テレワーク時代のハイテック・ハイタッチ ~ソモサン第177回 ~

ショートソモサン①:テレワークについてみんなはどう感じている?

ハイテック・ハイタッチをより具体的に理解する事例としてDXつまり「信頼関係としてのシステム」の身近な話を俎上に上げてみましょう。

いま多くの企業がDXに絡んだ事業活動の見直しを進めていますが、その中で大きな検討課題になっているのが、コロナ対応で普及した「テレワーク」に関してです。

昨年政府は緊急事態宣言下でテレワークなどによる「出勤者数の7割減」を企業に求めていましたが、今年に入って「テレワークを見直す企業」の動きが出始めています。読売新聞が2021年11月上旬に実施した調査によると、回答した125社中、70社が「現状維持」、35社が「縮小する」と答えています。コロナが収束すれば、「縮小する」企業はさらに増えそうです。

ただこの中で特徴的だったのは、現状のテレワークの状態に関して「オフィス勤務中心、または完全なオフィス勤務に戻したいですか?」と尋ねると、

・経営者の7割が戻したい、

・マネジャーの5割が戻したい

という反応だったのに比して、

・一般社員は8割が戻したくない

と反応していたということです。

 

他の調査などでもでも指摘されているのですが、役職が上がるほどオフィス勤務を支持する(=テレワークを敬遠する)という傾向が確認できたということでした。

大事なのはその真意です。

経営者・マネジャー・一般社員それぞれから、代表的・特徴的なコメントを紹介しましょう。

まず一般社員から。

「戻したくありません。いまオフィス出勤は週1回です。ゼロにすることも可能ですが、気分転換のために行っています。オフィスまで片道1時間かかるので、通勤がなくなってずいぶん楽になりました。家族と過ごす時間も増えました。運動不足で少し太った以外は快適そのものです」(IT)

「戻したくありません。週1~2回、苦手な上司・同僚が出勤していないのを見計らってオフィス出勤しています。職場の人間関係が苦手なので、飲み会や会社行事がなくなり、最低限のコミュニケーションで済み、助かっています。コロナによって、以前はいかに無駄なことをしていたのか痛感しました」(エネルギー)

「どちらとも言えません。担当業務を進める上で、テレワークでまったく問題ありません。マイペースで仕事できて、生産性が上がりました。ただ、私は独身なので、テレワークだと一日中一歩も家を出ず、リアルで誰とも話さないという日もあり、気持ちが滅入ります。同僚と馬鹿話するって意外と大切だと感じます」(サービス)

最初は業務が混乱する場面がよく見られましたが、やがて慣れてきて、円滑に業務を進められるようになった結果、一般社員は通勤の負担や人間関係の煩わしさが減るというメリットに注目し、テレワークを支持しているようです。

 

一方、職場の責任者であるマネジャーは、勤怠管理・評価・育成といったマネジメント活動にどういう影響が出ているかで、賛否が分かれているようです。

「戻したいです。テレワークでは、部下の行動や意欲などを把握することが難しく、勤怠管理・育成・評価などを以前と同レベルに維持するために、労力がかかっています。調整のための会議が増えて、私の執務時間はかなり長くなりました。部下はテレワークを喜んでいるようですが、私はノイローゼになりそうです」(住宅)

「戻す必要はありません。テレワークに対応するため職務を明確にし、無駄な業務を減らした結果、職場全体の生産性が上がりました。オンライン教育が充実してきましたし、人事評価制度もかなり簡素化されたので、私の管理業務の負荷は以前とさほど変わりません。部下がモチベーションを保てているのかといった不安はありますが、テレワークは大成功です」(通信)

これまで日本企業では、各社員の職務を明確にせず、集団で対応するという働き方でした。そして、職場のマネジャーがトラブル対応や部下の評価・育成(OJT)などを現場密着で手取り足取り進めてきました。テレワークで、この伝統的なマネジメント手法が通用しにくくなっています。

そういった中で、テレワークでも以前と同じやり方を続けようとすると、マネジャーの負荷は間違いなく増えます。一方で、テレワークに合わせて働き方や人事制度を見直せば、マネジャーの負荷は増えず、職場の生産性が上がるという見方をする人もいるようです。

 

では経営者はどうでしょう。中には「テレワークを喜んでいる社員が多いので、続けてあげたい」(商社)という少数の意見もありましたが、テレワークに批判的なコメントがたくさんありました。

「テレワークだと、データ紛失や回線トラブルなどのリスクがあります。営業部門の顧客対応も、かなり悪化しました。通勤地獄の解消など社員にとってメリットが大きいのは事実ですが、総合的に考えて、当社ではオフィス勤務主体に戻します」(金融)

「定型業務をこなす分には、テレワークでも問題ないでしょう。ただ、仕事ってそういうものですかね。事業の問題点を洗い出したり、新商品を検討するとき、ひざ詰めで時間を気にせずディスカッションをするべきだと思います。古いと言われるでしょうが、創造的な仕事をするにはオフィス勤務の方が優れていると思います」(消費財)

 

面白いのは、一部の一般社員が、会社の人間関係が嫌でテレワークを支持しましたという点です。ところが経営者の方は、「テレワークだとルーチン以外の大事なクリエイティブな仕事の状態が見えない。生産性に影響する従業員の動機や心理状態が見えない。従業員同士での連携効果が生み出せない」といった生産性への不安でテレワークを懐疑しているといった反応の食い違いでした。

マネジャーはやはり人の管理という仕事上での責任という観点で見ていますが、自身は一般と同じ心情といったところでしょうか。本音と建前が見え隠れしています。

今後テレワークはどうなるのでしょうか。経営者が「テレワーク反対」と考える比率が多いということは、これから雪崩を打ってオフィス勤務への回帰が進む可能性が予測されます。

ショートソモサン②:テレワーク時代に必要なハイタッチの視点とは?

一方で悩ましい問題がでています。いま日本では深刻な人材不足(人手不足ではなく)で、有望な新人や専門スキルを持った経験者を巡る人材獲得競争が激化しています。その人材の獲得と維持をどうするか、です。今優秀な人材が会社選びで重視するのが、「自由度」、好きな仕事をしたい、好きな勤務地・環境で働きたい、好きなように働きたい、会社から一方的に決められたくない、といった観点です。また人間関係を敬遠する風潮も高まっています。

業務運営の合理性からオフィス勤務主体にするのは構いませんが、一般社員が嫌がっているのを無視して経営者の一存でオフィス勤務に戻すような会社は「自由度がない」ということで、優秀な人材から見放されますことになります。優秀な人材を獲得できず、たまに獲得しても維持できずということになれば、長期的には会社の存続が危ぶまれます。

テレワークはハイテックの一部であり、まさに「信頼関係としてのシステム」の典型です。たかがテレワーク、されどテレワーク。テレワークとどう向き合うかで、会社の将来が見えてくることになります。少なくとも仕事の合理化といった視点でいえばテレワークがもたらす恩恵は結構大きなものがあります。それをよりプラスにするのか、あるいはマイナスにするのかは実はマネジメントのあり方、ハイタッチへの取り組み如何なのです。

ではこの問題をどのように解決していけば良いのでしょうか。経営者、現場社員。どちらにも言い分はあるでしょう。また両者にメリットやデメリットが見られます。まさに一長一短です。

ところで組織開発を手掛けている弊社の視点では、ここに大きな欠落点があることを感じています。それはここまでの視点は人や人による生産性をあくまでも個という観点でだけ捉えているということです。組織の生産性は単なる個の足し算ではありません。それならば始めから組織化する必要もありませんし、個と個が絡み合う中でのシナジー効果、創発状態や補完状態が本来の組織の価値です。これは個ではなく、人間という言葉の間に値する場が持つ力です。

組織開発とは「場」、もっと現実的に言えば「力の場」の開発やそのマネジメントをすることです。ドイツの組織心理学者であったクルト・レヴィンは1920年代に人の行動はその人個人の意思とその人を取り囲む社会環境、つまり「力の場」との関数で為されると提唱されました。これは今や社会科学上の相対性原理と称されています。つまり人の行動は個々人の意思だけではなく、その人がどのような場にいるかによっても左右されるのだから、人を動かすには場の状態にも影響をしないといけないということを云っているわけです。

場の最も単純な形態が対人間の場です。例えば敵対関係か、親子関係か、上下関係か。人が何かに反応し、決心する時には、その置かれている場によって変わってくるということです。このことは人を動かしたり影響するには、その人個人にだけ目を向けるのではなく、その人が今どういう多様な関係の中にあるのかを考慮してそこにある場に影響しなければならない、ということを意味しています。特に日本は集団主義文化ですので自分個人の意思よりも周りとの関係を第一義に自分の意思を決め込みます。

にも関わらず、日本の組織はこの場に対してあまりに無知で、軽視をしているのが実態です。そしてどの組織も、上手くマネジメントができないとか、人が動いてくれないと悩んでいます。それでもやっているアプローチは個へのアプローチばかりです。まさに徒労を繰り返している状態です。

この場が生み出している一つが実はテレワークが生み出す生産性です。ところで私が見る限りテレワークが生み出すサボタージュはさほど問題とは云えません。欧米のような階級社会においての低意識の人たちがいない日本で上が見ていないから仕事をしないといった人材はそう存在しません。結構日本人は勤勉です。

しかしテレワークを嫌う若者が人嫌い、人間関係嫌いが故に、というのは組織としては明らかに問題です。先の経営者の一部の発言のようにシナジーが出てきません。また自由の意味を履き違えた若者が自由に対応する責任を無視して行動するのは組織が持つ良い意味での牽制機能の観点から由々しき問題です。

これらは何も若者の社会行動や組織行動、あるいは契約社会におけるルールやしきたりへの無理解が為せるものです。まずはそれの認識はしてもらわなければなりません。人の行動は「覚醒化」「決定化」「行動化」「習慣化」「内在化」という手順で浸透していきますから。この手順を大事にかつ丁寧に対象たる個々人や、それ以上にその人が関わる力の場に効果的に働きかけることが必要になります。これがハイタッチのアプローチです。ハイテックが高度になればなるほどハイタッチもそれに準じて、いやそれ以上に決め細かく丁寧に、具体的に段取り良く、論理だけではなく気持ちにも心を配りながら、そこに関わる人との関係にも目を配り、心情を汲みながら彼らを内在化のレベルにまで誘わなければならないのです。

人材がいないからといって若者におもねいていれば、状況はますます悪化していきます。少しでも好転していくには大いなる流れには抱かれながら、それに呑まれて船を転覆させないように航海をしなければなりません。そのための技術を身に付けなければなりません。

例えばMORSの法則などがそれです。MORSとは

・Measured  計測できる=カウントできる、あるいは数値化できる

・Observable 観察できる=誰が見ても、どんな行動をしているのかわかる

・Reliable 信頼できる=どんな人が見ても、それが同じ行動だと認識できる

・Specify 明文化されている=文字通り何をどうするか明確になっている

といった目標管理の法則ですが、こういった技術を経営者や管理者はきちんと使いこなせるようにならなくてはなりません。MORSに関してはまた次回お話しさせて頂きます。

 

ともあれ、ハイテックとハイタッチ。DX化が加速度的になる経営環境における現在、見逃せないワードになっています。

さて皆さんは「ソモサン」?