• テレビ番組の中にチーム運営のあるべき姿や現代の若者が持つ本来の姿勢をまざまざと見た

テレビ番組の中にチーム運営のあるべき姿や現代の若者が持つ本来の姿勢をまざまざと見た

とある番組をみて ~チームの活力と社会の偏見を見る~

先週BS放送で「魔改造の夜」という理系的番組をやっていました。内容は家電やおもちゃを創造的に改造して、例えば走り幅跳びをやらせてみたり、瓦割りをやらせてみたりと3つのチームに優劣を競争させるといったものです。

 

今回は自動掃除機を改造して、本来ある機能としての掃除機能はきちんと残しながらも創造的に新たな機能を加えてジャンプの距離を競い合うという内容でした。そこに出て来たチームは大企業、ベンチャー企業、町工場といった区分けによる編成で、番組ではそれぞれを仮名にしていましたが、殆ど一目瞭然の紹介で、本田技研、GROOVE X社、YURI工業の3社でした。

周知の如く、それぞれモビリティの世界企業、感情認識のITシステムが優れたロボット開発企業、そして航空機の部品加工に優れた中小企業です。それらが若手を中心に己が持つ能力をフルに生かして最高得点を目指して挑みます。番組はその制作プロセスを追いながら優勝を決めるという流れでした。

この番組、個人のみならず組織の持つ能力というものを見極める基準として非常にユニークな番組でした。それぞれの企業がそれぞれの持ち味を基点に創造をはり巡らしていくのですが、そこにある意味限界が見えてきます。

 

GROOVE X社はITのプログラミングを駆使した介護ロボットの開発企業です。元々はSoftbankのペッパー君を開発した人が独立した会社です。この会社が作り上げた魔改造は、そのプログラム技術を駆使した助走力を最大限に活かしたジャンプです。この競走ではまず掃除機能が働いているということを証明する必要があります。

そのために一定の距離を掃除しなければならず、助走距離が制限されてしまいます。ところがこの会社はプログラムの書き換えで、一旦規定の掃除距離を走行した後、機械を逆進させてスタート地点に戻し、そこからハイスピードでコースを駆け抜けてジャンプするという創造的な開発をしたのです。もちろんロボット企業なので筐体の堅度も確保させています。結果として距離は4メートル50センチほどでした。

 

次にYURI工業です。ここは精密機械加工の雄です。画面にも5軸のようなハイエンドのマザーマシンが映し出されていました。ここの魔改造の視点は強度なスプリングの適応です。問題はそれに耐えられる筐体の確保です。まさに部材選択と切削技術がものをいいます。

競走では掃除機本来の機能通りのゆっくりとした走りでしたが、最後に物理学的な発射角度を織り込んだパワー発出でジャンプを成功させていました。結果は4メートル25センチほどで僅差です。まさに実力伯仲といった体でした。

 

最後は本田技研です。誰もが知るモビリティの大手企業。現在はジェットエンジンなどの開発も含めてパーソナルジェット分野で世界の航空機産業にも進出しています。まあプライド的には負けられないところです。

ホンダさんでは持ち前のジェット機能に関する技術を生かし、ガス噴射という宇宙ロケットで使われている機能を使った魔改造で掃除機を飛ばしていました(まさにジャンプというよりも飛ばす)。ホンダさんは短距離離陸の技術も持ち合わせる会社です。結果は13メートル。ダントツの勝利です。

 

この3社は自社が持つ強みを最大限に生かした開発をして短期間でよくあれだけのといったアイデア勝負をしていました。しかし私的には少し後味が悪い番組でした。

 

「NHKさん、ベンチャーや中小が頑張る姿は良いけれど、これは余りに感受性が無さ過ぎではないでしょうか」と言いたくなる不快さが舌に残る感じです。登場した各企業の若手の気持ちはどのようなものであったのでしょうか。

 

そもそも保有している技術に差があり過ぎます。それを埋めてあくまでも立ち位置を公平に設定した上での勝負ならばいざ知らず、機械加工の会社にジェットエンジンの技術はありません。おそらくは発想すら出ては来なかったのではないでしょうか。

知恵とは思考力のみならず持っている情報量でも差が出てきます。私には何となく持てる力を最大限に活かして頑張る中小企業をあざ笑うかの様な不気味さを覚えるところがありました。日本の多くの加工業を主とした中小企業を応援するようには映りませんでした。

 

NHKのエリートが机上論で作る番組の真骨頂というのが実感でした。

 

こうして若者は大手企業に吸い寄せられていきます。「やはり中小よりも名の知れた大手だな」という構造に拍車が掛かる次第です。私もかつては業界的には大手と云われる会社に所属していました。独立してつくづく思うのは、人はやはり内容の前にネームバリューでフィルターをかけるということです。

採用で履歴書判断するのと同じです。私の持つ能力に違いはないのですが。日本では更に海外コンプレックスがプラスされて、外資系コンサルというだけで手放しの会社も一杯あります。

内容よりも名前。サラリーマンのリスク回避としては最高の抗弁でもあるのでしょう。しかし現実は上記のように単にそういった名目だけではなく、実際に人数面や情報面など能力限界があるのも事実です。

 

一方でロボットベンチャーや中小機械加工会社の若者の創造力もコミットメントするパッションも捨てたもんではありません。ホンダさんの若手と堂々と張り合える勢力が漲っているのが画面からも滲みてていました。

そういった人達をもっと活かせないか。それが、私が創業した本意でした。もしもNHKの真意がそこにあるならば嬉しいし、だったらもっと熟考した企画を考えてほしいと切に願うところです。

 

中小が成長するには、開発力による資源しかありません。そして一点集中で市場認知の壁を突破する以外に方法はありません。先のGROOVE X社も初めにペッパー君があって、そのネームバリューがあってこそ若者が参集している実態があります。では弊社のようなコンサル会社では何を開発すれば良いのでしょうか。

 

 

コンサルタントの仕事 感情のうねりとともに生きる

そもそもコンサルタントというビジネスは学者の理論と会社組織の実践とをエンジニアリング技術によって橋渡しするビジネスです。日本は学者コンプレックスがあるのか学者信奉が強い国ですが、本来学者の仕事は研究です。

医者で云うところの基礎医学です。そこにコミットしている人であればある程研究が日常で、そうそう在野にてエンジニアなどする間はありません。学者は事象における本質を見出して一般化するのが仕事だからです。

ですからいくら学者に相談しても実践学としての解決のための技術や持っていき方を持ち合わせている人は稀有です。

 

従って実践はあくまでも現場自身の創意工夫ということになります。確かに大企業ならばそう云う役割を担う人を社内で持ち合わせることも可能でしょう。しかし中小はそう云うわけにはいきません。そこにコンサルタントの使命があるのです。

 

読めばわかるではなく、実践の時に出てくる暗黙知。医者で云うところの臨床医学です。前回技術に関するエンジニアの話題の時に出てきた管理や人間的な問題は、組織活動上の至る所に見られます。

ですから組織という仕組みを円滑に動かすにもエンジニアリングは求められます。それは組織が大きくなればなるほど、人間関係が複層化すればするほど、複雑性が増せば増すほどにです。

 

とりわけ「読めばわかる」「知れば解決する」といった論理としての「形式知」(通常コンテントというのがそれです)面での問題解決は意思疎通の面でも容易です。しかし「暗黙知」(プロセスというのがそれです)は水面下で機動しますから問題解決の困難度は格段に上がります。

その為この面への認識不足や対応の能力不足によって問題解決が暗礁に乗り上げると手に負えないレベルになります。机上論で簡単に「教えれば分かる」とか「話せば分かる」というレベルなわけではないのです。そこで意思疎通が拗れると暗殺事件ものになる得るわけです。

 

しかもプロセスの中でも感情的な疎通を軸とするメンテナンスプロセスとなるとことは更に厄介になります。現在コーチングとかファシリテーションという考えや技術が巷間に広まって来ていますが、その殆どが云っているのはタスクプロセス面ばかりです。理屈が通る状況を作れば物事はスムースに動くといったものです。

 

しかし「嫌なものは嫌」。人は気持ちが拗れると理屈はまず耳に入らなくなります。感情が思考を凌駕してしまうのです。プロセスを処理するにはこういった人々が描く気持ちをハンドリングして理屈が通る状態に持っていかなくてはなりません。

これは理屈としてのプログラムとは別に実践する人材の能力を開発しなければ成立しません。そう、コンサルタントというビジネスの商品はプログラムのようなソフトウェアに加えて実践する人間のヒューマンウェアが合わさった存在であるといえます。

 

組織を円滑に動かすにおいて現場を実践的にハンドリングするには、商品たるコンサルタント自身が一般人ではハードルが高い感情の自己抑制をして、組織の高ぶる、あるいはシラける、反発し合い牽制し合うような感情のうねりを収め、組織が目的達成活動以外に無駄なエネルギーを使うことのないようにエンジニアリングする力が必須です。

そういった技術は非常に重要です。だからこそ早々に身につけられるものではありません。

 

ただでさえ感情的になったお客さんを鎮めるにはまともに感情の波を受けるわけですからかなりの胆力が要求されます。これは非常に高度な能力です。社内的にそれが出来る人は稀有と云えるでしょう。ましてそう簡単に開発できるものでもありません。

 

忙しい現業の組織活動の中で一々そんな修練をしている余裕はそうはないからです。殆どの場合素質に依存しているのが実際です。これはコンテント面での研究に没頭する宿命にある学者も同様です。

こういった暗黙知的能力を軽視して問題発言をしたり、無知や無能によって組織を掻き回したりする学者も引きを切らしません。言うことは立派なのだが何もできないとか返って混乱が増したなどという恨み節はよく耳にするところです。

 

まあ不勉強に入れた側の無責任にも問題があるわけです。ともかく「話すにはまず話すための土壌を作らなければならない」。この組織運営上の急所が分からない人が一杯います。それこそ情報の限界が思考の限界な訳です。

 

私はコンサルタントという仕事の本来の使命はまさにそこを円滑にすることにあると認じています。しかしそれは単に戦略とか組織開発といった理屈の提供ではなく、現地での会合の中で起きるドロドロとした情動的なうねりを様々な理屈の実践適応から積み上がった技能を持って交通整理する実務です。

コンサルタントを選ぶときにはここを見る

今世で名の知れたコンサルタントの殆どはタスクプロセスに関するエンジニアリングです。肝心なメンテナンスプロセスにタッチするところは非常に数少ないのが現状です。彼らはメームバリューを持ってそれだけでもやっていけるのですから面倒だし手離れしがたいところに手を染めないのはある意味賢明でしょう。

それが出来る人材を育成するのは自分たち自体が大変だからです。でも果たせるかな本来企業組織が問題解決として欲しているのはそのドロドロの処理にあります。それ以外は自助努力で何とかなるのが実際のところです。特に中小企業においてはそれが致命傷になっているところが沢山あります。

 

だからこそ、弊社ではメンテナンスプロセス面での問題解決を主眼にプログラムや技術の開発を行ってきました。しかしプログラムや技術が論理提供になっては元も子もありません。それでは大手と同じ土俵で活動することになります。それでは創業の意思に反します。そして弊社の活路も見出せません。

 

経営活動のエンジニアリングを謳う企業としては、前回紹介させて頂いた技術エンジニアリングのように、理屈の開発は入り口として、その知識や理屈を踏まえて実践として経験値を持って実践的に介入できる人材が商品でないと意味をなさないわけです。

具体的には自身の感情を抑止して自分の波風を流させて、人や集団の感情の機微を察し、生産的な方向にハンドリングできる技能がプロセスコンサルタントの要件です。

 

裏はともかくお客さんの前ではともかくポジティブで覇気を持って人に気の影響を与えていかなくてはなりません。少々の修羅場はケセラセラと受け流し、冗談やエスプリ(※機知のこと)を持って場の空気を制御し、周りの気を上昇気流に導かなければならないのです。

私はそれが出来る一流のプロセスコンサルタントの育成こそが中小企業たる弊社の成長の足掛かりであるという信念を持っています。そしてそれが売りの会社になるべく日々を送っています。

 

先だって内の若手が、「劣化するオッサン社会」として以下の定義を紹介してました。

・古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を拒否する

・過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない

・階層序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る

・よそ者や異質なものに不寛容で、排他的

 

共通するのは、感情的な柔軟性のなさです。ポジティブで明るい受け答えができなくなるのは若い時の訓練不足と胆力のような器の狭量さです。歳をとると未来が狭まり、能力も衰えて次第に保守的で頑固になってきます。しかしそもそもは若い時に心のストレッチがどれ位され、レジリエンスがどれだけ鍛えられているかが要諦です。

そうやって見る限り、これはオッサンというよりも若い人の方が危険な兆候が見られ始めています。打たれ弱い。自分中心的(利己?)思考、無目的。かりそめの贅沢の中で心が貧困になってきています。

 

プロセスコンサルタントの能力要件でもありますが、社会がもっと豊かで楽しくなるには、若い人たちが下り坂のオッサンを憐れむような姿勢でいるのではなく、それ以上に庇ってあげられるようなスタンスをもって、明るい目標と強靭な対人関係力を身につけることがより強く火急の課題となっているように感じます。

今の人たちは物理的には余裕があっても心理的に余裕がなくなっています。心の在庫を持つ工夫がいりますね。

 

 

そういう視点では今回の「魔改造の夜」は面白い取り組みであると思います。何よりも参加した3チームの若者たちが一定の目的に対して協力する姿や本音でコミュニケーションする姿は、活性する組織のあるべき姿を明確に映し出していました。そこでは3チームはまさに平等で、同じエネルギーの色を発揮していました。

私的にはとても勉強にもなる番組でした。※多分BS NHKで再放送はすると思いますので、興味がある方は是非。

 

さて、皆さんは「ソモサン」?