• ソモサン第167回目 「組織道を支える力理という考えについての理解を深めていく、その六。」

ソモサン第167回目 「組織道を支える力理という考えについての理解を深めていく、その六。」

ショートソモサン(1)適応障害を乗り越えるカギは適応できない環境そのものではなく、〇〇です。

皆さん、おはようございます。

最近「適応障害」という単語が耳目を賑わすようになりました。女優の方が公表と共に長期休養に入られた(これを執筆中に活動再開をされました)のをきっかけにクローズアップされた感がありますが、私たちにとっても身近な話として看過はできない出来事になってきました。

特にコロナ禍が長く続いていることから、不安な気持ちから離れられなかったり、運動不足から体調を崩して、それを機に鬱々とした気分に陥ったりする人が増加する中、自分ごととして考えるようになってきているのも加勢しているように思えます。

最近ではメジャーな病名にもなりつつある適応障害ですが、これまでよく俎上に上がっていた「うつ病」と何が違うのか、というとそこを明確に応えられる人は少ないようです。適応障害が身体的に生じるのが「心身症」ですが、これもストレス障害の一つとしてうつ病とは異なる存在と定義されています。

適応障害とは進学や結婚、子育て就職や転職など人生の節目で生活環境が変わるときに上手く適応ができなくて、心身が病んだ状態になるというのがよく見られるパターンです。私も家の都合で幼少から転校生活に明け暮れましたが(おかげで幼稚園以来大学まで入った学校と出た学校が異なります。会社も同様になりました。まあ最後の二つは自分の選択ですがね)、小学校の時と高校の時は重度とは言えないまでも、身心の不調を自覚していたことを覚えています。

適応障害の症状としては不眠、頭痛、胃腸障害、不安、抑うつ気分などが特徴ですが、最も大きいのは抑うつ気分に付随する「ネガティブ思考」の支配です。それによって厭世観、つまり世の中全体を悲観的なものとして捉えることで、外的環境との関りを断ち、引きこもりの状態に到ることがあります。

一方で、攻撃性が自己に対してではなく他者に向かうことで、周囲に対して荒れた振る舞いが目立つようになることもあります。こう聞くと、「うつ病とどう違うの」と口にする人も多くいらっしゃると思います。私の周りでもうつ病の経験者の方もいらっしゃいますが、その方を持ってしても「自分の症状と同じだ」とおっしゃいます。

専門家に問いますと、大きな違いは「障害を発症するきっかけ、対象(原因)となる環境の有無」なのだそうです。適応障害は、まず「適応できない環境」があって、それへの反応として発症します。そのためその環境下にないときには症状が出現しません。そのため環境を変えたら症状が治ったという人が多いのです。

一方うつ病は「多因子病」といって、明確な一つの要因によってのみ発症する疾患ではないとされています。そのため、症状は特定の環境下に限って出現するわけではなく、「環境を変えたら症状が改善した」といった、適応障害のような明確な反応が起こらないことも少なくないそうです。

ところで私の経験値では、適応障害といいながらも何度も同じような不調を繰り返す人もいれば、うつ病といいながら環境が変わるだけで大幅に回復する人を目にしています。ということで、上記の説明だけでは釈然としないのが本音です。

実際に適応障害からうつ病や抑うつ状態に進行する人もいらっしゃいますから、本当のところは専門家的にも明確なる区分けは出来ないものと思います。心の問題は深い深い、未だ解明できていない世界です。

ただ適応障害においてもうつ病においても、その改善策は似ています。そしてそこにある意味、適応障害かうつ病かの違いも潜んでいるとも云えると考えます。

適応障害もうつ病も、元々は「これまで慣れ親しんできた方法や、楽におこなえる、安心感のある方法や考え方が使えなくなる」ということから始まります。だから環境を変えて、再びそうした昔から身についている手法を活かせるようにするというのは一番即効性があるわけです。

でも環境は早々変えられるものではありませんし、たとえ環境を変えても、実際には期待したほど自らの適応スタイルにフィットした場所ではない可能性もあり、次の環境でまた同じように不適応を起こすということを繰り返しかねないのです。

そう考えると、適応障害の改善策として「環境を変える」というのは一策としてはありですが、本当に効果的なのは、うつ病の改善策同様に「そもそもの自分のものの見方、考え方」を変えるという方が効果的だと私は考えます。

ショートソモサン(2)利己的な人材は増えている?減っている? 利己的な考えは最終的に自分を利するか?

気をつけなければならないのは、精神医学の分野では適応障害に対しては、うつ病と違って抗うつ薬のような向精神薬(精神に作用する薬剤)の使用は避けたほうがよいとされているということです。時折、私が恐ろしいと感じるのは、適応障害にもかかわらず「うつ病」の診断を下して薬物投与をおこない、かえって回復を長引かせる「ヤブ」が存在することです。こういうのに引っかかると本当に災難です。

「自分のものの見方や考え方を変える」というアプローチは、いわゆる「認知を変える」という心理学的手法であり、その代表格は「認知行動療法(認知療法)」です。認知行動療法に類する治療法には、「対人関係療法」「弁証法的行動療法」「マインドフルネス認知療法」などさまざまなアプローチがありますが、その全てに共通するのは、「現状や他者の行動を肯定的に捉える(利他心を持つ)」「自分自身を責めずに受容する(自己肯定感を高める)」「自分が考えているほどに周りは自分を何とも思っていないことを把握する(自己概念を確立する/大人になる)」「考え込まずに相談する」といった心構えや対処行動が身につくようにサポートしたり、ナビゲートしたりすることを目的として展開されているということです。

本来は幼少期に、こういった対処方法を親などが教育するのが最良です。親だけでなく、欧米では教会などの団体がボランティアとして、こうした教育の一翼を担っています。日本でも昔はお寺などがこう云った「意」の強化への支援をしていました。ところが現代においては、学校や塾はおろか、親ですらも「意の教育」に関わらなくなったのが実態です。そのような日本において、若い世代を中心に適応障害が増えるのも、道理と云えるのかも知れません。

さて、心理学や精神医学の専門家の共通認識として、前回まで私が紹介させていただいた「力理」の理論において、「内向性」がもたらす典型的なマイナスの側面は、「利己(自分自分)的思考」であるということが挙げられます。

再掲しますと、「利己とは円周で表現すれば、円の内側に位置し、その方向付けが内心に向かうことと紹介させて頂きました。利己の姿勢は自分を外と隔絶し、外に背を向けることになります。そうすると自分しか見れなくなりますから、関係性の中でモノが捉えられなくなります。

人は本来、自己保存という生物学的性質を有していますから、そういう状態になるとただただ自己正当化に拘泥していきます。そしてそれがまた、人を遠ざけます。自己肯定感を下げるのも自分ならば、それを堂々巡りで下げ続けるのも自分。

それが利己と云う悪循環の怖いところです。」これはまた、前回ご紹介した「バレンシー」における逃避行動、すなわち「回避」という反応に繋がってきます。人との関係が持てず、人との間の間合いが作れない人は「力理」においては「回避」という名の防御反応(専門的には「防衛機制」と言います)しか選択できなくなるのは自明の理といえます。

まさに悪循環の極みと云えます。意のある無しや、意の持ち方は大きく人の生き様に光も影ももたらす存在なのです。そういった背景の中で多くの若者が幼少期にこのような意についての教養、人生哲学を教えられずに「無知の涙」を頻出させている実態を目の当たりし、今も憤りを禁じ得ないのです

コンサルタントを生業とするJoyBizでは精神疾患を有する人だけを対象に事業を行ってはいませんが、組織開発の一翼として組織の要たる人材の品質を高め、組織活動における相乗性を高めるにおいて、未病たる「メンタル問題」は絶対に避けては通れない課題といえます。当然その問題を解決するために、医学的な治療技法の応用も必須という考えのもと、10年以上も前から認知行動療法を活用してきました。

その中で、ポジティブ心理学との出会いからペンシルバニア大学におけるベック理論に基づくペンレジ技法(正式名称「ペン・レジリエンシー・プログラム」)を活用してきた経緯があります。そして組織における適応障害のような問題を未病段階で阻止すべく、「モメンタム」や「レジリエンス」といった目標指向的なアプローチへの参画をはじめ、以前にもご紹介させて頂いた「コギャル」という技法を開発、プログラム展開してきました。

ところで疾病でも未病でも人は人。コギャルを展開する上で私たちは、精神医学的な治療アプローチと同様に、初期の認知行動療法における技法だけでは問題解決に物足りなさを感じる中、瞑想法(マインドフルネス)に辿り着き、その源流たる「禅」の修養法をコギャルに取り込むことによって、現在の形に醸成してまいりました。

このように医学的な技法をも駆使して、ポジティブ組織開発を達成しようとしているのが「組織道」の本質といえるでしょう。

次回はコギャルにおける瞑想法や、現代において禅の思想をいかにして効果的に展開してゆくのかについて、ご紹介を進めさせて頂きたいと考えています。

それでは次回も何卒よろしくお願い申し上げます。

さて皆さんは「ソモサン」?

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