マスコミが平気で垂れ流す節操なきバイアス報道の怖さを考える

ネットでニュースを読んでいると時々面白い記事に出くわします。今回はアンコンシャスバイアスが生み出す恐ろしさをさりげなく語った一コマを紹介させていただきます。その題も「佐藤浩市のインタビュー原文を読んだら、完全に原文と文脈を違えて引用した産経記者のやらかしであった」。

~バイアスの魔力~

皆さんの中でもご存じの方がいらっしゃると思いますが、昨年俳優の佐藤浩市氏が出演した映画の登場人物に対してコメントして、それが大炎上したという報道がありました。これによって佐藤氏は「三流役者」という汚名まで受けたのですが、私はあれほどのベテランがそう安易に軽口を利くのであろうか結構疑問視していた記憶があります。

その後様々なメディアが、「コメントの原文を読んだが、これ悪口などではないのではないか」という声が上がり始めました。

原文を読む限り、私的にもこれは「自分は反体制の中で生きてきた世代だが、人間的弱さを抱えながらも最終的には責任感ある総理大臣に共感した」というむしろ賛美するような内容としか思えないのです。

佐藤氏の「ストレスに弱くてお腹を壊しやすい設定にしてもらった」という発言に焦点が当たっていましたが、これも原文では「そういう気弱な人が危機の中での総理という立場から成長していくプロセスである」と語っています。

どうやら事の発端は産経新聞の記者のネット投稿がきっかけらしいですが、この記者の捉え方は、「最初の総理を演じることに抵抗があった」からいきなり「お腹を下す設定にしてもらった」飛ばしたという、昨今の記者が良くやる都合の良い部分の切り貼りによる解釈による批判で、しかも多くの人が原文も読まずに新聞記者の言を鵜呑みにした炎上騒ぎという、これまた昨今良くあるネットバッシングの様なのです。

 

しかしどうしてこういうことになるのでしょうか。

このコラムの筆者は、「多分雑誌や新聞社に勤務する人、政治的立場の左右も問わず、まともな国語力を持って入社試験をパスして言葉ということを生業にしてきた人であれば、これをどう読めばあんな解釈になるんだ」と皮肉っていますが、私も同感です。そして彼は「この映画の主人公である総理大臣を俳優の重鎮に投入してきた製作者が揶揄によって成立できると、佐藤氏の申し出を簡単に了承したとでも思うのか」とその知恵の浅はかさを嘆いています。

この記者は、原文を読みながらもそれを理解できなかったレベルの思索力で、「ネットでサヨクが総理の病弱を馬鹿にするから佐藤氏もそうだろう」という文脈でバイアス的に捏造した引用文を私的だからと安易に流したのだと推測されますが、それにしてもそういった記者を野放しにするデスクや構成がいる新聞社って一体どういう責任体制なのだろうか。新聞記者という立場はすでに「社会の木鐸」ではなくなったのかもしれません。

しかしそれでも世の人たちは新聞が書くことは例えゴシップでも全体の4分の1が信じてしまうというデータが出ているわけです。作家の百田氏や幻冬舎社長などなど、本来は知恵の最右翼と称されるような人ですらが、検証もせずに大騒ぎしてそれこそ品格を疑うような罵詈雑言や人として絶対にしてはいけない決めつけという文化人とは言えない愚かな行為をしていましたが、それもひとえに新聞社ならば正しいというバイアスの魔力に飲み込まれた結果なのかもしれません。

~バイアスがもたらす混乱

それにしてもこういったことをやらかす今のマスコミの知力とはどういった有り体なのでしょうか。思い込みや決めつけといったバイアスを平気で横行させ、メディアという権力で拡散させていく。しかも彼らは犯罪まがいのことをしても謝罪をしないのです。こういう姿勢を子供が見ていてどういう人格や品格に育っていくでしょうか。

バイアスが人に不信感を芽生えさせ、人間関係を破壊していく。昨日もとある倒産間際に陥った会社の内部調査に行きましたが、上下左右バイアスが横行し、コミュニケーションは完全に不全状態でした。組織開発とは即ち組織内のバイアスを除去することに他なりません。中でも難しく大変なのが、間違えていないという錯覚に陥った無意識のバイアスです。無意識がゆえに意識し辛いわけです。

面白いのは、バイアスが強い人ほど当然軋轢が強く、結果バイアスによって自己防衛が高まりバイアスがスパイラル的に高まっていくという皮肉です。自己を正当化することに関心が偏向して正解探しに終始し始めます。答えのないものや様々な見方があるものまで自分のための正当化をしようという目的に奔走し始めます。そして物事は進展せず、誰もが相手をしなくなり、最後は意固地による孤立です。そうなると情報は全く入ってこなくなります。

バイアスからの脱却はエビデンスベースでの思考と内省による思考や感情のバランス化ですが、孤立状態になったらもはや手立てがありません。失敗によるリセットあるのみです。果たして立ち上がることができれば良いのですが、多くの場合は気分障害への道に真っ逆さまです。

マスコミの人を見る限り、深いバイアスに陥る人は、自分は頭が良いという抽象的な思いへの拘りが強まり、そこへ意識が集中してしまうことによって人の言葉がフィルター越しにしか耳に入らなくなることとそれによって自分は正しい、正しくなければならないという姿勢に執着してしまう愚かさが全身を支配してしまうことにあると私は経験上認識しています。だから間違いを認められず、またバイアスであっても自分の説に拘ることしかできず、そして謝ることができないのです。これを良心なき利己主義と云います。

利己主義者に社会の代表を任じられる事態になったら後は亡国への道まっしぐらです。

ともあれマスコミをはじめ、社会的に影響力の大きい人は「李下に冠を正さず」「実る穂ほど頭を垂れる」でバイアスに対して真摯に取り組んでほしいものです。

 

バイアスとは恐ろしい力を持った存在です。人を貶め、組織を破壊します。

皆さんもまず謝ることができない人を周りで探してみてください。バイアスの何たるかの一端が見えてきますよ。

そしてマスコミ報道は安易に信じないで、多角的に読み解きましょう。今の若手の記者は知偏重の教育で意という判断基準を持たない輩が多く横行しています。ほんと信用できませんよ。

 

因みに佐藤浩市氏の原文インタビューはビッグコミック誌に掲載されています。

 

さて、皆さんは「ソモサン」