行動開発において大変大きな意味を持っています。それは人の思考としての論理(知性)はその人がどういった意思を持っているかで決まりますが、その意思が感情のあり方をも決するのではなく、むしろ感情が意思の在り方を決するという流れの場合の方が多いということです。

ということは幾ら論理によって意思を統制したり変容させたりといったアプローチを行なっても、それが感情を統制するのは殆ど無理ということを意味します。つまり意思、ひいては意思から生み出される論理の源流となる感情の統制においては、何よりも感情自体にアプローチをしなければならないということに他ならないということです。

このことは例えばアンガーマネジメントでいうところの6秒ルールなどは殆ど意味を為さないということにも繋がります(理性で6秒待てれば苦労しないので)。

では具体的にどのようにアプローチをしていけば良いのでしょうか。

その一端としてアンガーマネジメントから導かれる好例があります。私はアンガーマネジメントを流行らせた一人として元サッカー日本代表の前園氏がいると考えています。彼が酔った勢いでタクシーの運転手をポカリとやったのは有名な話ですが、その後彼はそれを猛省してアンガーマネジメントを身に付けたとされます。一時期彼はテレビなどで6秒間ルールなどを口にしていました。しかし私が重視するのは、彼が怒りという感情を抑え込む抑止力としている痛恨という意思の方です。彼はあの事件によって一時は相当のマイナス状態に陥ってしまいました。その痛恨によって作られた意思、いわゆるアンコンシャスバイアスと言われる無意識的な意思が感情を抑止する原動力になっているということです。彼は6秒間ルールをダシには使っていますが、実は6秒など関係ないのです。

ショートソモサン②:ポジティブな意思を発動させる条件とは?

意思には哲学観や意志のような意識的な意思もありますが、欲求や自動思考のような無意識的な意思の方が動機においては強く影響していると言えます。前回コメントしたDX転換への不安感などはこの無意識的意思の典型と言えます。不安感が勝った中で、論理的にその不安を抑え込むなど荒唐無稽の話です。何よりも自力でその感情から脱却すること自体が高いハードルです。自動思考を変えるには時間を要しますが、これは時間が解決するというような話にも出来ません。また前園氏のように失敗を体験させてそこからレジリエンス宜しく這い上がるというのも千差万別で高リスクな賭け的アプローチと言えましょう。下手をすると徹底したネガティブと反逆者を生み出すだけです。

この場合のアプローチは、まずは前回も紹介した心理的安全性の確保です。その時にポイントとなるのが他力的支援です。心理的安全性とは、組織や集団の中で自分の発言を無視・批判されずに受け止めてもらえる状態、自分の存在を好感的に認知して貰える状態のことです。

人間は社会集団的に生命を維持させようとする存在ですから、集団帰属への欲求は心理というよりも生理に近い反応と言えます。集団への反応行動ですから、認知として自力的な修正は困難です。ここはどうしても他力的なアプローチが必須になってきます。組織におけるマネジメントの真理もここにあります。人間自助努力だけでは何ともならないこともあるのです。

アンガーマネジメントの中に「そもそも温和な人間に自分を作り変えること」が最良の対処法のように示唆する部分があります。では温和とは一体何なのでしょうか。体質的にセロトニン分泌が多いような人でもない限りは、幼少期からの心理的安全性が保証されてきた中で育まれた気質の表れが温和の本質だと思います。つまりは温和自体が他力的に養育された産物ということになります。それ以外は先のような限界突破から生まれた度量のようなものでしょう。精神医学的にもPTSDにおいてPTD(外傷後成長)という現象があるということが確認されています。

ともあれ限界突破などという偶然的産物を拠り所に人財開発や組織開発を進めるわけには行きません。最も確実性があって効果も伴うアプローチが求められます。そう他力や集団力を生かしたアプローチを行うことです。

その際最も着目して置かなければならないのが、感情は思考に勝るという点です。確かに意識的に心理的安全性を保証するには論理による認知が必要です。これからの見通し、未来への知見や問題解決(ソリューション)の道筋を供与され、同時に自分の立ち位置を明示して貰うことによって、認知をポジティブ状態に転化することが大切です。しかしそれが出来るようになるには、何よりも感情の状態がニュートラルで平静になっていることが求められます。一般に不安とはネガティブ心理の状態ですから、それを平静にするにはポジティブなエネルギーを補填することが第一義に求められます。具体的にはしっかりとした動機づけをすることです。まさに感情をポジティブに盛り上げるアプローチをすることです。そして慈愛に満ちた寄り添いで孤立させないことです。それによって安定した自尊心を回復して貰うことです。これは日常のちょっとした対人的な対応でも基本中の基本と言えます。例えば初対面の場面ですが、人はそういった状況では間違いなく「何者か分からない、何をされるか分からない」という不安を抱きます。そういった感情的揺れがある中で、いきなり論理を振りかざすのは論外です。そうでなくても慇懃な振る舞いは愚かの骨頂と言えます。当たり前の話のようですが、意外なくらいに対人に対して無配慮で初対面でのイメージを最悪にする人が後を絶ちません。まして自分が悪いのに、それを相手のせいにする鈍感な人材がそこら中に蔓延しています。

聞く耳を持たない人には何を言っても徒労です。こんな当たり前の道理が現場に赴くと全く無視されたり、軽視されたりしている実情を私は本当に不思議に思います。それで大損しているのですからやっていられません。

不安解消の一歩は動機づけ。それにはまず相手に聞く耳を持って貰うこと、そしてポジティブ心理になるように誘因すること。これがアプローチの原則です。

ショートソモサン③人の感情に影響を与えるコミュニケーションのポイントは何か?

さて、ではまずどういった点に目を向けてアプローチしていけば良いのでしょうか。

私たちは新入社員研修で「対人関係の関所」という内容を教授します。人は話の内容(論理)の前にまず外見、次に態度、そして話し方という三つの関所があって、これがクリアされないと入場券も頂けません、という話です。ここでいう関所はいづれも感情に対する反応です。この中でも最も重要なのが「話し方」です。人は話している言葉の内容よりも、そのイントネーションに反応するというのは心理学の初歩です。

そういった観点から捉えますと「口の利き方」とか「言い草」というのはとても大事です。ただし「人を見て法を説く」とか「郷にいれば郷に従え」と言うように、自分本位での物言いも危険です。確かに万人に共通するようなNHKのアナウンサーのような物言いもありますが、それでは距離が近づけられないといった難点もあります。

私は浜辺美波という女優のファンですが、彼女を知ったのは今から6年ほど前のテレビドラマでした。まだデビュー直後で無名に近かったのですが、私が好きな漫画のドラマ化ということもあって偶然見かけた次第です。巷間では彼女のヒット作は「君膵」と呼ばれる映画と言われますが、私は「あの花」だと断言します。残念ながらそのメンバーの一人が不祥事で逮捕されて一回こっきりの放映となり、知らない人が多いのが悔しいところです。本題です。その「あの花」の舞台となった街でパワースポットとしても有名な神社があり、街の中心地からも1時間半かかる山間部にも関わらず人気観光地になっているところがあります。以前そこで毎月1日だけ特別なお守りが頂けると仲間と朝一番で行ったのですが、実情はもう5年前から休止とのこと。残念無念です。さあ問題はその場での出来事です。こちらはわざわざ朝から行ったわけですが、9時丁度になるまで社務所は開きません。何十分も待って社務所が開いたので、そこの巫女に「1日は特別なお守りがあると聞いたのですが」と尋ねると、開口一番、「はあ?」「そんなのはもう5年前からやっていません」という物凄く慇懃で上から目線の物言いが返ってきました。官公庁でももっとマシです。まあ教育をされていないのでしょうが、それにしても社会人として見ても最低の口調でした。横にいた仲間も驚いて、あれこそ「口の利き方」の典型例ですね。とこぼしたのですが、非常にびっくりしました。まあ神社という神聖な場所だからと私も心落ち着けたのですが、その神社の巫女の態度だから語るに堕ちます。正直もう二度といく事はないなと思いましたし、今後は事例として喧伝しようと心に強く決めたのでした。しかし本当に教育を怠ると大変なことになるという好事例ですね。

さて、更にアプローチでは「言い回し」や「物言い」といったポイントも無視出来ません。これは結構レベルの高い視点です。「単に相手の動機づけだけではなく、その後ろに相手を通して何らかの問題解決をしていくこと」を念頭に置いてアプローチするならば、「論理的に相手に自分の意志を主張することではなく相手と折り合いをつけること」をさりげなく組み込んだ伝え方が必要になってきます。そこでは不安の除去や情熱の補給の要となる「自己選択の供与を促す話法」や「自己決定を示唆する表現」といったアプローチも必要になってきます。ところが言うは易く行うは難しで、表面上の物言いや物腰が幾ら柔らかくても、内容としての言い回しが攻撃的、勝ち負け的であったり、相手の下に立ちたくないとばかり教示的であったり、時に慇懃で反抗的に映る口調で接する人がいます。

感情的にはネガティブ心理でなくなったのですが、その伝え方によって相互信頼は構築できず、積極的な協力は得られなかった、と言うのではとても勿体無い話です。

相手を理解することは大切です。しかし理解とは論理的世界です。英語で言うunderstandとは理解という意味だけではありません。相手の下に立つという語彙は、相手に敬意を持つという意味を含んでいます。それは感情的にも納得するという意味です。「言い草」だけでなく「言い回し」も重要な要素だということにも目を向けてください。

しかし何より導入は「まずは心理状況をポジティブにすること」です。そのための「愛情の提供と注入」です。

ショートソモサン④ちょっと気になる話し方とは? ~チェックポイントを見よう~

と言うことで、今回はその先兵としてまず「物言い」からご紹介していくことにしましょう。文面の都合から一部だけの紹介になることはご容赦ください。

「その人と話すとぐったり疲れてしまう」

「話しているとイラッとする」

「なんとなく絡みづらい」

「面倒くさくてつい敬遠する」

こういった人は必ず周りに一人か二人いると思いますが、そういった人に共通するのが「物言い」の悪さです。

ちょっとした言い回しが気になる、なにげない語尾や言い草がなぜか鼻につく。本人の人柄や能力とはまったく別のところで、話し方の無意識のクセとか態度がその人の価値を下げてしまっているのです。こうした話し方は、まず瞬間的で、また誰からも非難されるようなひどいマナーや、あからさまに失礼な態度とまではいかないので、自分で気づくのがとても難しいから厄介です。

なにげない話し方が相手に小さなストレスを与える。でも「それ不快だよ」と面と向かって注意されるほどのものとも言えない。だから本人は同じ過ちを繰り返す。しかし次第に周りから人が減っていく。いつのまにか自分と話すときだけみんなの表情が半笑い、気づくと仲間うちの集まりに自分だけ誘われてない、といった按配でしょうか。

 

「口の利き方・言い草」として

  1. 否定的な言葉遣いばかりする。
  2. ネガティブな発言(悪口、批判)が多すぎる
  3. 「はあ」とか「えっ」といった慇懃な言葉を発する。
  4. 言葉に感情的な抑揚がなく単調である。
  5. 感情的な表現が多い。
  6. 語気が強い。
  7. ネガティブな微表情が露骨である(これは後述します)。
  8. 「でも」とか「しかし」といった反意語が多い。
  9. 偉そうで上から目線的な態度が目につく。
  10. 「ロジカル」な話し方が鼻につく

 

「言い回し・物言い」として

  1. 人の話をとって、自分の話にもっていく。
  2. 相手の話をやたらと要約したがる。
  3. すぐに質問を挟んで話の腰を折る
  4. 同じ話を何度もしてくる
  5. 「あなたのため」と言って説教をする
  6. もったいぶって話す。
  7. わずかな情報で勝手に決めつける。
  8. 言動が媚を売っていて面倒くさい。
  9. 嘘をつくので話に一貫性がない。
  10. まったく関係のないことを唐突に話し始める。

まだまだ一杯あるのですが、こういったアプローチをされるとネガティブを助長されますし、ガスを抜かれるような感覚に陥ります。当然不安な場合は、益々不安は倍増します。

時には以下のようなケースも見られます(私もやりがちです)。

会話のなかでやたらとクイズを出したがる人がいます。

「そのとき、どうしたと思います?」

「それは何だと思いますか?」

「わからない? じゃあヒント出しましょうか」

スムーズに議論を進めたいときにこれをやられるとイライラしますし、他愛のない雑談でも、クイズを連発されると疲れます。まあゲンナリするわけです。

クイズを出したがる人は、一方的なやり取りに不安を感じたり、無味乾燥を感じたりといった場合もあるでしょうが、そこにはより注目を集めたい気持ち、みんなが知らないことを知っていると自慢したい気持ちもあるのでしょう。そして、みんなもこの話題に興味があると信じて疑わない無邪気さも併せ持っています。だからこそ、話の流れをさえぎってでも、クイズを出したり、もったいぶった話し方をしたりしてしまうのです。

人の話を聞くには、時間と労力が必要です。特に、ちゃんと人の話を聞こうとする人は、適度に相づちを打って話を促したり、言いたいことがあっても我慢して聞く側に回ったりといった努力をしているものです。

それなのに、終始自分のペースで話し、勝手にクイズを出す。そこには「自分の話が相手にとって負担かもしれない」という想像力が足りていないわけです。

ここで重要なのは、アプローチがあくまでも相手の不安を解消したりとか、エネルギーを充填するといった相手本意の場であるということです。単なる雑談の場ではありません。こういうことに気がつかない鈍感な人が疎まれるのは当然のことでしょう。マネジャーならば尚更です。

またこういうケースもあります。「ロジカル」な話し方が鼻につくというケースです。

A「先だってお客さんと話していたら、面白い事例を紹介されてね」

B 「ふーん……内容を1分でまとめると?」

A 「えっ?」

書店でビジネス書の棚を見ると、「ロジカルシンキング(論理的思考)」とか「できる人の話し方」といったハウツー本が大きなスペースを占めています。

本を開いてみると「まずは結論から」「簡潔に整理する」「図解することで問題を解決できる」などと書いてあります。ビジネスパーソンの間では、もはや「ロジカルであるべし」というのは常識になりつつあります。

だからこそ、そういう「できる人(風)のコミュニケーション術」を、どこでも振り回すタイプの人には困ってしまいます。

会話例でいえば、Aさんが欲しかった反応は「へえ、どんな面白さなの?」といった反応でしょう。「私も興味があるから共有してよ」という共感を表わすサインです。

コミュニケーションには大きく分けて2通りあります。情報を端的に伝達する場合と、気持ちを分かち合う場合です。

この例ではAさんは気持ちを分かち合おうとし、Bさんは情報を欲しがっている。そこのズレが問題となっています。

本来、2つのコミュニケーションはどちらも必要なもので、いわば「両利き」でなければいけません。たとえば上司に仕事の報告をするときは、ロジカルかつ端的でなくては困ります。

ある会社専務は、ミーティングの結果が知りたくて部下に「どうだった?」と聞くと、「大変だったんですよ。僕はすごく頑張ったのですが」といった返答をされるのにはほとほと手を焼く、と嘆いています。この場合は端的に「説得できたのか否か」という情報が欲しいわけです。

一概にロジカルなコミュニケーションがいけないわけではありません。ただ「できる人」に見られたい、論理的な人間と見られたい、という意識が高すぎて、ちょっとした話題や気持ちをやり取りして関係作りをすべき時に対しても、理屈で押し通してしまうと、冒頭に挙げた「1分でまとめると?」のような面倒くさい人になってしまうのです。

特に先のような相手が不安の時とか、相手本意の場面の際には、相手に合わせるのも大切です。それには両刀使いの出来る力が求められます。マネジャーならば本当の頭の良さを身につけて欲しいものです。

こういった時のちょっとした技術としてのヒントをお教えしましょう。それは「理屈や論理は得意だけど、共感する話し方が苦手」という人(特に男性)は、まずは語尾に「ね」を付けるように心がけるということです。

たとえば部下に「今日、お客さんにちょっと注意をされた」と言われたときも、「ちょっと、それ、何があったんだよ!?」ではなく、「え!? 何があったんだろうね」と言えるだけでだいぶ違います。コツとツボを身に付けるだけでも空気はだいぶ変わります。

このようにアプローチとして感情面へのセンスや技術を身に付けるだけでも随分と対人関係や集団状況を活性化させることは可能になります。

次回は世界で通用する人が共通でやっている感情面へのアプローチの特徴や状況や人の気持ちを察して効果的な対応することを可能にする微表情へのシグナルマネジメント、そしてペップトークなどをご紹介していきたいと思います。

ぜひ次回も引き続きブログの方までお読みいただけますと幸いに存じます。

さて皆さんは「ソモサン」?