• 組織における適応課題という処理できない問題へのアプローチを改めて考える

組織における適応課題という処理できない問題へのアプローチを改めて考える

皆さんは今年のゴールデンウィークをどう過ごされましたでしょうか。

私は自粛の流れで行く宛てもなく、ただただ録画してあった映画やドキュメンタリーの鑑賞と読書三昧の日々でした。とても贅沢な時間といいたいところですが、心理的には何となく焦りを心中に持ちながらのどこか不安定な一週間であった感があります。

そのような中、ある意味「止まれ、振り返れ」的な丁度階段の踊り場のような気持ちでこれまでの経営活動を見直したのは良かったところで、一日若手とゆっくりとミーティングを行ったことも相まって、休み明けから新しい取り組みを始めようという流れになってきました。名付けて「組織道」。その案内は後半にさせて頂きます。

 

ビジネスの基本は「エビデンスの積み上げ?」~論理では解決できない「処置・開発型」問題~

ところで、休み前にとある就職専門の採用紹介会社が自社内での取り組みに対してなかなか面白い内容を掲載しました。その内容を皆さんにも少しご紹介させて頂きます。

「我が社では新卒入社数は2012年が3人、2013年が6人、2014年は6人、2015年は17人と、2015年は前年の3倍近くを採用した。この時期、速いスピードで業績が拡大していたからである。

2014年の社員数は、約38人。2015年には17人が加わった。その様な中で2015ショックが起きた。前年までの3年間の入社1年間における離職率は約2割だったのが、一気に5割を超えたのだ。その2015年に営業部門から人事部長になったN氏は、その対策のために退職者へのヒアリングを始めその理由を浮き彫りにした。

1、社内の個々の仕事の意味、目的、作業フローの定義が不明確である。また関係他部署の仕事が分からない。

2、個々の作業の役割分担と権限、責任が不明確である。

3、チームで仕事や作業をする状態になっていない。その為に相互に無駄が多く、精度も雑になっている。

4、残業時間が多い。

5、役員や管理職がマネジメントを理解しておらず、感覚的な対応になっている。

6、新入社員が仕事の前に社会人としての意識になっていない。組織というものを正しく理解していない。

7、新入社員が孤立している。職場内で上司を筆頭に「関わろう」という意識がなく、浮いている。

8、経営理念や社風が社内で理解浸透されておらず、行動の価値観が個々でバラバラである。

N氏はこういった調査内容を基軸に、管理職や外部のコンサルタントらの意見や助言なども得て、社長や役員の了解のうえ、次に挙げた8つの改革(詳細省略)を全社で段階的に試みた。

 

8大改革の効果は、早いうちに表れた。その後新卒者の入社数は16年が13人、17年は17人、18年が20人、19年が18人、20年が11人と採用者数は増えているが、入社3年以内の離職率は19.8%。定着率を上げる仕組みの効果が次第に現れてきた」。

この内容はどこの会社でも自社は上手くいっているというのに「まさか」といって共通する内容なのですが、面白いのは退職者の声が軸になっているということです。辞めた人というのは、社内政治や忖度がありませんから結構本音で物言いをしてくれます。

私も以前辞めるという人が、その理由に「給与が安い」とか「時間が取れない」とか言っていたにも関わらず、半年後にたまたま出会った際、『本当は上司の〇〇さんとの反りが合わず心理的に追い詰まった』と言っていたのを印象深く覚えています。その場で本音を言ってもらえれば様々な手が打てたのにと残念な時があります。

何にせよ上記の8項目は入社1年目の人達でも重視する内容であるということです。

 

それにしてもこれほど大きな影響を与える組織的な課題であるにもかかわらず、どうして会社では早急に手を打とうとしないのでしょうか。

ナラティブ研究で知られる埼玉大准教授の宇多川先生はその著作の中で「目まぐるしく変化を遂げているビジネスの中で目に見える戦略よりも組織問題と言う答えのない適応的課題に対していちいち関わっている余裕などないと思う人もいるかもしれない。そういったわからず屋たちとの分かりあえなさに直面するその背後には、適応課題が隠れている」。と述べています。

適応課題とは正解がない、関係の中で発生する一方的に解決ができない複雑で困難な問題のことで、私が書いた「問題解決のセンスを磨く本」の中では処理ではなく処置型や開発型の問題と定義しています。

 

組織とは人事管理も象徴されるように「評価の連鎖体系」と言い換えることができます。余程の使命感や能動的な意識がない限り「評価されることには反応するが評価が複雑で困難なものには出来る限り手を付けたくない」というのが多くの守勢の人の心情と云えます。

評価とは計測しやすい世界、つまり正解がある課題、ファストラーンと云われる即効性がある世界です。まあ曖昧なことに敢えて手を付けてマイナスになりたくないといった所でしょうか。

 

しかし先の8項目が示すごとく、組織の持つ適応課題(宇多川先生の定義)が経営における生産性に大きく影響するのは間違いのないところです。

 

ファストに解決できる問題にしか目を向けない「作業者」人材

実際我々がこのような組織問題においての支援はほぼ90%が経営者や役員とのやり取りで動いているのが現状で、担当部門クラスでは教育的アプローチに終始しているのが関の山です。

そうするとどうしてもファストラーンレベルとなり、ほぼ一過性になってしまうのが残念なところです。役員クラスでも適応課題にキチンと目を向ける人はそう多くなりません。役員クラスで適応課題に目を向ける人は総じて教育などでも自らが現場に顔を出すのが特徴です。そうするとこちらもその場で組織課題をやり取りできるので例え教育的なアプローチでも効果は格段に上がります。

しかし前回も述べたように(前回のブログの事例参照)、先述のいわゆる分からず屋は、現場に顔も出さず適応課題に関心も低いので、教育効果が上がらないどころか、今何をやっているかも分からないので頓珍漢(とんちんかん)な評価を下し、これまでの積み上げですら無為なものとしてしまいます。

それでも役員かといいたくもなるのですが、現場にある現実です。これは大手とか中小に限りません。むしろ大手の古老企業で経営者というよりも上席管理者といった風情の人間が役員になっている企業に多く見られます。ここにヒラメ的な自分の意思がないそれこそ自分の評価一心の担当者が着任すると全ては水疱です。

 

ともかく組織開発を手がける我々のハードルは、様々な法規制で昨今のクローズな窓口となっている企業組織において如何に適応課題に目を向けているキーマン、特に経営者とコンタクトを取るかに尽きてきています。

さて硬直した企業組織においてファストラーンに偏重した取り組みの弊害は、例えそれがファストラーン的な内容の教育研修であったとしてもカニバリズム的にその効果に悪影響を出し始めています。それは受講生が組織に対する意識啓発や能力向上を舐めてかかるという弊害です。

 

先月ある企業の目標設定会議において目が点になるような体験をしました。関連会社における目標設定会議だったのですが、そこに出向していた本社からの部長が開講挨拶でいきなり「君たちは目標設定といっても目標の意味もよく分かっていないだろうし、自分の目標の基準も分かっていない。何も分かってない中でこういう取り組みをしてもピンとは来ないだろう」といった趣旨の発言をしたのです。

この部長は着任まだ2ヶ月ほどで、まだ関係会社の社員との心理的な関係づくりも良く出来ていない状態です。マネジメントの一般常識として、こういった初期設定の時にネガティブ発言は大問題です。

しかも上から目線での物言いは論外です。マネジメントでは三面等価の原則というのがあって、目標と立場と責任は等価なので上には厳しく下には丁寧に、というのが大原則。全くマネジメントのイロハすら認識できていません。

しかも事前に私が聞いていたのは、本社常務が「出向半年は大人しくしていろ。その間に現場をしっかりと把握して馴染め」と指示していたということです。

 

実はこの部長、この会議の前に打ち合わせした際、いきなり「私はコンサルタントや企業研修といったものはあてに出来ないと思っている。学習などは現場の体験でしか学べないものだ。自分がいた前職でも研修に相当額使ったと思うが、何の役にも立たなかった。結局潰れてしまった」と放言を受けたのです。

その場ではそういう認知もある。そう言ったことを言われる様なお粗末なコンサルタント会社や研修もあるし、とばかりに事実関係だけを常務に報告して静観していたのですが、ことこの挨拶に及んで、「この人は研修の機会を全く活かさない人、きちんと管理能力を学習しない人だった」というのを実感した次第でした。

「なるほどこういう人ばかりを野放しにしていた会社が潰れるのは致し方ないといったところか」と慨嘆したのが本音です。果たしてこういった学習心のない人がマネジメントした職場どの様になっていくのでしょうか。ちょっと笑えない話です。

 

ともあれこう言った組織学習や管理能力啓発を舐めてかかる人が頻出する話は至る所で聞きます。これこそ担当部署の怠慢でしょう。真剣に研修実施に臨んでいない結果がこういう状況を生み出すのだと思います。これは前回取り上げた上場企業の姿勢にも通じるところがあります。

この問題解決として考えられるのは社長という最高責任者やそれに準ずる人が真摯に組織に内在する適応課題に目を向けてスローラーンを心掛けなければなりません。そしてそれが組織文化になるように徹底的に関与しなければ企業は組織問題によってまるでボディブローのように瓦解していくのは必定といえます。

 

求心力と遠心力を高度にバランスする組織戦略「組織道」

そういった現状を背景に、JoyBizではこれまでの集大成として、こういった組織の適応課題に対応できる組織戦略を組み立てること、かつそうした組織運営ができる人材を一気通貫で養成できることを実現すべくトータルプログラムを開発しました。

それが冒頭の「組織道」です。このプログラムは茶道や華道、剣道や柔道のように、術(例えば剣術、柔術)といった技法(この場合マネジメント手法)だけではなく、レジリエンスやモメンタム、アンコンシャスバイアスのようなマインド(哲学)やメンタル(心理)面の醸成や啓発も織り込んで、まさに組織を強固にすると同時に柔軟に成長させるために関わる人財が取るべき「道(人の踏み行うべき行い)」を組織内に構築していくことを目的として構成した内容です。

「道」の世界では共通の思想「守破離創」という成長ステップに基づいて、3段階×各回4ステップ(1ステップ2時間)、計12ステップで完成させるプログラム内容です。

 

例えば「守・破」編は「組織とは何か、何故か」「組織における立ち位置と秩序」「組織行動における規律」「組織文化としきたり」といった組織運営における基礎(挨拶や報連相など)の内容の徹底を教え込むフレーズになります。

「うちの上司は古い」「働き方改革だから個の自由を増やそう」「個のモチベーションなど社員が働きやすい環境が何よりも大切だ」など昨今広まる組織運営上の致命的な誤解に対して経営哲学や責任概念など組織の「背骨」「骨組み」をセットしていきます。

 

そして「離」編はそういった組織行動における原理原則を踏まえた上で、組織の奴隷ではなく責任を果たしながら自分のやりたいことを実現していく自律した人材として動くべき行動や考え方といった内容、特に目標意識を形成する理念や個々のキャリア形成などのテーマを展開します。

 

そして最終的には、「創」編として、組織の中で新しい考え方を生み出していくことやパフォーマンスにつながるような組織の関係性を構築していくための「認知相違問題」をどのように組織内にビルドインして、イノベーションを起こす組織につなげていくかを考え、実際の組織マネジメントの方法論として組み込んでいきます。

 

そうした組織づくりを実際に進めながら、幹部陣・管理職(最終的には全社員)など組織の哲学を浸透すべき方々に、今度はトレーニング的に実施する展開になります。このように段階で求心力と遠心力(多様性)の矛盾を高度に統合する組織行動のプロフェッショナルを育成するアプローチ構成になっています。

 

詳しくは休み明けにホームページなどを再編したりして近日に全容を公開する段取りとさせて頂きます。実施はオンライン実施の組み立てです(希望される方は対面形式もOK)。弊社常務取締役の竹本伸吾が組織道の考えに基づいた実際の組織づくりの支援を担当させて頂きます。

ということでこうご期待ください。

コロナ禍によってリモートが中心となり、気持ちや想いの繋がりが弱まっていく中、組織の凝集性も弱まり、社員は孤独からくる不安に苛まれ、こういったストレスから徐々に生産性が低下させている人が増えてきました。

にも関わらずこういった適応課題に目もくれず目先の技術的な課題に執着して、コミュニケーション不足から組織の沈滞化が起き、まるで初期には痛みのない癌のような内的疾患を組織内に生み出している企業も頻出され始めています。

改めて組織という存在が抱える複雑さや有する影響力の大きさに危機感を抱くところです。

 

コロナ禍においてゴールデンウィークという長い活動停滞を経た今、皆さんの組織はどの様状態になっていますでしょうか。改めて止まれ、振り返ってみよ、という時機かもしれませんね。組織の健康を切に願うところです。

 

さて、皆さんは「ソモサン」?