• 組織文化とOD㉒:組織文化の変革⑤~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-220~

組織文化とOD㉒:組織文化の変革⑤~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-220~

今回のODメディアは、計画的組織文化の変革4ステップの詳細を見ていきます。改めて、4ステップは以下の通りです。

【ステップ1.新しい組織文化のビジョンを策定する:Vision~変革内容の明確化】

【ステップ2.変革対象を設定する:What】

【ステップ3.介入方法を策定する:How】

【ステップ4.具体的スケジュールを計画する:When、Where】

 

ステップ1.新しい組織文化のビジョンを策定する:変革内容の明確化

組織文化は、価値観(バリュー)を表す言葉で表現します。価値観は、信念や行動項目を区別するために短縮された組織文化の分類方法であるといえます。(下記参照)

 

 

改めて、組織文化を理解するための3つのレベルを確認しておきます。

  • 信念:意見、方針、あるいは主義。個人や集団が正しいと考えること 。
  • 行動(または規範):信念が外部に表明されたもの。意識的、あるいは無意識的な信念を反映する。
  • 価値観:信念や行動項目を区別するために短縮された分類方法。個人や集団が重要だと考えること。

いずれにしても、新しい組織文化のビジョンを策定するには、その文化を言葉で表す必要があり、それは価値観すなわち私たちが大切であると考えていることを表現することになります。そしてそれをもとに、具体的な行動に移していきます。特に不連続の環境における新しい戦略は、必ずしも現在の組織文化とは一致しません。従って、新しい戦略を実践するには、組織文化の変革こそが戦略の成否を決めることに繋がります。P.ドラッカーの言葉を借りるまでもなく「文化は戦略に勝る」のです。また、組織文化変革にあたっては、「変えてはならない文化」と「変えねばならない文化」を明確にし、その両方を言葉として明示していく必要があります。私たちの信条として、全てを一度の変えていくというのはとても辛いものであり、大きな抵抗を感じるものです。ですから、歴史的に積み重ねてきた文化は、ある意味で組織構成員の人たちにあっては「錨:アンカー」にあたるものであり、新しい文化と持続する文化のバランスをどのようにとるのかは、変革をスムースに進めていく上でとても大切なことになります。とはいえ、新しい文化は従来の文化の悪癖を取り除くものである必要があります。では具体的にどのような例があるのかを見てみましょう。例として、電電公社がNTTに民営化された時の、分かりやすい標語を紹介します。

  • 顧客第一、上司は二の次
  • 一人称で語れ

この2つは、電電公社時代の体質がよく分かる、NTTの新しい文化形成の目標を表しています。まず、「顧客第一、上司は二の次」ですが、電電公社時代の最大の仕事は、日本全国に電話回線を敷くことでした。そしてそれは、綿密な工事日程の基に仕事が行われるのです。ですから、お客(各家庭や事業所のこと)から「うちには何時頃電話が通るのですか」と聞かれたら、工事日程を知らせておくということになるのです。そして、お客も納得するのです。ところが、NTTに民営化されるということは、電話事業は独占ではなくなるということです。新しい競争相手が出現するのです。NTT初代社長の新藤恒さんも、「民営化で大事なことは競争状態をつくること」と言っています。ところが、電電公社時代は自分達の商品(通信というビジネス)を売ったことがない訳です。ですから、当時は上司(計画)第一でよかったのですが、民営化されるとそうはいきません。顧客に目を向けなくてはならないのです。事業的にテレホンカードをつくったのは、「売る」という体験を組織的に実施するためという意味が大きかったといいます。事実、最盛期にはさまざまなデザインのテレホンカードがありました。ということで、「顧客第一、上司は二の次」は、旧来の組織文化変革には、顧客第一では足らないと考えたのです。後ろに「上司は二の次」といれたのは、そんな事情があるのですね。

次に、「一人称で語れ」ですが、これは電電公社時代の官僚的組織文化を変えていこうという意図が込められたものです。既に述べたように、電電公社時代の仕事は計画的に電話回線を敷くことであり、NTTになった後でも、社内では「土管屋」という言葉があったほどです。官僚的文化の特徴は、決まったことを決まった通りに遂行する、全てに合理性と秩序を追求し、合法性・正当性や責任・権限の規定を優先して考えるというものです。そこには「私」という主体は存在しません。新藤さんが総裁や社長の時代、管理者にいろいろ問うと「それは、~~という決まりの中で」とか、「それは、~~では〇〇となっていたと思いますが」というような、制度や仕組みという事柄にすり替え、質問された本人の言葉で自分の考えを述べるということがなかったようです。ということで、「一人称で語れ」とは自分の言葉で語れ、個々人がもっと主体的に考えて行動しようという意味が込められているのです。

もちろん、新しい組織文化のビジョンは策定して終わりでは何の意味もありません。経営トップや上級管理者の仕事が、組織文化のビジョン策定で終わってしまうと、新しい価値観は誤魔化しに終わり、従業員から冷たい目で見られることになります。リーダーシップは、組織文化の変革を成功させるうえで欠かせないものであり、それは経営トップ(社長やCEO)を超えて、各階層で実践されるものでなくてはなりません。つまり、組織のあらゆるレベルで旗振り役がいる時に、組織文化の変革がうまくいくのです。それには、少なくとも3つのリーダーシップが必要です。

①Magic Leadership:変革の方向付けをし、メンターとして人々の活動を支援する。通常、その組織のトップマネジメントである。T

②Institutional Leadership:変革を促進する制度や仕組みを整える役割を担う人たち。通常、役員チームとそのスタッフたちである。

③Instrumental Leadership:職場の中で模範となる行動を実践する人たち。通常、中間管理者や現場のリーダーたちである。ポジティブ組織開発の世界では、ポジティブエナジャイザーと呼ばれる人たちのことである。

次回のODメディアは、「変革対象を設定する:What」「介入方法を策定する:How」に言及していきます。(続く)

参考文献「不連続の組織変革:D.ナドラー、R.ジョーンズ、A.ウォルトン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。