潰れる経営者の共通点を成功者の教訓からみる

~素人経営の恐ろしさは常に足元を脅かす

先だってある大手の倒産直前の企業を立て直した経営者の話を耳にしました。非常にシンプルですが全てその通りの内容です。私も幾つもの会社で同様のサジェスチョンをしてきています。ところがそのシンプルさが仇となってか助言を聞き入れず、何処かに正解があるかの如くコンサルティング・ホッパーをし続ける経営者がいます。

共通するのは「現場に行かず口先ばかりを弄する」「吝嗇で安物買いの銭失いを繰り返し、本物の価値が鑑定できない」ということで、一言でいうと「経営の素人」ということです。主に天下りや農協の様な協同組合にいますが、実権だけは握っているので厄介です。

 

今回は一流のプロ経営者の金言をご紹介したいと思います。

「やるべきことは少しでも売り上げに繋がる工夫を集めることしかありません。経営に正解がないように奇策はありません。店舗運営の場合、商品の棚を変えたいのか、POPを作りたいのか、お客さんを読み込むためのDMを打ちたいのか。多少お金が掛かってもそれ以上に売り上げが期待できることがあれば良いんです。私はただそれを社員に求めました」。

そう戦略は単純です。これをやれば売れるとか、これをやれば確実に業績が上がるといったコンテンツなどは何処でもやっているし、それを真似るのも手ですが、そこに鍵があるわけではないのです。ところが現場を知らない人は、無知で無経験が故に「売り上げが上がらないのは上手いコンテンツがないからだ」と軽薄で浅慮に発想するのです。

プロはこういうことを言っています。「現場に求めるのですが、そうそう簡単にはアイデアは出て来ません。例えば、えっお金を使っても良いのですかとか、勝手にレイアウトを変えてはいけないのではないかなど、長い過去の経験の中でそんな間違った思い込みをしている社員ばかりなのです。社長が言っているのにも関わらず、皆今までの流れに染まって変化に追いつけず、すぐに反応が出来ないのです。バイアスの罠に嵌ってしまっているのです。社長が言ってこの有様ですから、外部の人間の助言などどれくらい真摯にアプローチしても内容以前の問題です」。

そう、こここそが論点です。これが現場知らず、勉強不足の経営者には分からないのです。これは戦略ではなく組織統治というリーダーシップによる意識の問題なのです。

 

~組織統治とはどういうことか

このプロ経営者はそこを喝破しています。「仮に売り上げが下がる原因になっていることがあるならば、積極的に提案して修正すれば良いのです。私は、私が責任を取るのでどんどん変えろ、と現場に赴いて直接号令しました。最初は社員たちも半信半疑でしたが、社長が直接言うわけですから、その内、もしできるのならばと前置きしながら、改善意見や提案を口にするようになって行きました」。

そしてプロはこう続けます。「でもおかしいですよね。もしできるのであればって」。「ビジネスの世界でできないことって法を犯すこと、社会的倫理を超えるようなことぐらいなものでしょう。後は何でもできるんですよ。もしできるのであれば、ではなくてビジネスでは殆どのことができる。それよりもあなた自身がやりたいのか、やりたくないのかが一番です」。

 

この経営者はそれをもう毎日言い続けたそうです。言い続けることで、自分で考えて動く人たちが徐々に出てくるし、そのうちに小さくても成功例が出てきたそうです。外部のサジェスチョンも経営者自らが評価的ではなく、それを後押しするように口酸っぱく言い続けて漸く手を付け始め、それが少しずつ実を結び始めるとやっと信じるような前向きな声が出始めるようになったのだそうです。そこでやっと売り上げが下げ止まる店が出て来始めたということでした。

この経営者は引き続いて、こうしてうまくいったことを他の部署にも共有しようと毎週月曜日の昼12時から全ての責任者に集まってもらうようにして、自分が直接関わる会議を開いたそうです。これは全盛期のセブンイレブンも当時の鈴木会長の肝煎りで実施していました。更にこの経営者は、金曜土曜は「キャラバン」と称する店舗回りを、自分自ら車を運転しながら行ったそうです。そして当時の社員の60%とは毎週顔を合わせて出来る限り個別で話す機会を設けたそうです。会議の後の飲み会にも顔を出しコミュニケーションを図ったそうです。

これは京セラが飛躍する際に稲盛さん自身が行ったこととも類似しています。コンサルタントでも現場の人たちと一体になる上でこういった動きに感受性が働く人材はやはり一流になっていきます。

この社長はこういった行動に対して面白い発言をされています。

「おそらく今、私以上に社員の顔を知っている人はいないと思います。瓦版と言われるほど誰と誰が仲が良いとか、悪いとかまで把握しています。支店長や課長よりも現場の社員と繋がっていたりしています。やはり会う頻度が高まるほど、情報伝達や仕事のスピード、熱の伝わり方が違ってきますね」。「会議で決めたことは翌週にはチェックします。一週間放置する案件はありません。かなりスピードが速い組織なってきたと思います。特に若い社員の目が輝き始めました」。

この経営者はこう総括しています。「駄目な組織に共通しているのは、①会議で物事を決めない、➁誰も責任を取らない、③決めたことをやらない、④部署を超えた協力がない。そして⑤経営者を筆頭に、リーダーたちが現場を知らず人の配置が出来ていない。逆に言えばこれらのことをきちんとやれば良いのです。ただ社員たちは間違った考え方で凝り固まっています。この固定観念、バイアスを壊し、後は適材適所でその人が向いている場所で能力を伸ばしてあげるようにすればいい。やがて成果は必ず出ますよ。

1年間365日、社員と一緒にいればみんなの適性は分かりますよ。現場にずっと張り付いて働き続けるのが良いとは思いませんよ。ただ小売りの場合、現場で何かあった時に常にサポートし合わないといけませんので、休みの日でもチェックだけは事欠かないとかリーダーとしての意識は常に現場に向けておかなければなりません。人間って120%の力を出し続けると壊れるんです。でも95%だと劣化していくんです。ですから行動も気持ちも常に110%位で動いていれば成長していけます。しかし経営も単位が大きくなると経営者が自ら現場に赴くには限界が出て来ます。最初の起爆としては自らの演出が重要ですが、持続となると誰かに任せなければならなくなります。

一番危険なのは、経営者が現場を信用できなくなって現場の人たちの仕事を取り上げてマイクロマネジメントをし始めることです。ですから任せることが必要になります。しかし自分の愛車の鍵を預ける如く、信頼できる人材でなければなりません。外部の活用よりもまずは自分の大事な仕事を任せる内部人材をシビアに見ることです。そういった基礎条件をないがしろにして果実だけを期待するのを無責任というのだと私は思います。またそういった自己保身ばかりで、腰巾着的に苦言も言えない人間を自分の周りに集めているくせに困り顔をしている経営者は論外です。

私が任されたこの会社の経営者はそういう人でしたが、これで経営が傾かないわけがありません。でもここで言いたいのはそこではありません。多くの組織にとって社員は端から無能なのではないということです。経営者はまずは自分を振り返りなさいということです。立て直しをする場合に重要なのは、責任を下に振るが自分は手を汚さない経営者を見て社員の今の行動になったということに経営者自らが気付けるか、ということです。社員一人一人が指示されずとも行動できるようになる前に、社員に信用される経営者であるかです。

ともかくそこからしか始まりません。私が上手くいったのはそこから目を背けなかったからです。信頼されるにはまずポジティブな関係作りです。それには自らが身を正したうえで社員をポジティブに見ることです。そして行動としては褒めることが大切です。日本の経営者は褒めないですね。特に皆の前で褒めない。どんなに小さなことでも皆の前で讃えるべきでしょう。そしてその精度を上げるには経営者が現場の声を直接真摯に聞くことです。喋る前に聞くことです。人は聞いて貰ったうえで違った判断になっても納得してくれます。

それを高めるには現場に何度も赴いて個別に対話することです。仮に自分の気持ちを相手に伝えたいと思って話したところで、相手が受け止めるのはその4分の3です。それくらいしか届かないものです。更にそれを別の人を介在したらさらに減っていくわけです。だから200%、300%の情熱で語って、始めて自分の気持ちが100%程度に伝わるのです。ですから伝えたいことはみなぎるほどの熱量で直接面と向かって語らなければなりません。大きな組織の場合は、代弁者が必要です。その時は社員と自分を繋ぐ人が理屈を知っているとか知見があるとかではなく、経営者の気持ちに共感できる人を登用しなければなりません」。

 

私もコンサルタント会社の経営者として全く同意ですし、この経営者が語る組織管理を常に記銘しながら活動しています。経営者の思いを代弁するということは経営者に箴言が出来るということに繋がります。そして現場に共感して現場を見据えてきちんと対話が出来るということです。自分の仕事は理屈を駆使したり、自分を振りかざしたりすることではなく繋ぎに徹するということが理解できているということです。

大前さんが「企業参謀」と名付けた意味合いであり、日本航空の再生もこれによって成功しました。戦略ではなく一体感を持った組織作りに改革できたことこそ成功要因ということです。自分の保身を優先させる人材は内外問わず害悪です。ところが今の苦痛逃れに行動する人がどこの組織でも後を絶ちません。その場は凌げてもその行為は結局は早晩に自分の首を絞めることに繋がるだけです。それが深謀遠慮できない人材を身の回りにおいて、自分自身対処療法的に浅慮に振る舞う人が自己瓦解するのは仕方のないことです。

コンサルタント会社も経営者を選ぶ識別眼をしっかりと養う必要があります。わが社はそういう会社でありたいと切に願う次第です。それには一にも二にも「貧すれば鈍す」に陥ることのないような仕事ぶりを怠らないことだと自明する毎日です。

いやあ、コンサルタントという職業倫理からしても経営者という責任からも本当に人ごととは思えないと実感するばかりの教訓です。

 

さて、皆さんは「ソモサン」