グループシンクとアンコンシャス・バイアスの深い関係を知る

~グループシンクを再考する

組織行動学や認知心理学の中に「グループシンク」と云われる心理行動に関する仮説があります。グループシンクは「集団思考」とか「集団浅慮」と訳されていまして、集団が合議を行う際に不合理で時には危険な意思決定が罷り通ってしまうことを云います。デマや流言飛語、或いはネットでの稚拙なバッシングもここから生まれてくるという意見もあります。

集団思考での失敗における顕著な例として「スペースシャトル チャレンジャー号の爆発事故」があります。チャレンジャー号の爆発原因は、燃料タンクを繋ぐOリングというパッキングが気温の上下差に対応できずに亀裂を生じ破損した結果、外部燃料タンクの構造的破壊が生じ、空気力学的な負荷により船が一瞬の内に破壊されたことが究明されています。

そしてその遠因として、この危険性をNASAの担当者は誰しもが認識していたにも関わらず、「多分大丈夫だろう」とばかりにやり過ごすのみならず、異見に対して集団圧力で暗黙の言論統制を掛けてしまったということが重要インシデントとして取り上げられたことから、組織行動の側面が注目を浴び始めました。

 

さてこのグループシンクですが、特に集団の凝集性が高いほどそれに陥りやすいと云う、個人のポジティブな心理が生み出す捻れ作用が最も重要な特徴として挙げられます。例えば集団によって合意形成された(と信じ込んでいる)意思が非常に非合理な内容であった場合でも、集団に所属する個人が帰属的な忠誠心でその意に対して合理であろうとする心理が働くと、それが盲信となってしまい、結果集団としての意思は矯正されるどころか拍車が掛かってしまうという歪みが罷り通るという現象です。

恐ろしいのは、集団的な意見の方が非合理、時には悪意に基づいているのに、それを盲信する人はむしろ正義だと思って突っ走るということです。更にそこに「組織を守るため」といったような看板を背負わせると、それこそ一所懸命に猪突猛進し始めるのです。

具体的に社会的な規範としてよくあるのがマスコミや学者の意見といった権威への盲従です。また最近ではネットの声におけるヘイトスピーチやバッシングのような群集心理行動などもその一例と云えます。特に日本人は集団行動が基調なので、集団帰属的心理が強く、集団圧力に屈服しやすいのでこういった捻れを無意識に頻出させます。組織における上下関係など日本では異常なほどに執着しますから厄介です。

グループシンクの兆候は大きく3つ挙げられます。

①自分たちの組織や集団を過大に評価する。自分たちは無くならないとか、自分たちの持つ倫理は絶対的に正しくて、普遍であるといった信仰が支配する。

②考えが組織集団内で閉塞的となり、外が見えなくなる。そして外に対して偏見(バイアス)を持ち出す。

③組織内の個々人が勝手に自己検閲(自分の意見が組織の合意意見から外れていないかを考え、合意意見の方を絶対視して自分の意見を封じてしまう)を始め、自分の意見を多数派の見解と一致させるように留意し始める。その内、内観が麻痺し始めて全体優先が習性となり、盲信が起こり、歪んだ見解を個人としては前向きな正義心として振りかざし始める。

~増幅するアンコンシャス・バイアス

さあ、上記のような条件が満たされた状態に陥った組織集団が意思決定や対外行動をし始めるとえらいことになります。一部の宗教や最近ではマスコミもこういった条件の中で個々人は優秀でも組織集団として浅慮になってしまった弊害が大きくなっているのではないでしょうか。特にマスコミはメディアという武器を持っていますから、歪みが拡散されて、日本全体が歪んでしまう起爆となってきているように思えます。

そして最近怖いのは緩やかな結束による社会組織の形成です。これは丁度責任共有の名の下に無責任な体勢を醸し出す協同組合型組織と似通っています。

相互に責任意識を持たず、趣味や一部の価値観だけで徒党を組む仮装集団です。実体が無くネットのようなバーチャルな空間で雲のように集合離散しながら無責任に他人攻撃をする圧力集団です。こういった輩がグループシンクを発症させたらどうなるかは、火を見るよりも明らかです。

隣国などではこのネット集団の無責任なバッシングで自殺が頻出し始めています。有名税にしては高すぎる代償と云えます。現代は未だこのネット社会への措置が追いついていません。刑法は物質的な犯罪には事細かいですが、分類や分解し辛い心の領域に対する犯罪には定義を持ちきれていないのが実態です。今は本当に野放しで遣りたい放題の感があります。

個々人が持つバイアスが一定の定義によって精査もされず、グループシンクによって歪んだままに合意形成となって所属する人たちに正当化され、群集心理の如く正義感を纏って心の集団暴力やリンチが横行する世の中になっています。本当に恐ろしいのは個々人が誰も罪悪感を持っていないということです。

所属する集団の中で勝手に自己正当化をし、それを無責任にも相互認知化させて、心の闇を公明正大の如くまき散らす歪んだ社会。これが自分が所属する身近な組織の中でも起きているとしたら皆さんはどうされますか。そして皆さんもその一端を担いでいるとしたら如何為されますか。

 

私は組織の中で革新が起きない原因、組織が現状打破できない原因の中核は、アンコンシャス・バイアスによるグループシンクとそれによって歪んだエンパワーをされたアンコンシャス・バイアスというスパイラル構造にあると見ています。

弊社が掲げるアンコンシャス・バイアスとインクルーシブ組織を生み出すポジティブ組織開発は、両者の関係を歪みによって繋いでいるグループシンクを打破することを狙いとしています。そういう意味で両者は切っても切れない関係と云うよりも、一連の流れの中にある両輪の関係にあるのです。

 

卵が先か鶏が先か。

さて皆さんは「ソモサン?」。

 

JoyBiz 恩田 勲