• 組織道を支える力理という考えについての理解を深めていく、その一。

組織道を支える力理という考えについての理解を深めていく、その一。

人間関係の中にある「力」の働き 力理

先週「力動(力の作用)」という概念をご紹介させて頂きました。これは弊社が「組織道」を語る上で外すことの出来ないエンジンの様な存在です。このエンジンを弊社では新たに力理(りきり/ちからのことわり)と称することに致しました。そしてそれを支える概念がLIFTということになります。

この力理。人と人との間や場において絶対無比に存在する理です。そこから認知のあり方や引いては感情の起き方、思考の方向づけといったものが生まれてきます。

人は表面的には意見の食い違いや感情のぶつかり合いでお互いの生産性や非生産性、或いは愛憎といった世界が生まれてくるのですが、そもそもの根っこにこの力動への駆け引きや反応があるということにはなかなか目を向けようとしません。しかしこの根っこへの対処や認知修正がない限り、悪い方での関係性の改善は未来永劫に為されないのです。

力動。あまりに当たり前の様な存在だからこそ気が付かず、それ故に潜伏的に続く葛藤や愛憎劇。はたまた様々なハラスメントやヘイト問題。我々は抜本とまでは行かなくても、少しでも根本に近いレベルでの問題解決、特に組織問題の解決にアプローチすべく力動という存在を俎上に挙げることにしました。

 

映画で「海街diary」という佳作があります。これは4人の姉妹が生きる何気ない日々が題材になっているのですが、その中にさりげなくこの力動が描かれています。それは梅酒を作るため縁側で梅を取るシーンです。

4人が縁側に寝転んで一番下の妹が一人木に登っています。この時電話が掛かってきます。今の様な携帯ではなく、家の黒電話です。その時、当たり前のように長女が次女に「電話だよ。あんた出なさいよ」と声掛けをします。すると次女が三女に「あんた出なさいよ」と回すのです。三女は一瞬躊躇しながらも、思い切って出ていきます。まさに力動が自然に出動する場面です。

誰がそうしたわけでもなく、姉妹という社会関係の中で歴史的に培われた上下関係の世界です。この映画の素晴らしいのはここで単に権力関係だけを映し出すのではなく、そこに長女の責任意識というものを載せてくるところです。このシーンには姉妹の中での力動関係とそこに伴う三面等価(責任、義務、権利)がさり気なく埋め込まれているわけです。

何れにしても社会の中で一見当たり前のようで、実は当たり前でない力動関係の世界があります。またそれは時の価値観とともに移ろい行くものなのです。こういった力理に疎い人が頑固だとか、鈍いとかロートルとか陰口を叩かれる存在になっているのです。ご興味のある方は是非映画を見てみてください。

 

さて力理ですが、LIFT概念に従えば先週概略をご紹介させて頂きましたように大きく二つの柱があります。Intention(方向づけ)とForce(力量)です。物理学ではこの2つを持ってベクトルと称しています(因みに量だけですとスカラーという用語になります)。

Forceは映画「Star Wars」で有名になりましたが、昔から米国の空軍はU.S.

Air Forceと意図のある力、威力とか抑止力のように心的に近い力として扱ってきています。Powerはどちらかというと物理的に近い言葉として捉えられています。

力理を構成するIntentionとマインドフルネス

今回はIntentionという方向づけに関しての話題に集中させましょう。この方向づけを理解するのに最近分かりやすくかつ有意義な研究発表が米国から出されました。皆さんもご存知のマインドフルネスに関する研究発表です。

マインドフルネスとは、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」を意味する活動で、主に Googleの研修に取り入れられたことから一挙にブームとなりました。

「寛大な精神を獲得する」「協調性を高める」とった効果があるとして大きな注目が集まっているのですが、一方「 仕事のモチベーションを下げてしまう負の効果もある」といったネガティブな意見も出て来始めました。

そんな中でバッファロー大学で社会心理学を研究するマイケル・ポーリン氏は、「どうやらマインドフルネスは実践する人の考え方によって効果が異なり、考え方によっては逆効果を及ぼす可能性がある様だ」という研究発表を出しました。

 

ポーリン氏によると、アメリカにおいてマインドフルネスは過去数年間で爆発的に普及し、数多くの瞑想(めいそう)スタジオや瞑想アプリなどが作成されており、2019年にはアメリカにおけるマインドフルネス関連の市場価値は12億ドル(約1300億円)に 到達し、2022年までに市場価値が20億ドル(2200億円)を超える状態なのだそうです。

また学校機関や医療現場、刑務所などの幅広い現場でも採用され、アメリカの雇用主の5人に1人が従業員に対してマインドフルネス関連のサービスを提供しているそうです。

ポーリン氏は「マインドフルネスはストレスを軽減し、自尊心を高め、精神疾患の症状を軽減することができる」とする 研究結果を例に挙げて、「マインドフルネスを導入する教師や雇用主は、マインドフルネスに対して『人々をより寛大かつ協力的にさせる』という生徒や従業員にとって望ましい効果を期待しているのでしょう」と指摘しています。

マインドフルネスという技法が一定の力理的な効果を持っているのは間違いなさそうです。

しかし、ポーリン氏はマインドフルネスがアメリカとは文化が大きく異なるアジアで生まれた考え方であることに着目して、「アメリカ人は自らを個人的な枠組みに当てはめて『私が求めるもの』『私は何者なのか』といった考え方をします。

それに対して、アジアの人々は自らを集団的な枠組みに当てはめて『我々が求めるもの』『我々は何者なのか』といった考え方をします。水の種類が異なると料理の味が変わるのと同じように、人々の考え方の違いは、マインドフルネスの効果に影響を与えている可能性があります」とも主張します。

さらに、「同じ文化に所属する人でも、考え方には違いが生じます」と述べ、アメリカ人の中でもマインドフルネスがもたらす効果には違いが出るという考えも示しています。

このような考え方の相違によるマインドフルネスの効果の違いを明らかにするために、ポーリン氏は366人の学生を対象に性格診断を行い「自らを集団的な枠組みに当てはめているグループ」と「自らを個人的な枠組みに当てはめているグループ」に分けた上で、各グループにマインドフルネスもしくは他のアクティビティを実践させた後の慈善活動への寄付金の額を比較したそうです。その結果として、「自らを集団的な枠組みに当てはめているグループ」では、マインドフルネスを実践した人の寄付金額は実践していない人に比べて17%増加し、「自らを個人的な枠組みに当てはめているグループ」では、マインドフルネスを実践した人の寄付金は実践していない人より15%減少することが判明したのだそうです。

 

ポーリン氏はこの結果を元に「自らを個人的な枠組みに当てはめている人々にとって、マインドフルネスは彼らを個々の目標や欲求に集中するように駆り立て、彼らを利己的にさせるように働きます」と述べ、考え方の違いによるマインドフルネスの効果の変化を主張しています。

ポーリン氏は「マインドフルネスは良い影響を及ぼすこともあれば、悪い影響を及ぼすこともあります。マインドフルネスを実践して良い影響を引き出したい場合は、自らを集団的な枠組みに当てはめることを意識するべきです」と締めくくっています。

そうこれこそがIntention(方向づけ)が力理にとって非常に重要であるということを示す好例です。力動(力の作用)は単なる力量(ポテンシャルなどとも称される)として、エネルギー量の大小だけでは測れないことを皆さんにもしっかりご理解頂けますと幸いに思うところです。

それでは来週も何卒よろしくお願い申し上げます。

 

さて皆さんは「ソモサン」?